私のことなんだけどね

 5ラウンド目。めくられたカードは改築。せっかく増築一番乗りだったのに、増員はお預けか。この前の嫌な記憶が脳裏をよぎるなぁ。


「じゃあ移動キッチンで1飯もらって……うーん、ここは6木材かな」


 変わらずスタプレの石積君は、そう言って6木材を持って行った。


「ふーん。増築レディとか言っといて増築しないんだ?」

「うん。今増築しても、たぶん甘菜に先越されるんだよね。織木さんは次スタプレ打つでしょ?」

「そりゃ、まあね。はい、1木払って『攪乳器かくにゅうき』」


 言いながら『集会所』のスペースにワーカーを置いて、手札の小進歩カードを手元に置く。スタプレの正式名称は『集会所』なんだけど、みんなスタプレとしか呼んでない。


「織木さんの次は甘菜だから、次のラウンドに織木さんが増員した後に、甘菜にスタプレ打たれて増築されたら、結局僕は増員できなくなるんだよ。プレイ順が悪かったね」

「でもそれなら、甘菜ちゃんがスタプレ打った後に石積君が増築すればいいんじゃないの?」

「いや、甘菜がこのラウンドに増築したら結局無理だから」

「あ、そっか」

「私まだ増築しないよ、お兄ちゃん。4木材ね」

「じゃあ、僕は授業で。1飯払って『大工』。増築に使う資材が、家の資材3と葦2になるよ」


 そして私の手番が回ってきた。えっと……どうしよう。他人の増員の心配してる場合じゃないんだよね。私が次の収穫までに絶対やっておかなきゃいけないことは、増員と、大進歩の『かまど』を取って、羊さんを食べられるようにしておくこと。かまどのコストはレンガ2個、もしくは3個なんだけど、2か所あるレンガの累積スペースには、今は両方とも2レンガしかない。他にやることないし、2レンガ取ってかまどを取れるようにしておきたいけど……そしたら石積君、2レンガのかまど取るぐらいのことはやってきそうだなぁ。ぐぐぐ……でも、ここは2レンガ取るしかないか。


「2レンガで……」


 恐る恐る、2レンガを持って行く私。だって、しょうがないじゃん! どうしたって、あのときの記憶がフラッシュバックしちゃうんだよ! セーフティネットの漁も、石積君に枯らされちゃったし! ほんと嫌なことしてくれたな、石積君!

 

「うーん。タイミング的には、今やっといた方がいいかな……」


 あ。甘菜ちゃん、大進歩にワーカー置いた。お願いだから、嫌がらせのためだけにかまど取るとか、そういうトチ狂ったことはやめてね? そんなことしたら、せっかく出した石切りさんが泣くよ? ちゃんとレンガ窯取ってパン焼こうね?


「レンガ窯取ります。すぐにパン焼いて、5飯もらいますね」


 ありがとう甘菜ちゃん。さっきちょっと怖いとか思っちゃったけど、やっぱり甘菜ちゃんは良い子だよ。

 まあ、それはそれとして。


「甘菜ちゃん、増築しないの?」

「はい。次織木さんがスタプレで、次の手番が私なので。そこで私が増築しちゃえば、お兄ちゃんは増築できませんから。こっちの方がスタプレ取りに行かなくても良い分良いかなって」


 うへー。石積君も甘菜ちゃんも、めっちゃ考えてるな。私が2人の立場だったら、絶対ミスってる自信あるわ。何も考えなくていい増築一番乗りで、ホント良かった……。


 6ラウンド目。めくられたカードは増員。よっしゃー! ここで増員出なかったらホントきつかった! でも慌てないよ! 急いては事を仕損じる! だってまだ石積君も甘菜ちゃんも増築してないし! 増員するのは2手目で良い! それならやることはこれ一択!


「かまど取るよ!」


 大進歩にワーカーを置いて、鼻息を荒くしてコスト2レンガのかまどを持って行く。良かったー! これで羊さんを食べられる!


「落ち着いて、織木さん。ちゃんと2レンガ払ってね」

「あ、ごめん。はい、2レンガね」

「よっぽどこの前のがトラウマなんですね……かまどを取っただけで、そんな、何か大きなことを成し遂げたような顔をするなんて……」


 そう言いながら、甘菜ちゃんは予定通り増築。

 石積君は2葦と、地質学者の1レンガ。ってあれ? 石積君、いつの間にか手元にめっちゃ大量の木材(数えられない)と4葦持ってる? それで増築のコストを軽減できる『大工』を出してる? ってことは……。


「石積君、増築レディだよって人の増築を煽っといて……後から悠々と、2軒増築する気だったんじゃん……」

「いや、たまたまだよ」


 増築のアクションスペースでは、資材さえ払うことが出来れば、建てられる部屋の数に制限はない。石積君は大工を出してるから、6木材と4葦があれば、一気に2軒増築することが可能になる。

 ちなみに、部屋なのに2軒と数えるのはおかしい気がするけれど、これは単に言いやすいからだと思う。私もわざわざ行儀よく2部屋増築って言う気はしない。


「織木さん、うんとお兄ちゃんのこと嫌っていいよ。こういうことする人だから」

「それは、この前ので身に染みてわかってるよ、甘菜ちゃん……」


 石積君は、「普通にやってるだけなのに……」と不満顔だ。




 そういえば、いたなぁ、バドミントンでも。

 決められる場面なのにわざとギリギリで拾わせて相手の体力を削りに行ったり、選球眼が悪い相手にわざとアウトになるコースに打ち込んで拾わせたり、そういう陰湿なことしてくるヤツ。


 まあ、私のことなんだけどね。

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