悪役令嬢の妹に生まれましたが、破滅後のお姉ちゃんを幸せにするのは私です
軽井広💞キミの理想のメイドになる!12\
第1話 お姉ちゃんが婚約破棄されるというのなら
「フィロソフォス公爵家の娘ソフィア。私は……貴様との婚約を破棄する!」
王立学園のパーティの席は一瞬で静かになった。
婚約破棄を告げたのは、この国の第一王子アトラス殿下だ。
茶髪に翡翠色の瞳。とても美しい容姿だ。今年で17歳。いかにも王子様という感じの美少年。
王子らしく緋色のマントを羽織っている。
けど、その目つきは鋭くて、怖かった。
婚約破棄を言い渡されたのはわたしじゃない。わたしのお姉ちゃんだ。
「ま、待ってください! どうして私が婚約破棄をされるんですか!?」
ソフィアお姉ちゃんは頬を赤くして、アトラス殿下に抗議した。
ソフィア・フィロソフォスはわたしの姉。けど、同い年だ。わたしたちは二人とも公爵の娘だけれど、お母さんが違う。
ソフィアお姉ちゃんは正室の子ども。王族出身のお母様譲りの金色の美しい髪とお父様譲りの翡翠色の瞳が印象的だ。
赤い鮮やかなドレスがとても良く似合ってる。
一方、妹のわたしことリディアは、お母さん――つまり公爵の愛人をそっくりそのまま15歳の少女にした見た目だ。
お母さんは身分は低いけれど、愛人に選ばれただけあってかなりの美人だ。
だから、自分で言うのも変だけどその血を引いているわたしもそれなりに美少女だ。
ただ、黒髪黒目で、ソフィアお姉ちゃんのような華やかさはないんだけどね。
ともかく、問題はソフィアお姉ちゃんが婚約を破棄されたことだ。
たしかにわたしたちのお父様が失脚して宰相を罷免されてから、公爵家の勢力は落ち目だ。
それでも、何の落ち度もないソフィアお姉ちゃんとの婚約を破棄する理由にはならない。
ざわつく周囲に対し、殿下は一瞬沈黙した。
そして、口を開く。
「ソフィアは、聖女アイリスを殺害しようとした。その罪は軽くない」
「そ、そんなこと、私はしていません!」
ソフィアお姉ちゃんは胸に手を当てて、無実を主張する。
だけど、その主張はまったく意味がなかった。最初から、殿下はお姉ちゃんを追い落とすつもりだったんだろう。
殿下にとって、きっとお姉ちゃんは邪魔な存在だった。婚約者がいるかぎり、殿下が聖女アイリスと結婚することができないから。
聖女アイリスというのは、異世界からやってきたという特別な力を持つ少女だ。この場にはいないけど、そのアイリスさんに殿下は骨抜きにされているとか。で、婚約者のお姉ちゃんそっちのけで、アイリスさんのことを大事にしていたらしい。
まあ、たしかに可愛い子だったけどね。でも……お姉ちゃんほどではないと思うのだけれど。
それはともかく、次々に罪を列挙され、お姉ちゃんは追い詰められていた。
「よって、ソフィア・フィロソフォスは平民の身分に落とし、辺境のコンスタンツァへ追放とする!」
お姉ちゃんの翡翠色の瞳が、深い絶望へと染まっていく。お姉ちゃんの取り巻きの女の子たちもお姉ちゃんを助けようとはしない。
実際にお姉ちゃんが何をしたのか、わたしは知らない。でも、そんなことはわたしにとってはどうでもいいことだ。
わたしにとって大事なことは一つ。
わたしは一歩前へ進み出た。
誰もわたしには注目していない。
問題とされているのは、お姉ちゃん一人。だから、わたしは何も言わなければ、学園を追い出されずに済むかもしれない。
けれど。
「あのっ!」
わたしは勇気を振り絞って声を出した。
自分で思ったよりも大きな声が出て、びっくりする。
その場にいた誰もが、初めてわたしに気づいたようだった。
お姉ちゃんも殿下も、戸惑ったような顔をしている。
わたしは微笑んだ。
「後悔しても知りませんからね?」
「え?」
アトラス殿下は、何を言われているのかがわからないようだった。
わたしはお姉ちゃんに近づき、そしてぎゅっとその手を握る。
「な、なにするの!? リディア!?」
お姉ちゃんは慌てふためいた表情で顔を赤くした。
わたしはそんなお姉ちゃんにくすりと笑う。
そして、わたしはふたたび殿下を振り向いた。
「殿下がお姉ちゃんとの婚約を破棄するというのなら、お姉ちゃんはわたしがもらっていきますから!」
<あとがき>
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