奇妙な旅路

21.追随する者

 朝飯を終えて街から旅立とうとする段になり改めてスラーニャにロズ殿が同道する旨を伝えると、彼女は嬉しそうに笑った。


「一緒だね」


 そう言って笑うスラ―ニャにロズ殿は一緒じゃなと笑みを返す。


 仲良さそうに見えるが、出会ってまだ一日と経っていないのだから人の縁とは良く分からぬものだ。


 ともあれ、向かう先はリマリア殿に怪物退治を依頼された村だ。


 既に怪物が現れないと言うなれば、それは確かにロズ殿であったのだろう。


 もし、怪物が未だに現れるのであれば、確認しなくてはならない。


 人に仇なす危険な存在なのかを。


「余、であると思うんだが」

「場所が違う、あるいは別の何物かであると言う事もないとは言えない。私の目で確認し、私の責任で報告したい」


 当初、目的を告げると少しだけ唇を尖らせたロズ殿ではあったが、私の言葉に頷きを返した。


 そんな訳で目的地に向かう道すがらスラーニャと手を繋ぎ、何やら歌を歌いながら歩く二人の姿は微笑ましい。


 私もスラーニャに対する接し方を考えるべきかもしれない。


 あの子は別に武家の子でも、軍人の子でもないのだから。


 戦いだけしか教えられない私が父親ではあの子の未来を潰えさせやしないかと、いつもの不安が鎌首をもたげる。


 スラーニャは我が子だ、血は繋がらずとも我が子である。


 なればこそ、その行く末が平穏であることを願ってやまない。


 だが、私は彼女の為に剣を捨てて平穏に生きて行けるのか?


 事が終われば剣を捨てるのが一番彼女の為になると思えるが……。


 少し前行く二人を見つめながら、手が空いてしまっている分、私は余計な事を考えだしていた。


 だが、背後から付いてくる気配に気づいてからはそちらに注力できて助かった。


 一定の距離を開けてつかず離れずついてくる気配。


 一人はその足運びや足音の少なさから相応の手練であると思われ、今一人はどうにも子供のようだと推測する。


 一度さりげなく振り返り、ちらりと見えた姿に私は思い出した。


 そう言えば、あの街には私とは別に子連れの旅人がいた事を。


 子連れと言うよりは良家の子女とその従者と言うべきか。


 身なりは良いが薄汚れていた様子から家督争いにでも敗れたのか、単に家出しただけなのか分からない少年とメイド服を纏いながらも剣を携えた女の二人組が私たちを付けていた。


 本当に良家の子女とその従者なのかは分からない。


 街では野盗の対応に忙しく、ろくに話もしなかったため結局どういう存在か把握できていないからだ。


 そんな接点の薄いあの二人が何故に付いてくる?


 スラーニャの足に合わせているため、我らの移動は比較的ゆっくりだ。


 目的地が例え同じ方角でも途中で追い抜いていく機会は幾らでもあった筈。


 まさか、アーヴェスタ家の連なるものなのか?


 ……流石にそれは考えすぎか。


 暫く気付かぬ振りをして歩いているとロズ殿が振り返り告げた。


「何じゃろうな、あの二人」

「二人って何?」


 私に対する問いかけだったが、スラーニャが不思議そうに問うとロズ殿は背後から二人ついて来ておると説明した。


「ついて来ているの?」

「うむ、何者じゃろうな」

「先ほど垣間見た時は、街で出会った少年とメイドに見えたが」


 私がそう返すとあの二人かとロズ殿が得心したように頷いた。


「力を欲しておる様じゃったからな」

「……剣呑な」


 単なる家出と言う訳ではなさそうだな。


 ともあれ、ずっとついて来られるのもいささか困り物だ。


 ましてや、我らは敵が多い。


 彼らの真意が何処にあるのかはっきりさせるためにも、何故ついてくるのかを確認する必要がある。


 そこで、我らは一度休憩に入る事にした。


 道の脇に外れ、スラーニャに水を与えて一息ついていると、追随者が姿を見せる。


 漸く姿を見せたのはやはりあの温泉街で出会った主従であった。


 通り過ぎていくでもなく、我らの近くで立ち止まった彼らは、逡巡していた様子だったが意を決したのか近づいてきた。


「不躾ですが、ご同道宜しいでしょうか?」


 声を掛けてきたのはメイドの方だった。


 年はまだ若いが、その足運びからかなりの手練であるかと思われた。


 若君の護衛と言った風情か。


「我らは敵が多い身の上、そちらにご迷惑をおかけする事になるやもしれませぬが」


 私の言葉に少年が口を開く。


「貴方たちの敵とはアーヴェスタ家でしょうか?」

「何ゆえにそう思われた?」

「野盗がアーヴェスタ家が子供を殺すために兵を集めていると口走った時、貴方は静かに怒っておられたから」


 やはり態度に出てしまっていたか。


 まだまだ未熟者よ。


「そうと推察しながら我らと同道なさりたいと? 危険が増えるのでは?」

「増えるでしょう。ですが、同道する事により生き永らえる事も出来るかもしれません」


 少年の言葉に私たちは眉根を顰めた。


 危険が増すが生き永らえることができるかもとはどういう意味か。


「シャーラン王が変わったことをご存じですか?」

「風聞として」

漁色ぎょしょくに励んでいた暗愚な王が討たれた訳ですが、それに伴い貴族社会が変わりました。例えば貴族と言えども純血ならざる場合はこれを排斥せよ、と」


 私はそう語る少年をまじまじと見つめた。


 エルフの血筋ではあろうが純血に見えない目の前の少年は、シャーラン王国を追われた貴族と言う事になるのだろうか。


<続く>

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