Wonderful Opportunity



原稿の束をホチキスでとめたればふと『キル・ビル』のひとこまよぎる





会社員のふりをしている人質が最終電車に詰めこまれつつ





絞首刑のみずみずしさに百均のネクタイをまたなくしてしまう





吸殻を蹴散らしながら名駅にてらてらと背広の二列渋滞





月曜の電車の揺れの無情さにみな一様にかたむいており





うつうつと卯月の午後の研修に講師のタイも右に曲がれり





同行する新入社員も振り切って営業課長の歩みは早し





上役がことごとく獣の香りするわが社の社訓に「進化」とぞある





賢妻と冷戦続く木曜の弁当に白米しか入ってねえ





昼休みに課長代理がデスクにて八十四円のパンを食べてる





係長に黙礼すれば男子便所のロゴたくましくくびれたくるぶし





柔和なる笑顔の独身係長のスーツは今日もぶかぶかである





気が付けば三十分ほど眠ってていいのかよ俺が透けているオフィス





エラーチェックかぎりなくある真夏日にPCマシンは蝉の声で鳴くかな





うつらうつらしている十五時の同僚の長いまつ毛にふとみとれたり





間仕切りのむこうで響く怒声あり課長代理よ明日も宜候ようそろ





賞与の実態にわれら愕然とくずれおちつつ 宴もたけなわ





わが妻のふくれっつらを思いつつコメダでアフターファイブをつぶす





帰りきて腕時計すぐ外したれば下手人のあと残れる手首





断たれたる尾をひるがえすつばくらめ南方に帰る家はあるのか?





衣替え終わる未明のうたたねにはじめて仕事の夢を見ました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る