世界を革命する力を



何事もなき一日の終点に妻泣きながら出す妊娠検査薬けんさやく





玉子豆腐食べながら待つ午前四時ベッドカバーをふと取りかえる





体中の毛を剃る不幸思いつつ俺のもんじゃない歯ブラシがある





妻の背のファスナーおろしその肌にもうひとつファスナーあればなおよし





不発弾ねむれる閨に忍びこみ枕を抜いて避難するわれ





うまれゆくいのちの緋色ちのいろ緋色陽性反応いろ濃き緋色





子宮(Matrikaria)の名前を冠すカモミールの枯れゆくごとき寝室のさい





君の背のクレーターの場所たしかめて指でなぞれりならすごとくに





涸れていく妻のまなこを見つめられず誰かが泣いている休養室に





地下鉄代が百円も足りぬ改札でああそういえば頭も痛い





涙目のうさぎのからだ横たわるクレーターからこぼれだす愛





信号に足止めされるひとびとの表情どこか安堵を帯びる





あ、来た。とエレベーターに乗りこんだ女子高生の押しこむ「開」





妻を抱く夜のひかりの強さだけ翳はシーツに伸びてゆくなり





メロンパンの消えていた朝に糾すれば「うまかった」とぞ妻は答えき





言葉なくダブルベッドに眠るときふたりは両腕のようにはなれて





八か月の俺が立ち上がった夜にまぎれもなく消えていった寵愛





帰りきて靴脱ぎたれば揚げ物の香りただよう妻が「おかえり」

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第一短歌作品集 餞 今村章生 @imamuraf

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