55.剣に生きる

 私たちはエランへと向かって歩いている。


 何もない荒れ地で喋っているよりは、エランと呼ばれる建物群を見て回る方が有意義に思えたからだ。


 その道すがら私はタコマルと言う名のエルフの質問に答えていた。


「戦場ではどんな武器が主流だった?」

「砲と機関銃」

「塹壕戦まっさかりか?」

「……よく知っているな」


 タコマルは知識としていくつかの戦争の形態を知っているようだった。


「あんた、砲声轟くそんな中で剣を振っていたのか?」

「士官は割とそうしていたぞ?」


 後は塹壕堀り用のスコップ。


 軍刀を振りかざして突撃命令を掛け、そのまま突撃すれば軍刀が白兵武器になる事は多い。


 スコップや銃剣より折れやすいため、最後まで振るえることはそう多くなかったが。


 そう告げると、タコマルはうへぇと妙な声を出した。


 それが感嘆なのか呆れたのか良く分からない。


「いまいち分からないねぇ。きかん銃ってどんな武器?」


 カイサが口を挟むとアゾンが何かを思い出したように告げる。


「ドワーフたちが用いる銃は威力はありますけど……」

「ドワーフの銃は前込め式と呼ばれる形状だな。一回撃つごとに弾を込めるから一度撃てば弾込めに少し時間がかかる」

「……銃あるのかよ」


 アゾンの問いかけに私が答えると、そのやり取りを聞いてタコマルがうんざりしたように呟いた。


 それを無視して更に言葉を続けることにした。


「ドワーフの銃より射程と連射性に優れている銃が私がいた所では主流だった。その中でも機関銃と呼ばれる物は非常に重い銃だったが、優れた射手がドワーフの銃で一発撃つ間に機関銃は数百発の弾を撃つ事が出来た」


 射手は銃身を冷やしながらここからエランほどの距離にいる敵を一心に狙って撃つのさと私が説明するとカイサもアゾンも言葉が出ないようだった。


 砲声轟き、爆音響き、銃声が絶え間なく木霊する中に行われる突撃は、まさに決死の覚悟がなくば生き残れない。


 僅かでも動きに迷いがあれば撃ち抜かれるか、砲撃で吹き飛ぶか……私がいた場所での戦とは、そう言うものであった。


 とは言えアルカニアの戦とどちらが生き残りやすいかは、実際には比べようもない。


 機関銃を用いた戦と剣や槍のみ用いた戦では圧倒的に前者の方が戦死率は高い。


 ただ、アルカニアには私の知らない力が渦巻いている。


 それらが戦に使用された時に何が起きるのかは分からない。


 とてつもない爆発を伴う攻撃にならないとは言えない以上は、軽々と彼我を比べる物ではないと思う。


 それに、どちらの戦の生存率が高いとか比べている時点で人として大いに問題があるのではないだろうか。


 どちらであるにせよ、一たび戦が起きてしまえば多くの死者が出るのだから。


 すっかり眠たげな様子で私に抱えられたスラーニャを見ているとそう思うのだ。


 私は剣を振るう事でしか生きられず、充足を得る事の出来ない因業な人間だ。


 だからこそ、剣を振るう理由はしっかりと定めておきたい。


 そんな事を考えながら歩いていると漸くエランに辿り着く。


 アルカニアでは見た事もない様な建造物が立ち並ぶ堅牢な都市と見えたが、人が殆どいないと言う事も有り何だか伽藍堂がらんどうのように思える。


 レギーナに案内されるままにある建物に入った時、不意に問われた。


「それほどの経験をしてきて、何故レベルが一に固定されているのか?」


 と。


 私は分からないと答えようとしたが、代わりにロズ殿が言葉を紡いだ。


「セイシロウ殿は理から外れてるのだろう、或いは理の枠からのぉ。何せ、屍神を生み出した妖術師を斬っておる。その時点で外れたのではないかな?」


 そう告げたのだ。


 私にとっては思いも掛けない言葉だった。


<続く>

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