空気(ぼく)たちの町においで

@uepn

1章 おわりではじまり。

001 捨てられたあ。

 捨てられたあ。


 20日馬車にられて、お尻がもう限界って。イヤイヤって思っていたら、げしってられて荷車から落とされた。ほらよって、果物いっこ。

 これってぽいってやつ? 飼えなくなったらポイってするって聞いてた、あれみたいだけど。新しいの買ったから要らない、捨ててっとかきちゃった〜とかっていう・・・ぼくって捨て猫?

 かまってもらったことってないんだけど。ていうか見えてもいなかったしね。チョロチョロはしてた。コソコソやノソノソ、モソモソもしてたけど。何にもくれないから、しょうがないよ、ね。


 僕ね。おいしいの好き。食べたいの作るの。トントンして、かしゃかしゃ、じゅうじゅうって、こっそり。

 見栄えも大事。目のスパイスってこと。からくない方。

 でね。時々、時間経っても大丈夫だなってゆうの作ったときは。置いとくの。朝一番に来た人が「天使の皿だ」とか、ラッキーとか、つぶやいてコソコソおいし〜って言うのを夢の中で聞く。

 ここにいるよ。嫌わないでって・・・

 

 こんな風にされるって、何時いつっていうのも知ってた。どうして、も分かってる。物語の、ばばば〜ん「残念なお知らせです!」が〜んっていうのも無かった。

 いっぱい準備もしてた。これからの計画もあって楽しいの。

 でもね。気持ちは別。全部分かってる、分かりすぎる。

 馬車に放り投げられて、街が見えなくなるまで、涙が止まらなかった。


 御者の人たち、僕を落っこどすと馬車の向きを返して「終わった終わった」と言いながら、そのまま行ってしまった。来た道を行くと、たぶん家には帰れない。

 狩りは、どっちもへたっぴだった。手ぶらが多かった。旅行では保存食だけじゃ足りないし、携帯食は美味しくないから現地調達っていうのをする。なのに採取も下手で料理も。で、だんだんとフキゲンになってきて、時々ケンカしてた。でもケンカするほどって。すぐ元通りだし。


 ずっと、林が続いていたんだけど、木々が濃くなって、開けたとこに出た時に「ここで捨ててこうぜ。途中で時間潰せば分かりゃしねえ」「けっ、そうだな」ってことで、ぽいっと。

 まあ、知ってた。読み通り。ここって・・ね。依頼主あれからの命令は、ずっと先の高い山のとこ。たぶんあと5日かかる。そんなだから、こんな依頼をやらされるんだけど、こんなに高くて簡単なお仕事をこんなに手前で放り出すとか思ってないだろうなあ。ふふふって。

 

 道中は20日もあった。あんまり食べ物くれなかった。こんなに腹ペコのは、かなり久しぶり。

 ぐ〜とか、きゅぅぅぅがうるさい。でも、それで悲しいが続かなかった。いや腹ペコが悲しかったのかも。


「さてと・・・」

 

 あの人達が、僕のオワリを願って、あそこって、遠すぎてかすんでいる山脈を指しただけ。で狙い通りここ。適当に言ったところが誘導されていたなんて、世界があの城壁はこの中にしかない人には一生気付くことはないなあって思う。


 こんなにステキな場所(ぼく調べ)なのになあって、僕の長年の情報収集が正しいかドキドキしてる。

 僕は巫女みこ(男だけど)なので、妖精さんにお願いができたりする。男なのにって嫌がられても、すぐぽいされなかったのは、とっても能力が強かったせいだったりする。でも、だったなあ。


「風さん、風さん。周りのこと教えて」

 口に出す必要は無いけれど、心配と期待で声が出た。なんか、すごく妖精さんの気配が濃くてビックリした。祝福された土地って頭に浮かぶ。

 ぱあっとなんか広がっていく、どばって感じのかなり厚いのが出て、いつもと違うって感じ。

 歩いて1回休憩するくらいの所にはトリとか、ウサギとか、牛っぽいなんかとか、種類までわかる。狩りの対象ぼくのごはんになる生き物が濃い。危険なものはいない。よかった。

 さらに広げて、広げてってやってると大集団が引っかかる。先頭の集団がなんかムキムキ気配。でっかい剣振り回しているっぽい気配の人もいる。僕を捨てた人をきゅっとしちゃうな、ぜんぶ知ってるし。

 帰れなかったねって、ご苦労様って、どんな顔だったっけって考えた。


 ん〜と、500人くらいかなあ。多い! 荷物すごっ。家ごとなの!!?

