絵本の魔女リテラ

御伽ハルノ

プロローグ


こんな噂話があります。

———この国のどこかに本物の魔女がいる

———魔女はどんな願いでも魔法で叶えてくれる

———魔女は願いを叶える代わりにその者の魂を奪う

幼い頃誰もが読んだ物語にあったような、ありふれた噂。

誰が口にしたのか、そんな突飛な話を信じる人などいるはずもなく、けれど噂話には絶えることなく広まります。

好奇心旺盛な者たち、あるいはどうしても叶えたい願いを持つ者は必死に魔女を探し回ります。

ある時は古い町並みのさらに奥を。

ある時は暗く閉ざされた海の底を。

ある時は晴空に架かる虹の果てを

しかし魔女は見つかりません。

誰もが魔女の存在を忘れようとした時、噂話は遊び心を帯びます。

 

曰く、魔女は年老いたシワだらけの老婆だと。

曰く、魔女は不老不死の悪魔だと。

曰く、魔女は何者でもないと。

 

人々は再び魔女を探し回りました。

しかし彼らは気づきません。

耳を澄ませば、クスクスと悪戯にせせらぐ嗤い声が聞こえることに。

目を凝らせば、蠱惑的に手招く煉瓦色の扉が見えることに。

 

木とインクと紅茶の香りが混じる蔵書の森に来客のベルが鳴ります。

魔女は分厚い表紙に挟まれた本をパタリと閉じて、

「いらっしゃい。よく来てくれたわね。何はともあれまずはお茶にしましょう」

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