置き忘れたレモンのような顔をして母は喪服の帯を選びぬ

洗濯槽に置き去られたるポロシャツに祖父のひと日を思い起こしつ

料金の話題ほどよく避けながら葬儀屋がドライアイスを換える

くち薄く開きしままの（おじいちゃんの）かさかさとしたおもてをなぞる

認知症の祖母のほとりに座したれどおはようなども言えぬたがいに

「かのか」なる２Ｌパックの焼酎を棺の足にずっしり乗せる

老体のなまの重さを運びつつ段差に足を踏み外す伯父

知恵の書を引きたる神父の日本語のたどたどしさに眠気醒めたり

「生きのこった」という口ぐせ追憶し通夜番にとりあえず太巻きをはむ

涙するひと見てあわてて涙する　棺をおろす長い階段

赤の他人の棺桶となりに並びたる焼き場でまさかの待合室２

火葬する必要性を自答するひとにだけ鳴る骨上げのベル

参列者二百人という勘定にわが携帯のメモリ数よぎる

祖父君の遺影をすんでに思いだし写す親族一同写真

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