 バレないように少しずつやるぜ!って 言ってたような・・・


「お知らせ お知らせ。まだ遠いから高めにしなきゃ」

 ポイされたときに一緒にバラバラって落っこちたまきを一本取る。「ぎゅ〜」っと小さくするイメージに赤い色のイメージを足すと、球になる。なんか赤くほんのり光っている。それを何回か繰り返すの。

 ぎゅ〜って。爆発だぁって。くすくす。


「かわいいっ」

 手のひらにはコロコロする色々な色の玉がいっぱい。キレイだけと、取扱注意の危ない爆発物。


「せ〜のっ」って、上に放り投げる。すると、すごい速さで飛んでいって、いいかなって思うところで「た〜まや〜」(捨て猫だけにって、自虐じぎゃく?)、起爆の言葉。


 ドーン!! ドーン!! と次々に爆発する。空に大きな花。


「きれいっ!」「かっこいい!」

 我ながら良い出来で、思わずニマニマ。辺りも何かザワザワしてきた。妖精さんは楽しいの大好き。

「お近づきのしるし」どーぞ!ってハッピーな気持ちを振りまく。

 あちこちで色々な色がほわほわぽわぽわ。こんなに光が強いのは初めて。妖精さん楽しそう。くるくるまわってる。とっても嬉しくなった。

 ほっぺにキスされた、ちゅっちゅって、いっぱい。・・・はずかしいよ。


 次は準備! 何のって? 住む場所とこ作らなきゃ。さっき500人居たって。予定だと300人くらいで、最初200人くらいだろうって聞いてた。かなりというか、すごく多い。あの距離なら夕方ぐらいなんだけど・・・荷物で倍になってるから、ノロノロだろうし、来るのは明日お昼過ぎてからかなぁ。


 あれ、ここに来る人たち。僕の腹ペコを何とかしてくれる人たち!

 ではない、もちろん。

 果物食べたけど、小さすぎて足りない。6回もぐっで、ぺろりだった。だから探す。くんくんて、においで分かる。というか、ずっと美味しいのがあるって、お腹が騒いでいたから、すぐ見つけた。

 むしゃむしゃってしないの。お行儀よく。


 本にね。書いてあったの。隣の人がイヤだなって思わないようにって。キレイに美しく静かに、服に飛んで、ああってならないようにって。いっぱい練習したの。僕が見える人とご飯を食べたのは、とっても美味しかった。またしたいなって思って、嫌われないようにって願って。


 食べ終わると、次何食べようって考える。街でね。店から出た人が外に書いてあるオススメをじっと見るのと同じ。隣が食べてたこっちも良かったなあってやつ。


 肉食べたい、うさぎの。生き物をお肉に変える。ぐさぐさ、ざくっが、やだって人わかる。血がびゅって飛ぶから。時々、病気持ってるから。

 キレイにさくってしないと、肉と毛皮の使えるとこが減る。もったいない。あと、味が落ちる。モツ取るのと血抜きはしっかりとしてね。

 うさぎは、血も使う。新鮮なとこをちゃんと取っておかないとダメ。


 捕まえられない。速くて。肉まて〜って、僕には無理。でもね。肉肉〜って時はぴゅ〜なんだけど、もふもふしたいよって時は逃げない。寒い日によく温めてもらった。

 鳥が頭に留まった。肩にも。可愛いなって思う。


 お腹が大丈夫になると、がんばるって気持ちになる。さっきまで、ぼくは、ごはんで頭がいっぱいだったんけど、みんなのごはんって今は思う。次は、何を食べようかと言う気持ちとは、たぶん違う。

 次は楽しいを作る。「みんなで幸せに暮らしました」っていう物語の最後の、僕が一番好きな言葉。その前の色々は、どうでも良い。僕が欲しいのは最後の言葉だけの、普通の。人ですら無かった僕達が、ただ幸せに暮らすだけの普通の町。


 きっと楽しい。僕はあの物語の最後が、最後だけが永遠に続くって、ワクワクした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る