4話--買い物と夕飯--

 

 沙耶との買い物は非常に大変だった。

 主に私の服選びのセンスが無いせいで起きた出来事ではあったのだが……。

 私の選んだ服に沙耶が対してダメ出しをする。それを繰り返していくうちに自身で選ばなくても良いのでは? という考えが芽生えてしまい、全てを沙耶に任せてしまった。

 

 そこからだった。

 無限に始まる試着地獄。着せ替え人形の気持ちが少しばかり理解ができてしまった。

 私を着せ替えること数時間。日が暮れ始めたころに解放された。もう終わりにしてくれと断れば良かったのだろうけれど、私が選んでくれと言ったのもある。

 それに、楽しそうに服を選ぶ沙耶の姿を見たらそんな野暮なことを言う事はできなかった。

 

 そのおかげか私の両の手には紙袋に入った大量の服がぶら下がっていた。大量に買った服を車に置き、運動用の服などの一式を買いにまた歩みを進めた。


「お姉ちゃん、ありがとね」


 相変わらず沙耶は私にべったりとくっついており、離れるつもりなど毛頭感じられない。

 私としても悪い気はしないのでそのまま放置している。


「それにしても、急に運動着が欲しいなんてどうしたの?」

「あぁ、いや……運動したいな~って思って……」


 布が余っていたりする服だと戦いをするときに引っかかったりしてバランスを崩しかねない。

 それであれば動きやすい機能性に富んだスポーツウェアの方が良いと判断したまでだ。

 沙耶には現状を説明できない――したとしても理解してもらえないと思うからそれなりの理由で流しておく。


「別にスタイルいいんだから大丈夫じゃないの? 正直私としてはもうちょっと肉ついてた方が抱き心地がいいから好ましいんだけど……」

「まぁ、買っておいて損はないんじゃないかな!」

「確かにそうだけど……」


 懐疑的な視線を沙耶が私に浴びせる。我ながら少々ごり押しが過ぎる気がするが気にしたら負けだ。

 特に運動をしてこなかった者が急に運動するための服が欲しいなど言い始めたら疑いもするだろうけれど、沙耶が気にしているのは別なことのような気がする。


「もしかして……ついにお姉ちゃんに男ができた!? 急に服が欲しいとか言い出すし……乙女の側面が出て来た……?」

「それはないかな……」

「だよね~。まあ、お姉ちゃんには私が居るしね!!」


 今日は沙耶にしてやられているので仕返しをすることにした。

 握っている手で沙耶を引き寄せて空いてる逆の手を沙耶の腰に回す

 顔を耳に近づけて……。



「――そうだよ。私には沙耶が居るもんね」



 耳元で囁いた。さながら記憶の中にある少女漫画のワンシーンのような流れだっただろう。

 沙耶のことだから笑って冗談だよ~、と言ってくるだろうと思ったのだけれど……。


「ひゃっ……ひゃい……」


 顔を真っ赤にして上ずった声で返事をした。

 反撃されるだろうとは思っていなかったのか心構えができていなかった……のか?


『愛の神が貴女たちを見守っています』


 よくわからない画面が出てきた。すぐに画面を消して固まっている沙耶の手を引いてスポーツ用品店に向かった。

 沙耶は下を向いて歩いてはいる。スポーツ用品店に到着しても沙耶は俯いたままだった。

 覗き込むと動きがぎこちなく、どことなく錆びついてまともに動かない機械のような感じだ。


「はははっ」


 ぎくしゃくした動きが面白く、つい笑ってしまう。

 それに釣られて沙耶も笑いだす。


「ふふふっ……。あー……急にお姉ちゃんが固まるようなこと言うんだもんなぁ」

「お、復活した。今日は沙耶に好き放題着せ替え人形にされたからねぇ」


 着せ替え地獄は本当に疲れた。

 よく言う「女子の買い物は長い」が体現されたかのような状況だった。

 実際にそうなのだが……。


「まあ、私としても嬉しかったし……大丈夫!」


 沙耶が元に戻って普通に歩きだした。

 スポーツ用品店では運動靴を5足、服や保温のためのタイツ。登山用の断熱性の高い服や大きいリュックなどを買った。

 いらない、と言っていたが無理やり沙耶の分も買った。

 車に戻り、後部座席いっぱいに置いてある荷物を見ると少し買いすぎたような気がしてきた。


「いっぱい買ったね……? お金とか本当に大丈夫なの……?」

「大丈夫だよ、伊達に高給取りしてないし」


 普通に心配されるぐらいには買っていたけれど、すぐに口座から引き落とされるカードを使って先ほど口座の金額を確認したが10分の1も減っていない。

 明日の予定は武器の調達と当面の食料、水などなどを大量に買い込む。

 ダンジョンが出現して数日は問題ないけれど10日以上誰も入らず、攻略せずで放置していると中からモンスターがあふれ出す。

 

