次は、絶対

「まずは石積君から……51点! 鋤手助手と家畜餌やりが出てきたときはやべえなこれって思ったんだけど、意外と伸びなかったね。盤外点も取れてるけど、部屋点が3点なのと最後まで4人だったのが、そこまでハネなかった原因かな?」

「もうちょいいけるかなと思ったんですけど、木がきつくてきつくて……まあ今回はウイスキー樽を初めて出せたので」


 石積君は51点かー。確かに日雇いコンボは強かったけど、他のカードはそこまでって感じだったしね。ウイスキー樽の評価は……私の中では、やっぱり低いままかな。


「俺は、55点。最後に『羊持ち』と『装蹄刀』で盤外点取れたのが大きかったな。あれなかったらほぼほぼ盤面点だけで終わるところだった」


 ほらっちさんが終盤に使った羊持ちと装蹄刀は、どちらも羊さんを一定の数飼えたらボーナス点を得られるというカード。羊持ちは7匹になったとき3点、装蹄刀は6匹になったとき2点だったかな。地味に見えるけど、盤面だけじゃ50点を越えることはほとんどないから、こういうカードをピックしておくことが、合計得点の底上げには重要なんだよね。


「織木さんは、51点」

「えっ、けっこうグダグダだったのに。そんなにいってたんだ」


 石積君と同点か。てっきり最下位だと思ってた。


「クラビだけで12点だからね。でも余ったレンガを製陶所に回したり、木の確保に見切りをつけて柵を早めに引いたりしてたのは、良い判断だったと思うよ」


 まあ悪いなりに頑張ったつもりではあるんだけど。結局、50点越えたのはクラビのカードパワーのおかげなんだよなぁ。せっかく最強クラスのカードが引けたんだから、勝ちたかったー。


「くびきさんは……56点! ぬあーっ、負けたー! 1点差かー!」

「いえーい! やったぜー!」


 くびきさんの勝ちかー! やっぱりラストの怠惰な種まきかー!


「いやー、でも全員50点越えでしょ? 今回はレベル高かったねー。織木ちゃんもめっちゃ強かったわー」


 うーん……負けた試合の後で褒められても……私、今回はそんなにうまく動けてなかったような?


「私が50点越えたのは、ほとんどクラビのおかげですけど……」

「もちろんクラビだからっていうのはあるけど、私はめっちゃ警戒してたよ。今日私が勝てたのは運もあったんじゃないかな。5ラウンドに増員がめくれてて、間借り人で最速増員が出来てたら、たぶん織木ちゃんが勝ってたと思うよ」


 それは……もしかしたらそうかもしれないけど。でも、運の問題で片付けないで、カードのめくれ方に合わせた動き方が出来るようにならないと、アグリコラの実力は上がっていかないと思う。もっとプレイングの引き出しを増やして、臨機応変に動けるようにならないとなぁ。

 そうだ。試合が終わった今だからこそ、訊いておきたいことがある。


「くびきさん、私が1軒増築しないで2軒増築に向かってたら、9ラウンド目に邪魔してました?」

「んー、間借り人がいなくなるから、わりとする理由はあるよね。織木ちゃんのことはマークしてたから。でも、私は私で2軒増築まで引っ張りたかったし、終わってみたらほらっちと1点差だったし」


 くびきさんは、意地の悪い笑みを浮かべて、こう答えた。


「そのときになってみないとわからないかなー」


 ……やっぱり。食えない人だな、くびきさん。





「いやー、しかし。今回も夫婦でワンツー取られちゃったかぁ」


 何気なく石積君が放った一言に、私は耳を疑った。


「……へ? 夫婦って、どういうこと?」

「ああ、言ってなかったね、そういえば。ほらっちさんとくびきさん、結婚してるんだ」

「えー!? マジで!? そうだったんですか!?」

「うん。そういや言ってなかったわー」


 あっけらかんと言い放つくびきさん。


「あー、改めて自己紹介しといた方がいいかな。ここではほらっちで通ってるけど、本名は牛込耕作です。くびきさんの夫です」

「はい、ほらっちの妻でーす」


 ……そうだったんだ……いや、でも……。


「なんでほらっちさんのこと、ほらっちさんて呼んでるんですか?」

「元々ゲームで知り合った仲だからね。そのときからずっとほらっちって呼んでるから、ゲームやってるときは今でもついほらっちって呼んじゃうんだよね。やっぱりそっちの方がしっくり来るんだよ。家にいるときは、ちゃんと名前で呼ぶようにしてるけど」

