3年間疎遠だった幼馴染と同居することになった。

久住子乃江

第1話 同居

「りくとぉ〜〜〜!!! 起きろぉ〜〜〜〜!!!!」


 母さんの甲高く、頭に響く声で起こされた。部屋の扉を数回叩いた後、俺が起きたことを確認した母さんは一階へ降りて行ったようだ。数十秒したところで、意識が徐々に覚醒してきた。


「ふぁ〜〜〜。ねみぃ」


 大きな欠伸をしながらベッドから降りた。


 どうして日曜日に起こされなきゃいけないんだ。日曜日くらいゆっくり寝かせてくれよ。


 俺は心の中で文句を垂れながら、歯磨きなどモーニングルーティンを済ませた。


 文句を声に出さないのは、出したところで母さんが変わるとは思えないからだ。言い合いに発展し、余計な労力を使うくらいなら最初から無駄なことはしない。


「おはよ」

「おはよー。今日くらいちゃんと起きてよね」


 何かあったっけ……?


 俺はまだ完全に目覚めきっていない脳みそを働かせる。


「あ、母さんたちが海外行くの今日だっけ?」

「そうよ。そろそろ出る時間だってのに、全然起きてこないからそんなことだろうと思った」


 今日から父さんの仕事の都合で、二人とも海外に引っ越すことになっている。そんな大事なことを寝ている間に綺麗さっぱり忘れていた。

 そんな大事な日なのだから、母さんが起こすのも無理はない。悪態をついていた息子を許してくれ。

 

「一人息子を置いていくのは、心配だけど……あんたは意外としっかりしてるし、大丈夫よね」

「意外は余計だよ。まあ、俺の希望で残らせてもらうんだし、なんとかやっていくよ」


 学校には友達もいるし、この町から離れたくなかったので、無理を言って残らせてもらうことになった。


「そうね。それに──ふふ、何でもないわ」

「なんだよ。言いかけてやめるのかよ」

「まあまあ、すぐにわかるわ」


 母さんはそう言って玄関まで歩いて行った。


「そういえば、父さんは?」

「外よ」


 そう言って、玄関の扉を開けると──


「え?」


 扉の向こうにいたのは父さんだけではなかった。


 隣に住んでいる、柏木家が家族勢揃いで父さんと談笑していた。

 俺のことを子供を見るような目で見てくるのが、柏木凪沙かしわぎなぎさ。幼馴染だ。凪沙を挟む形で立っているのが、凪沙のご両親だ。


「おっ、起きたか。今日からお前たち仲良くするんだぞ」


 父さんは満面の笑みでそう言った。


「は? え? どういうこと?」


 父さんのよくわからない発言に疑問符以外浮かばない。


「今日から私たち一緒に住むんだよ」


 凪沙が乾いた声で言った。


「……はぁ!?!?!?!? なんで俺がお前と住むことになるんだよ!」

「朝からでっかい声出すなよ。すみません。うちのバカ息子が」


 頭が追いつかない。

 俺と凪沙が一緒に住む? は? 


 えーっと、は?


 俺はてっきり今日から両親が海外に行くから、一人で暮らしていくのだと思っていた。それがどうして隣に住む幼馴染と住むことになってんだ?


 意味わかんねぇ。


「そういうことだから、よろしくね」


 凪沙は冷静なトーンで言った。


「いや、よろしくって言われても、困る。よろしくを拒否させてもらう。母さんなんでこうなるんだよ」

「ちょっと、陸人。クチ!」

「まあまあ、陸人のお母さん。陸人はまだまだ子供なんです。わがままを言わないと死んじゃう年頃なんです。私は全然気にしてないので、大丈夫ですよ」

「凪沙ちゃんは本当良い子ね! 陸人も見習って欲しいわ」

「わかったわかった。見習うから。そんなことよりどうして俺が凪沙と住むんだよ」


 反論したい気持ちは山ほどあったけど、ここで反論したところで話は前に進まない。俺が聞きたいのは、なぜ凪沙と一緒に住むことになったか。


「ほらまた、そんな口の聞き方。まあ、説明してなかった私たちも悪いしね。えっと──」


 母さんの話によると、凪沙のご両親も転勤でこの町を離れることになったらしい。そんな偶然あるのか? って思うけど、あるらしい。

 凪沙にも学校に仲の良い子がいるし、俺と同じような理由からこの町に残りたいと言ったが、男の俺ならともかく、やはり女子高生を一人にするのは親的にも不安だったらしい。


 そんなことをうちの両親に話したところ、ちょうどいい奴がここにいるという話になり、その後もなんだかんだあり、俺と二人なら安心だ!という結論に至り、同居することになったらしい。ハハハ。意味がわからん!


 男と一つ屋根の下で住む方が問題大有りだと思うが、なぜか俺なら大丈夫という謎の信頼感があるらしい。


 どうやらこの話を聞かされていなかったのは、俺だけらしい。ひどくね? 家族ってなんなの???


 反対するだろうから伝えていなかったという母さんたちの言い分。聞かされていたらもちろん反対した。俺にも人権ってもんがあるはずなんだけどなぁ……。


「じゃあ、陸人くん。うちの凪沙をよろしくね」

「は、はい」


 さすがにご両親から頼まれれば断ることができない。


 今日から幼馴染との同居生活が始まるのだった。

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