第4話 織木さんの譲れない決断

畑をください

今 私の願いごとが

叶うならば 畑がほしい

この空き地に 種を撒いて

小麦と野菜 植えてください


この農場に 畑を広げ

植えていきたいよ

空き地を埋めて 小麦と野菜

畑耕して 植えたい





 ……って、こんなしょーもない替え歌を脳内再生してる場合じゃなくて!

 ああああああああ、負けた! また負けたーっ!


「はい、お疲れ様ー。俺46点、くびきさん42点、織木さん45点。いやー、しんどいゲームだったね」

「ホントにねー。こんな何もかも噛み合わないの久々だったわ。ラス取っちったー」


 私、織木羊子は今日も今日とてサンナナにて、ほらっちさん、くびきさんとアグリコラの3人戦。全体的に回ってるカードがローパワーで飯がキツイ中、全員で浅ましく家畜と漁飯を奪い合うという醜い飯争奪戦を経て、これまた全員で畑を奪い合う最終盤に突入。最後は畑1枚の差でほらっちさんが勝ちましたとさ。


「……3グリって、こんなに畑、辛いもんでしたっけ……?」

「ドラフトで畑補助が全然回ってなくて、畑先行の人もいなかったからね。最初に畑行ったのって、くびきさんだっけ?」

「うん。確か、9ラウンドじゃなかったかな」

「畑が使われたのが9から14ラウンドで、畑種がめくれたのが13ラウンドだから、ゲーム中に畑を置く機会は8回しかなかったことになるね。俺とくびきさんが3、織木さんが2だから、数は合ってるね」

「うーん……もっと序盤から畑に行っとくべきだったのかなぁ……?」

「増築増員を急いでも、増やしたワーカーでやることがなかったら意味がないからね。畑がキツイ展開になることが予想出来てたら、序盤から畑に行くのもありかもね」


 今回の私は『生け垣管理人』と『残飯』で、柵に行く度に3木軽減で柵を引けて、なおかつ豚さんももらえるという柵コンボを軸に組み立てるプランだった。だったんだけど、ワーカーを4人にするのを急いだ結果、飯がキツ過ぎてせっかくの豚さんをもらった端から調理場で食べなきゃいけない展開になり、なかなか繁殖態勢を作れず失速。

 こんなことになるなら3人で止めておいて、まずは豚さんの繁殖態勢を作るのを優先した方が良かったんだろうか……? 飯行動に手番を取られ過ぎたし、3人なら資材集めと飯行動の手番を減らせるから、中盤に1回か2回は畑に行く暇があったかも。


「やっぱりまだまだ実力不足ですね……わりと惜しいところまでは行くんですけど、あとちょっとのところで勝てないんですよね」

「いや、織木さんも十分強いよ。今回俺が勝てたのはファーストピックが『乳牛王子』で、最初から畑はある程度捨ててたから。それで、たまたま畑がキツイ展開と相性が良かったからだと思うんだよね」


『乳牛王子』は、得点計算時に牛さんが1頭以上いる農場のスペース(部屋も含む)1につきボーナス1点を得るという職業カード。このカードの使い方で一番スタンダードなのは、1区画6マスの大きな牧場を作って、その中に牛さんを6頭入れちゃうというもの。これで牛さんの4点に加えてボーナスも6点! 今回のほらっちさんの牧場がまさにこの形。ただ、牧場をこの形にすると必然的に畑のスペースを減らさざるを得なくなるので、どうしても畑の点数は下がる。逆に言えば、畑の低得点をボーナス点で補うカード、とも言えるね。『かいば桶』に似てるかも。


「まー、どうしても勝敗に運は絡んじゃうからねー。織木ちゃんもそのうち勝てると思うよ」


 くびきさんはそう言ってくれたけど、私は本当にこのゲームで勝ててない。私の知り合いの中では、ほらっちさん、くびきさん、石積君、甘菜ちゃんが4強。で、私がアグリコラをすると、必ずこの4人の中の誰かが1位になっている。私はというと、2位コレクターなんじゃないかってぐらい2位が多い。

 そう、2位にはなれるんだ。3人戦以上で2位にはなれるんだから、実力的にはこの4人とそこまで大きな差はないはず。ないはずなんだけど、1位になったことはない。

 アグリコラを始めて、もうすぐ3か月になる。私は未だに、アグリコラで勝ったことがなかった。


「そういえば、今日は織木ちゃん一人なんだね。マナブーは一緒じゃないんだ?」

「私と石積君をセット扱いしないでください。今日は石積君は一家で動物園にお出かけだそうですよ」

「うわー、この暑いのによく動物園なんかに行くねー」

「ホントですよ」


 なんでも今日の最高気温は34度らしい。この炎天下であのクソ広い動物園の中を歩き回るとか、正気の沙汰じゃないわ。まー、私もバドミントンをしていた頃は、夏場の締め切った体育館で毎日のように熱中症になりかけてたけど。今にして思えばよくやってたな。

 ちなみに今日の私の服装は、Tシャツにショートパンツにサンダル、髪はポニーテール。サンナナの店内はエアコンが効いてるけど、何しろここに辿り着くまでに汗だくになるので、露出が多くなっちゃうのは仕方ないよね。


「じゃあ次は何しようか。『ウイングスパン』とかどう?」

「んー、そうですねー……」


 アグリコラのボードやコマを片付けながら、次にやるゲームを話し合う。正直なことを言えば、私はまだアグリコラをやりたい。負けて悔しい思いをしたまま、アグリコラを片付けたくない。だけど、サンナナはいろんな人が来るところだし、ほらっちさんやくびきさんだって、アグリコラ以外のゲームをやりたいこともあるだろう。

 だから私は自分の気持ちを押し殺して、アグリコラを片付ける。次こそは勝つぞ、と心に誓いながら。

 ……本当に、勝てる日が来るんだろうか。


 くびきさんは、織木ちゃんもそのうち勝てると思うよ、と言ってくれた。勝負は時の運だから、と。だけど、ここまで勝てないということは、やっぱりどこか実力が足りてないんだと思う。試合直後はミスをしたつもりはなくても、振り返ってみるとあそこがミスだった、なんてのはよくある話で。さっきの試合だって、飯と畑がキツイ展開だって予想して、それに合わせたプレイングをしていれば、勝てていた可能性はある。

 私が勝てない最大の原因は、ただの実力不足。運なんかのせいにするつもりはさらさらない。

 だけど、それでも。

 ここまで2位ばかりで接戦を落とし続けていると、つい、考えてしまうのだ。


 神様。

 たまには私の味方をしてくれたっていいじゃないか、と。

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