65話--カレンの思い--※カレン視点
リンドを遠方に投げ飛ばして闇竜から引き剥がした。
私のザレンツァ大魔帝国とアラミスリド大魔王国は長い間、冷戦状態でありいつ本格的な戦争が始まってもおかしくない状態だった。
ザレンツァの国教は七竜教で
四元素の竜と二対の竜は既に顕現していて残すは古代竜だけ、となったときに二対の竜の一体である闇竜が姿を消した。
ザレンツァの帝王……私のお父さんはその事実を隠した。アラミスリドが何かしたという事を知っていたからだ。
国民に公表すれば間違いなく戦争になって国民が大勢死んでしまうから。
七竜を信仰しているのは単純に生物として強いから。強さこそ全ての私たち魔族からすると生物として比類なき強さを誇る竜は信仰の対象となる。
そう、強さは正義。なのに……アラミスリドの者たちやラヴィスは強さを磨かずに別の事を強い者に媚び諂っておこぼれを貰って強さを偽っている。
私はそれが許せなかった。アラミスリドの王とお父さんは同じぐらいの強さだからお互いに戦いになるとどちらかが死ぬまで戦うことになるというのが分かっている。
アラミスリドは許せないけどお父さんが死ぬのは何だか違う気がした。
――私が、強くなろう。誰よりも、お父さんよりも、アラミスリドの王よりも。
王位が1位になれば強くなると聞いて全員を倒して1位になった。お父さんの持つ魔王の力でダンジョンを作れば強くなると聞いてダンジョンを作った。
配下の者が侵入者を倒すとレベルが上がった。お父さんとアラミスリドの王は運営者というものらしく、ダンジョン作る力を他の者に分け与えて別の世界を侵略しようとしているらしい。
その世界には上質な魂が沢山あって、ソレを使えば更なる高みに昇ることができるそうだ。
色々と小難しい制約があると聞いていたが私は難しいことは嫌いなので聞き流した。
初めて作ったダンジョンを別世界に繋げて数日すると縞模様の服を着た人間が入ってきた。私の居る世界の人間の魂とは違って魂に魔力が混じっていない純粋な魂だけの人間だった。
なるほど、と思った。これだけ混じり気の無い魂が得られるなら制約があろうと欲したくなる。
戦闘のせの字も知らないような人間が数日置きに入ってくる。配下のダークエルフに命じて入った瞬間殺すように命じた。
入ってくる者が何が起こっているか分からないまま一瞬で殺してあげた方がいい。弱い者に苦痛を与えるような殺し方をするのは強者のすることじゃない。
そして、あーちゃんと出会った。
目を奪われてしまった。人間という弱小種に生まれながらも研鑽して努力して磨き上げられた魂に。
心を奪われてしまった。色々なモノの良い部分だけを混ぜたような芳醇な香りに。小さな枠に限界まで押し込まれた魔力に。
殺したくなかった。ダンジョンを閉じる代わりに侵入者を外に出す権限を思い出した。
――でも、欲には勝てなかった。味見をしてみたかったの。
私の予想通り、あーちゃんは話を聞いてくれて人間にしては信じられないほどの力を持っていた。
壊さぬよう、細心の注意をしながら、少しだけ傷をつけて追い出した。
早く早くと私の中の吸血鬼の血があーちゃんの血を飲ませろと騒ぎ立てた。居なくなってすぐに、指で掬って舐めた。
全身に衝撃が走った。私が今まで飲んでいた血が泥水のように思えるほど美味しさが違った。名残惜しかった。それと同時に変な感情が私に生まれた。
いつもだったら【魅了】や他のスキルを使って力づくで私のモノにすればいいはずなのに、そうしたくなかった。
お母さんにそれを伝えたら恋だと言われた。恋ってなんだろう。
その答えは未だに分かっていないけれど、お母さんが言うには
つまりずっと一緒に居るという事だろう。
それからと言うものの忘れることができず、悶々とした日々を過ごした。
王族交換でザレンツァに来ていた継承権15位のジルドが人間に殺されたと噂で耳にした。多分、あーちゃんだと思った。
居ても立っても居られなく、私はダンジョンを再度作って今度はあーちゃんの住む世界に行ってみることにした。
あーちゃんの世界に行くとそこには沢山の人間が生活していた。魔力を使っていないのに動くものが多くて不思議だった。ただ、生活している姿は私の国と一緒で皆、活気に満ちているように見えた。
いいものが見れた、と思って帰ろうとしたらダンジョンが攻略されていてゲートがなかった。初めて全身の血の気が引いた。
空腹だったが空気中にある魔力を集めれば少しの間は問題ないだろう、と人間から隠れる生活を続けた。
取って食ってしまえば良い気もしたが気が進まなかった。
高い建物……ビルの屋上で丸まっていると知っている魔力が私の方に高速で近づいてきた。そう、あーちゃんだ。残っている力を振り絞って泣きついた。
それからは色々あってあーちゃんの家でお世話になれた。手合わせをした時、我を忘れて封印を解こうとしてしまったのは反省点だ。封印を解いた姿は可愛くないから。
