光の筋

mackey_monkey

思い出は綺麗で

むわっとした気持ちの悪い空気に包まれた電車の中、どこか心地のいい揺れに身をまかせ、ただ何をするでもなくぼーっと座り、昔の記憶を思い出していた。


雨上がりの曇天に浮かぶ雲の隙間からのぞく光の筋が、広々と広がる田畑を所々照らす。

幼いころの車から見たそんな風景はただ、どこまでも美しく、形容しがたいものだった。

少なくともそのころの私にはその神聖ささえ感じるような景色を、言葉に言い表す術を持ってはいなかった。


そんな私も月日が流れれば、(本当にありがたいことに)大きな問題もなくすくすくと成長していった。

また一つ大人への階段を上るごとに周囲は、私の成長を喜んだ。

そうこうしてのらりくらりと目的もなく生きているうちに、成長を昔のようには祝われないような歳になっていた━。


今日もまた、いつもと変わらない一日がやってきて、煩わしい鈴の音が私を穏やかな眠りから引きずり出す。

まだほのかに暗い冬の空を眺めて、ため息をつくと、私は服を着替えて、よたよたといつもの駅へ向かって歩き出した。

そうして最寄りの駅から乗った電車の中で、ふと懐かしい風景のことを思い出していた。

何もしないままボーっとしていると、気が付けば目的の駅についていた。

電車からおりて 、地下から出れば雨でも降ったのだろうか、地面のアスファルトがいつもより暗い色を纏っている。


空を見上げてみれば、建物の隙間から姿をのぞかせる重々しい雲の隙間から、光の筋が地上へと降り注いでいた。

それはまるであの幼い日の記憶をちょうど思い起こさせるようなものではあったが、それでも今の私にはそれに陰鬱さしか感じることが出来なかった。


私はそんな空を反射する水面に波紋を立てながら、暗いアスファルトの上を、人の波に押されて歩き出す。

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