ひかりのせかい



水銀式の体温計をくわえつつそっと歯を立てる 明日は週末





ふくれあがった朝刊の折り目、みどりごのこぶし、いつかあまやかな日々





ゴミ処理場の煙が風になるまひる月は捨てられたこどもではなし





夜の部屋に車の音は寄せかえし このベランダの先、きっと海





長雨に傘あふれたる傘立てに傘をなくしてそれはもう森





ペットボトルのふたになっちまえ俺なんか! 世界はこの腕の長さだけしか





影が消えてあっと思って手を出せばさらさらと砂であった人影





「代金は男が持つ」という信念の意味を探すうちに奢られる





まっくらなホームでひとを待つ僕に「ほら」からっぽの地下鉄が来る





天皇は己を天皇と呼ばぬゆえわれ愛す天皇てきないろいろ





セーターのほつれた毛糸のようなわが指ひきたれどこわれぬからだ





冷凍庫にあるものなべて固体なれば動くごと解凍をすすめるからだ





物干し竿を架台にかける 火星探査機を狙ったところに落とす仕組みで





むせかえる市バスのなかでひとしきりあなたの顔を思い出してる





おつりがすくなくなるように出す努力してすみやかに失われゆく勇気





もし君が死んだとしても郵便受けに不在通知は投げこまれつづける





洗濯槽の遠心力に負けぬよう十円玉よやかましく鳴れ





灯台のように長ねぎつきささる少年の自転車まぶしき夕べ





カーテンをあける春、下水のゆきつく先、なんとも世界は光に満ちて

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