第10話 冒険者ギルド
わたしたちは、それから街を歩いて冒険者ギルドへと向かった。それほど時間がかからずに到着する。
冒険者ギルドは、街の東地区にある大きくて立派な建物だった。
他の建物と同じように、赤い屋根に白い壁の綺麗な見た目だ。一階がギルドと酒場を兼ねていて、二階・三階部分は宿屋になっている
入り口の前で、わたしとお姉ちゃんは顔を見合わせた。
わたしはくすっと笑う。
「緊張するね」
「ええ」
お姉ちゃんの表情は固く、本当に緊張しているようだった。
わたしはそっとお姉ちゃんの手を握った。お姉ちゃんがびくっと震える。
そして、わたしはお姉ちゃんの手を引いた。
「大丈夫。上手くいくよ。この街の冒険者ギルドは、登録は簡単みたいだし」
たとえば、王都の冒険者ギルドは、人が余っていたり、治安の問題で、登録するのも一苦労らしい。
でも、この辺境のリトリアの街は冒険者も人手不足だし、港町だから人の出入りも激しいので、登録は簡単……のはず。
ともかく、わたしたちはギルドの中に入った。
昼間の冒険者ギルドには、多くの人が集まっていた。女性冒険者もいるけれど、多くはがっしりした男の冒険者達だった。
そこに、わたしたちみたいな10代の女の子が二人で入ると、ちょっと目立つ。
周りの視線を浴びながら、わたしたちは窓口へと進んだ。
窓口には、おそろいの青と白の制服を着た受付嬢たちが何人かいた。
そのなかの一番若くて優しそうな人に、わたしは話しかける。
茶髪に茶色の目の綺麗な人だった。三編みに髪をまとめている。20代前半ぐらいだろうか。
リトリアのあたりはこの髪と目の色が一番多くて、ついでに美人が多いと評判だった。
「あの……」
「ギルドの登録ですか? 可愛いお嬢さん二人なんて、珍しいですね」
受付女性はにっこりと笑う。
怪しまれているかな。
お姉ちゃんが横から口をはさむ。
「私たち、旅の魔術師なんです。この街で冒険者としてお金を稼ぎたいなと思って、それで……」
流れの魔術師というのは、わたしとお姉ちゃんのあいだで決めた設定だった。貴族出身ということは言わないし、もちろん公爵の娘だということは絶対にバレないようにしないといけない。
リトリアが半独立国でも、わたしたちがいることがわかれば、王国は引き渡しを求めてくるから。
受付の女性は軽く手を上げて、優しくわたしたちを見つめた。
「この街では、訳ありの人も多く来ますから。出自を問うことはしないんです」
「あ、ありがとうございます」
「でも、逆に言えば、よその街の犯罪者が混ざったりもしますから、気をつけてくださいね? あなたたちみたいな可愛い子なら、なおさらですよ」
「は、はい……」
女性は親切にそう言ってくれた。まあ、犯罪者扱いされて逃げてきたのは、わたしたちもそうなんだけどね。
受付女性は、上機嫌だった。
「冒険者は男ばかりだから、あなたたちみたいな女の子が増えてくると助かるんです。依頼のなかには、女性が受けた方が良いものもありますから」
「へえ、そうなんですか?」
「たとえば、女性貴族の護衛とかは、女性がやったほうが何かと都合が良いことも多いですから」
それは、よくわかる。わたしがお姉ちゃんの護衛を影から務めていたのも、それが理由の一つだ。
受付女性はぽんと手を打つ。
「あ、私はフローラっていいます。あなたたちは?」
お姉ちゃんが、頬を緩める。緊張は解けたみたいだ。
「私がソフィアで、こっちが妹のリディアです」
「へえ。姉妹なんですね。いいなあ。私も妹、ほしかったなあ。二人で登録に来るなんて、仲良しなんだ?」
フローラさんはそんなことをつぶやいて、わたしたちを羨ましそうに見つめる。
わたしはくすっと笑った。
「はい。お姉ちゃんがいてくれるから、本当に毎日が楽しいです」
お姉ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、フローラさんはふふっと笑った。
「ソフィアさんも、素敵な妹さんのこと、大事にしないとね?」
「は、はい……。リディアは、私にはもったいないぐらい良い妹なんです」
お姉ちゃんは小声でそう言ってくれた。わたしはぱっと顔を輝かせる。
「お、お姉ちゃんがデレた!」
「わ、わ、抱きつこうとしないで!」
じゃれ合うわたしたちを、フローラさんは微笑ましそうに見つめて、そして、ぽんと手を打った。
「お仕事しなくちゃ!」
そういえば、わたしたちもギルドに登録しに来たんだっけ。
これから、わたしたちは試験を受けることになる。
冒険者には上から、白金・金・銀・銅・鉄のランクがある。ランクによってギルドを通して受けられる仕事も変わってくる。
なるべく上のランクで登録しておきたい。
フローラさんは、微笑む。
「まずは魔力の測定からね」
フローラさんは、わたしたちをギルド奥の部屋へと案内する。小さな応接室のような部屋だ。
そこの机の上に、赤い布でくるまれた、大きな水晶玉を置いた。
「この水晶に手を置いてみてくれる? 魔力量に応じて色が変わるから」
フローラさんは、柔らかい声でそう言った。
お姉ちゃんが緊張した様子で、その白くて綺麗な手をかざす。
途端に水晶の色が目まぐるしく青から緑へ、そして黄色から赤へと変わり……水晶玉は割れてしまった。
フローラさんはびっくりした顔をして、固まっていた。
「あ、あの……もしかして壊しちゃったんでしょうか?」
お姉ちゃんがおそるおそるといった様子で聞く。
わたしとフローラさんは顔を見合わせる。
そして、わたしはにっこりと笑った。
「水晶玉が壊れたのは、お姉ちゃんの魔力があまりにも多くて、測定できなかったからだと思うよ」
「え?」
「やっぱり、お姉ちゃんはすごいね!」
お姉ちゃんは聖女に選ばれるぐらい、魔法の才能があるんだものね。魔力量も多くて当然だ。
わたしの言葉に、お姉ちゃんは照れたような顔をする。
「そ、そうなのかしら……」
「うん!」
わたしがうなずくと、お姉ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます