私はハルラ・サティ。金髪翠眼。白い肌。少し膨らんでいる様に見える胸。男だ。
自由な速さで歩く花
第1話 私は
ギルドハウスへ向かう途中のこと。
今日は天気も良く、寝覚めもよく、普段よりも上機嫌だったため
私はステップを踏みながらギルドハウスに向かっていた。
白い石畳が続く道の途中、誰も見ていないのであれば軽く創作ダンスでも踊りそうな程機嫌の良い私がそこにはいた。
いや、踊るのにあと3秒もかからないであろう時、私は優しく声をかけられる。
「お嬢さん、何か落としましたよ。」
どうやら私が落としてしまった髪留めに気が付き、それを拾ってくれた優しそうな初老の男性。
「え? あ、ありがとーございます!」
浮かれている姿を見られていた恥ずかしさを押し殺しながらも、感謝の気持ちで礼を伝える。
そのまま髪留めを受け取り、手慣れた動作で付け直す。
改めてお礼を伝えようと男性に向き直ると、
彼は目を細めて笑顔で私の頭を撫でてくる。
私がきょとんとした顔をすると、
「おっと失礼しました。ちょうどあなたと同じ年頃の孫娘がいるものですから、
ついつい癖で同じようなことをしてしまいました。」
「そうなんですねー、気にしないでください。こちらこそ髪留めを拾ってくれて
ありがとーございました。」
「いえいえ、それではお気をつけて」
男性はそのままニコニコとしながら去っていく。
私も気を取り直して再びギルドハウスに向かって歩き出す。
・・・少しだけ苦笑いしながら。
私の名はハルラ・サティ。
ブロンドで前髪ぱっつんのロングヘアー。
くりっとした緑の眼の童顔。
小柄な体躯。
白い肌。
少し膨らんでいる様に見える胸。
だが、
男だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また髪留めを落としたりしないようにステップを踏むのは我慢をして、早歩きで進んでいく。
そうして長い石畳の道を抜けた先に私達のギルドホームが見える。
そのホームはこじんまりとしてて大きくはないが、白と緑でまとまっている小綺麗な外見がとても良い感じではないだろうかと私は思っている。
入り口に書いてある私たちのギルド名は[フリーウォーク]
それを横目に見ながら私は入り口を開ける。
「おはよー!」
「おはようございます、ハルさん。今日は一番乗りですね。」
いつもの窓際の定位置に座って挨拶を返してくれた彼はエトー・ナイン。通称エトさん。
少し頼りなさそうに見える目元と髪を短く切りそろえたの人間の男性。
このギルドのリーダーであり、唯一のこのギルドホームの住人だ。
彼はこの街に多数あるギルドの内の一つ、[フリーウォーク]のリーダーである。
「エトさん、おはよー。気分が良かったからね。早く動きたい気分だったんだ。」
「ハルさんは今日も元気ですね。」
「元気だけかい?僕は元気だけじゃないだろ?」
「ふふっ、そうですね。ハルさんは今日も元気で可愛いですね。」
「おっ、ありがとー!それが取り柄だからねー。どんどん褒めていいんだよー。ほら可愛いだろ?」
得意の上目遣いをエトーに向けて炸裂させるも、
「ははっ。もっと褒めたいのですが、生憎語彙力が少ないので申し訳ないです。」
彼は特に気にも留めず、軽く流す返事をする。
私は男だ。
が、可愛いと褒められることは大好きだ。
自分の容姿を理解しているし、かっこいいと言われるよりも可愛いと言われる方が嬉しいのだ。
そのため、ちょくちょく気心の知れた人間には可愛さをアピールをして褒められようと画策するのだが、ここ[フリーウォーク]内においては大体流されるのがお約束だ。
話に乗ってくれるだけでもエトーは私に甘い方だろう。
ん、男ならかっこいいと言われて喜ぶべき?
残念ながら私の容姿は男と思われないことの方がほとんどであるし、この容姿でかっこいいと言われても正直お世辞としか感じられない。
いいのだ、私は可愛いと言われるのが純粋に嬉しいのだから。
「まぁエトさんからペラペラ美辞麗句が出てきたら、偽物かと疑うか、大爆笑するかのどっちかだよね。」
「ええぇ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
エトーはこの街に数多く存在するギルドと言われる冒険者の相互扶助チームのリーダーの一人であるが、彼は少し変わり者のリーダーとして知られている。
他のギルドの大半が各々の目標や目的を達成するために邁進しているのに対し、彼は「支援」というものに重きを置いている。
それは初心者冒険者の育成支援だったり、他ギルドの大型作戦への支援だったり。
時にはレクリエーションなんかを行って地域への貢献等も行ったりするのだ。
もちろんそれは彼が優しいだけの慈善事業というわけではない。
例えば初心者の育成の請け負いでは丁寧な指導を行い、育成終了時にその者の適性や希望を考慮して他ギルドへ快く送り出す。育成したのは自分たちだと無理に引き留めることはしない。
そうすれば送ったギルドからは当然感謝をされ、その送った者たちからも[フリーウォーク]への好意が残る。
そしてギルドの総まとめとしての存在である「冒険者組合」からは、[フリーウォーク]の活動が組合とギルドを含めた全体の利益に繋がっているため、組合から色々と優遇をしてもらえることになる。
もちろん優遇に関して他ギルドから不満が出ることもない。
まさにwin-winの関係というところだろう。
さて、このエトー。
多分ギルドのリーダーの中で一番弱い。
いやリーダーとかの縛りを外して一般の冒険者という括りにしても弱い。
笑ってしまうくらいに弱い。
ならば[フリーウォーク]は弱いギルドなのかといえばそうでもない。
十分に上位に位置するギルドの一つだと思う。
設立当初、彼の考えに賛同する人達が[フリーウォーク]を立ち上げたが、
その考えに賛同したメンバーは実績のある冒険者たちが多かったのだ。
やはりある程度は個人が自立できる強さがないと支援をしていくという考えには至らない。(弱い彼が大きな声でこれを提唱した、というところが彼の強さなのだろう)
エトーは人との関係性や交渉力、組織内での好循環を築くシステムとしての強者なのだ。
そして、このギルドの居心地の良さに居ついてしまうメンバーが多かった。
基本は自分の仕事をしながら、気の向いたときにエトーの手伝いをする。
そんな人たちの集まりが[フリーウォーク]だ。
名前の通り自由な人が多いため、各々好きなところに住み、好きな時にこのホームに顔を出す。
そして私も途中参加ながらここを居心地良く感じ、居ついてしまったメンバーというわけだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
いつものやり取りが終わったところで、私はエトーに話しかける。
「ところで今日はギルドの仕事は無いよね?」
「そうですね、新人研修の方は今預かっていないですし、他ギルドからの支援の要請も現状は特にないですね」
「だよねー。誰か暇なメンバーがいたら一緒に組合の依頼でも受けようかなと思って顔を出したんだけどー・・・」
そんな話をしているタイミングで大きい音と共にホームの扉が開いた。
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