 明後日に出現するのはダンジョンの入り口……通称:ゲートと呼ばれていたものだ。全くの未知の存在に各国の政府は慎重に行動し、情報を封鎖した。そのため、一般人に知られるのはモンスターが溢れ出してからである。

 ゲートの中は全くの別空間で中に入って1時間以内であれば入ってきたところから引き返せるダンジョンも多数あった。

 

 ダンジョン内に居るボスを倒すとゲートが閉じるものもあればそのまま残るダンジョンも存在して、そのようなダンジョンを持続型ダンジョンと呼んでいた。

 逆に1度ボスを倒すとゲートが消えてしまうダンジョンは突発型ダンジョンと呼ばれ、持続型のダンジョンと違ってモンスターが強い場合が多い。


 ダンジョンボスは普通のモンスターより強力で体躯が大きかったり禍々しい見た目をしている。

 そして一番肝心なのは各モンスターやハンターには防御力の概念が存在し、その防御力以下の攻撃は一切通用しない。

 何のスキルを持たない一般人が警察官などが持っている銃を撃った際の攻撃力が50だったはずだ。

 

 そのため、序盤のダンジョンであれば溢れてきたモンスターは現代兵器で駆逐できていた。

 1年ぐらい経つと出現するゲートの数が増え、銃器が効かないモンスターが多々出てくるため、それまでにはある程度レベルを上げておかないと変わっていく世界に取り残されてしまう。


 私は【剣術】のスキルがあるため剣を装備する必要があるが、剣と言っても中世時代にあった長剣とかではなく包丁や木の棒でもいいらしい。

 棒状のもので私が剣だと認識していれば剣術スキルの条件は満たすそうだった。

 耐久力的に木の棒とかでは戦うのに心許ないが……。


「ふぅ、やっと家に帰ってこれた」

「日も暮れちゃったね……? お姉ちゃん、今日から泊まっていい?」

「いいけど……相変わらず布団は買ってないよ?」

「うん! 一緒に寝るからいいの」

「あっ、はい」


 買った荷物を車から運び出し家に入る。

 一人暮らしにしては結構広く、3LDKのアパートだ。

 最小限の家具しかないためすごく広く見える。


「へへっ……お姉ちゃん、今日買った服着てみてもいい!?」


 沙耶が待ってましたと言わんばかりに買った服の入っている袋へ飛びついた。

 買い物後の一番楽しい時間の始まりだが――。


「いいけど、ご飯作り終わるまでだからね」

「はーい!」


 上機嫌で買ったものを開封していく沙耶の姿を尻目にキッチンに向かう。冷蔵庫に掛かっているエプロンを着用して冷蔵庫を開けて中を確認する。

 毎朝作ったりするのが面倒だから作り置きしているもの多々あるので消費しておかないとだな……。

 発電所とかにもゲートが出現することが多々あるので電気とかが止まる可能性も考えておかないといけない。

 

 なので今日から冷蔵庫の中身を減らしていこうと思う。作り置きしてタッパーに入っていた煮物をレンジで温めて皿に移す。

 蒸した鳥肉を手で割いてサラダに乗せる。

 メインは……パスタにするか。茹でながらひき肉を炒めてトマト缶等々で絡めてミートソースを作る。


「沙耶ー、できたぞー」

「今着替えるー!」


 夕飯の準備が完了してリビングのテーブルに並べていく。

 急いで服を脱いでそのまま来たのかキャミソール姿の沙耶がリビングに来た。

 私も家だとすぐにラフな格好になるから気持ちは分かる。


「パスタとサラダは分かるけど……なんで煮物?」

「んー、消費しておきたかったから……悪いけど消費を手伝ってね」

「はーい、いただきます」

「いただきます」


 黙々と食べ始めた。

 煮物が美味しい。作って1日経っているので味が染みていい感じになっている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る