久しぶりに戦いらしい戦いをして昂った私はあーちゃんの首筋に――。
今思い出しても生唾が出るほどの良いものだった。途中から皆も混ざったのも良かった。あの子たちは魔脈を開いたことも相まって、とても私好み……あーちゃんほどではないけど。
ずっと一緒に居るために私はあーちゃんに眷属になることを提案した。そうすればずっと一緒に居れる。必死に説明したけどあーちゃんは首を縦に振らなかった。
断られてしまい、どうしようか考えを振り絞った。そしてお父さんが沢山の人と子を成していることが思い浮かんだ。確か――側室だ。
殆どこじつけで押し付けに近いがどうにかあーちゃんと一緒に居ることができるようになったんだ。
「はぁ。早くあーちゃんのところに戻らないと」
ため息を吐いてリンドに向き直る。
あーちゃんたちが見えなくなる距離まで離れることができた。
リンドが裾に付いた土を払いながら立ち上がった。
「今日こそは決着を付けさせて頂きますよ? 私と貴女、戦いは何度もしていますが全て決着がついておりません」
「……戦ったっけ?」
「煽るのもいい加減にしてほしいですねぇ! いつまで自分が強者だと思っているんですカ!?」
リンドがそう言うと私の周囲に大量の魔法陣が展開された。
指を鳴らした音に魔力を込めて魔法陣を破壊する。こんな見え見えな攻撃……まだあーちゃんの妹の方が上手に魔法を使う。
「くくくっ! 先ほどのは足止めですヨ! 我が主より賜った力を見せてあげまショウ!」
リンドの姿が変わっていく。
あーちゃんより頭一つ大きかった身長がミノタウロスと同じほどまで伸び、皮膚が真っ黒でごつごつとした感じに変わった。
筋骨隆々でミノタウロスにも負けていないほどだ。
大きくなったのは体だけではなく魔力の量も数段増えているようだ。
「……それだけ?」
「余裕ナノハ今ウチデスヨォ!!」
魔法陣が展開された瞬間に魔法が発動した。
【血装具】で短剣を創り出して魔法を切り裂く。大量の魔法陣から止まることなく闇属性の魔法が飛んでくる。全て切って落とすと短剣に亀裂が入った。
「ん。理解。浸食だね」
「分カッタトコロデ対策デキルトデモ?」
「んー……早くあーちゃんのところに行きたいから、私も本気出してあげる」
いくらあーちゃんでもゾンビ化した闇竜が相手では心配だ。
心配しすぎな気もするけど、これが恋の影響なのだろうか。
あーちゃんから古代竜の力を感じるのも気になるし、早く終わらせて一緒にお風呂に入りたい。
「本気? ソンナ力ヲ出シタトコロデ今ノ私ニ――」
「ん。一つだけ、教えてあげる。貴方と戦った?中で本気を出したことは一度もないよ」
厄介な虫を追い払っていただけなのに互角と勘違いされては困ったものだ。
私の中にある5つの封印を全て――解いた。私はハイエルフ、淫魔、吸血鬼、悪魔の血を継いでいてその血の力を100%全て使うことができる。
血の持つ力が強すぎて普段は全部合わせて100%になるように封印しているんだけど、本気で戦う時は全てを使う。4つの種族の血なのに封印が1つ多いのは混ざらないようにするための封印だよ。
見た目は――淫魔とハイエルフ寄りの方が好き。可愛いから。
そうなるように調整しないと悪魔寄りになってしまう。リンドと同じような見た目に近いので嫌だ。
「ふぅ、久しぶりの封印解除は疲れる」
「何ナンダッ!? ソノ魔力ハ!!」
制御していない魔力が暴風のように漏れ出ている。
肉眼で可視化されるほどの濃い魔力が私から黒い筋となっていた。
悪魔のスキル【沈黙】を使う。私の周囲から音が消えた。
淫魔のスキル【吸魔】を使う。私の周囲から私以外の魔力が消えた。
吸血鬼のスキル【血装具】を使う。私の周囲に数千の短剣が出現した。
ハイエルフのスキル【高位魔法】を使う。私の周囲に数万の魔法陣が展開された。
全てはリンドに向いている。私は声に魔力を乗せて言った。
「さあ、避けてごらん?」
音を消して技能の詠唱をさせず、魔力を消したので魔法で防ぐこともできず――攻撃は全てリンドに命中した。
何やら最後に言っていたが音を消しているため聞こえなかった。
――音を消した本当の理由?
「ん。爆発音がうるさい……消して正解」
土煙を風で晴らすとそこには肉片すら残っていなかった。あるのはリンドの魔石だけ。
解いた封印を元に戻すのが面倒だ、と思ったけど……封印しないとあーちゃん以外の子が大変なことになってしまう。
――いいかもしれない。と、思ったけどあーちゃんには嫌われてしまうだろう。
それは嫌なので座り込んで封印を施し始めた。
10分以上封印を解除した状態でいると血が完全に混ざってしまって戻せなくなってしまう。急いでも5分はかかる。
それまでの間、あーちゃん達が無事だといいんだけど。
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