「たまに間違えるよね」

「うるさいな!」


 そっか。そうだったんだ。なんでだろう。なんかちょっと、気が抜けちゃったな。


「お二人、仲良かったですもんね。なんか納得しました」


 わりと素直に、言葉が出た。


「だってさ。良かったね、ほらっち」


 ちょっと照れているほらっちさんを、肘で小突くくびきさん。そう言うくびきさんも、嬉しそうだ。

 なんか、いいな。趣味が一致している人と結婚できるのって。アグリコラが出来る人と結婚出来たら、毎日楽しそう。

 ……って、いやいや! 何、妙な想像してるんだ、私! 石積君はそういうのじゃないから! あり得ないから!


「帰るまでちょっと時間余ってるよねー。マナブーと織木ちゃん、時間は?」

「僕たちもそんな感じですよ。なんか軽ゲーでも回します?」

「織木さん、せっかくサンナナ来たのにアグリコラしかやってないしね。他のゲームも一つぐらいやってもらいたいなぁ」

「じゃあ、これなんてどうです?」





 そう言って、石積君が棚から取り出したゲームは、『ニムト』。

 ルールはいたってシンプルで、一言で説明すると「カードを取らないようにするゲーム」。

 ゲームの準備として、まずはカードを10枚ずつ各プレイヤーに配り手札として、その後山札から、場に4枚を縦に一列に揃えて並べる。これで準備は完了。

 ゲームの流れは、手札から伏せて出したカードを、プレイヤー全員で一斉にオープン。出した数字が一番小さいプレイヤーから、場に並べられた4枚のカードの横に並べていく。カードを並べるルールは、「出した数字より小さくて近い数字の横に並べる」という認識でOKかな。で、一列の6枚目のカードを出してしまった人は、出したカードをそのまま残して、その列の他の5枚のカードを引き取らなくてはならない。出したカードより小さい数字がないときは、任意の一列のカードを全て引き取って、その列に出したカードを置く。手札がなくなるまで、これを繰り返す。手札がなくなったら場をリセットして、カードを配り直す。それぞれのカードにはマイナス点の証である牛さんのマークが描かれていて、引き取ったカードのマイナス点の合計が66点を越えたら、その人の負け。で、その時点のマイナス点が一番少ない人の勝ち。ざっと説明するとこんな感じ。


「うえー、また引き取らないとダメじゃーん、さっきから織木ちゃんの出す数字、ピンポイント過ぎなーい?」

「いやー、なんででしょうねー、別にくびきさんをハメようとしてるわけじゃないんですけど」

「くびきさん、そろそろリーチかかってるんじゃないですか?」


 すごくシンプルなゲームだけど、これはこれで面白いな。アグリコラは1ゲームに時間がかかるし、ルールの量が多くてかなり人を選ぶゲームだと思うけど、このぐらいのゲームなら誰でも気軽に遊べそう。今度、友達も連れてこようかな。


「だーっ、負けたー。なんなの織木ちゃんの強さ。全然引き取ってないじゃん!」

「いやー、手なりでやってただけなんですけどねー」

「今回の牛王はくびきさんだね。牛込だけに!」

「名前は関係ないでしょーっ! だいたい、ほらっちだって牛込なんだし、元々はあんたの名字じゃん!」

「ちなみにくびきさんて、結婚前はなんて名字だったんですか?」

「えー……織木ちゃん、それ、訊いちゃう?」


 しばしの沈黙。

 あれ……なんだろう、この何かを期待しているような、妙な間は。

 これもしかして、別に私が押さなくても答えざるを得ない状況ってやつなんじゃ?


「いえ、言いたくないなら別にいいですけど」


 ここはあえて引いて、年上に気を遣う年下アピールをしてみる。

 やがてくびきさんは、斜め下に視線を逸らして、つぶやくようにボソッと漏らした。


「……牛島」


 見計らったかのように、ほらっちさんと石積君が爆笑。


「今とたいして変わんないじゃないですかー!」


 もちろん、私も笑いながらツッコミを入れた。


「やかましい! 織木ちゃんはいいけど! ほらっち! マナブー! あんたらは笑うな!」

「えー! なんで僕まで!」

「あんただって前から知ってたでしょうが!」


 くびきさん……か。最初はちょっと苦手なタイプの人かなって思ったけど。うん。仲良くやっていけそうかな。

 って、何安心してるんだ、私。アグリコラでは負けたんだぞ。


 見てろよ、くびきさん。次は、絶対、勝つからな!

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