「何も有耶無耶にならないお伽話 白雪姫」

御伽アトリ

「何も有耶無耶にならないお伽話 白雪姫」

登場人物

裁判長

原告代理

被告代理

白雪姫

王子

小人

王妃


場所 割と簡素な裁判所

明転


王子 うわ、さっむ。なんだここは。うちの小間使いの部屋でももう少しちゃ

   んとしているぞ

被告代理 まあいいじゃないですか。支障はないんですし

王子 いいわけあるか、こういうところでちゃんとしないと国の品性に関わる

   んだ。全くなんでわざわざこんな物好きしか住まない辺境な国まで

王妃 物好きな国で悪かったわね

王子 これはお義母様、噂通り美しいお姿で

王妃 あなたにお母さんなんて言われる筋合いはないわ、この誘拐犯が。さっ

   さと娘を返してもらうわよ

王子 酷い言い方ですね。彼女は俺が救ってあげたんだ。本来ならそちらが礼

   をするのが礼儀じゃないんですかね

王妃 ……あなた、距離が近い

王子 え?

王妃 そんな一気に迫ってこないで。人との距離は1メートル以上空けるのが

   常識でしょ

王子 え、いや、そんなことより

被告代理 はいはい、テンプレなやりとりお疲れ様です王子、そろそろ裁判長

     が来るので座りましょうね

王子 あ、はい。すみません


裁判長、登場


裁判長 はいみなさん、席についてください。これより白雪姫誘拐事件の裁判

    を行います。今回は双方著名人であることを配慮し傍聴席には誰もい

    ません。また、不正が働かないよう絶対中立を守るべく独立国家の判

    事である私が担当させていただきます。思う存分議論をしてください

王子 すみません、本当にここでやるんですか

裁判長 そうです。どうなさいましたか

王子 一応国のトップが行う裁判ですよ。もう少しマシな場所は

裁判長 あいにくこの時期はどこも埋まっていまして

王子 空調とかも全然効いてませんし

裁判長 それくらい我慢してください

王子 でもこれ、ただ長机を並べただけ……

裁判長 それより貴方、マスクは?

王子 え?

裁判長 いくら王子とはいえ非常識ですよ。誰かこの人の分のフェイスシール

    ド持ってきてください

被告代理 では私の予備を貸します

王子 えーと、あ、そういう感じですか。わかりました。すみません。ありが

   とうございます

裁判長 それでは起立、礼、開廷します


全員立ち上がり礼をすると席に着く


裁判長 遡ること1年と3月、原告は原因不明の病によりこん睡状態に陥る。

    しかしその現場にたまたま立ち寄った被告は、眠っている原告と接吻

    その後に原告は目を覚まし、双方同意の元婚約を結んだ。ここまでの

    経緯に間違いはありませんね

原告代理 はい

裁判長 原告代理、いかがなさいましたか

原告代理 双方同意の元とありますが、彼女は長い眠りから覚めたばかり。い

     きなりの出来事に混乱し無理やり彼の領土へ連れて行かれた可能性

     が高いと思われます。また白雪姫が目を覚ましたとはいえ寝込みの

     女性を襲うのは準強制性交等罪にあてはまります

被告代理 異議あり、確かに原告は当時意識がはっきりしていませんが、その

     後正規の手続きを踏んでいます。それに口づけ程度が犯罪なら人工

     呼吸はどうなるんですか。結果的に彼女が目を覚ましたならそれを

     とやかく言われる筋合いはありません

原告代理 ではあなた個人に質問します。もし外見性格ともに難があり無駄な

     プライドが高いだけの無職に、寝ている間にキスされて目を覚まし

     たらどうしますか

被告代理 それは……

原告代理 今回は外見はともかくたまたま相手が国家権力に位置するから許し

     ちゃっているんじゃないんですか

王子 外見はともかくってどういう意味だ、おい

被告代理 そんなの関係ありません。原因はともあれ命を救ってもらったらい

     くら相手がブスでも多少恩は感じるものです

原告代理 そもそも被告は医療免許を所持していません。縁談を断られ続け、

     モテない男の欲求が爆発したんじゃないんですか

王子 は!ばっか言え。全然モテるし。縁談を断っているのはこっちだし

裁判長 被告、嘘はいけません。ここは法廷ですよ

王子 なんでここで止めに入るんだよ。その前に脱線した討論を止めろよ

裁判長 却下します

王子 なんでだよ

被告代理 過去の事例によれば昏睡状態の女性に口づけし、それが医療行為に

     認められたケースがあります

裁判長 なるほど、私にも覚えがあります。彼女の名前は

被告代理 オーロラ姫です

王子 いいの?それ世界観的に名前だしていいの?

原告代理 私もその件については調べました。確かに彼は資格こそ持っていま

     せんでしたが彼は国から依頼されています。その上かなりのイケメ

     ンでした。こちらになります

王子 それ関係あるのか

裁判長 見せなさい

王子 裁判長?え……裁判長?信じてますよ、絶対中立なんですよね


裁判長、写真を凝視する


裁判長 原告代理の主張を認めます

王子 裁判ちょおおお!顔か、やっぱり顔なのか

王妃 あなたさっきからちょっとうるさいのよ、何あからさまにツッコミのポ

   ジションにいるの

原告代理 そうです、一々口を挟まないでください

王子 だって、今のは明らかに忖度しているでしょ

被告代理 いいえ、今のはあなたが悪いです。いきなり大声出すから裁判長も

     びっくりしちゃっているじゃないですか

王妃 そうよ、謝りなさいよ

王子 何このドッチボールで女子にボール当てちゃったみたいな雰囲気。そも

   そもなんで女性しかいないんだよ

裁判長 こういったケースで男性が多いと考えが偏ってしまうからってわざわ

    ざ呼ばれたんです

王子 もう既に女性サイドに意見が傾いているのですが

裁判長 しかし双方の同意という点においてはまだ不明な点は多いです。そこ

    で彼女を連れてきてください

原告代理 はい


原告代理、白雪姫を連れてくる


王妃 白雪姫、久しぶりね、元気だった?

白雪姫 あー、はいどうもお久しぶりです。お変わりなくて何よりです

原告代理 なんか他人行儀じゃないですか

王妃 そ、そんなことないわよ。久しぶりだから緊張しているのよ。ねえ?

白雪姫 そうですね、こうしてまた再会できる日が来るとは思いませんでした。

     えーと……


白雪姫、カンペを取り出す


原告代理 あれ、なんか取り出してませんか

王妃 いや、私の写真じゃない?ほら一度行方不明だったし、私のも昔と少し

   変わったから

白雪姫 お母様は相変わらず美しいですね。あの日からお母様のこと一度たり

    とも忘れたことありません

原告代理 なんか言っていること全然違くありません

王妃 ……イヤイヤ、あの子優しいから

原告代理 いや、もう完全に読み上げたますよ。開き直ってカンペの読み上げ

     る部分堂々と探していますよ

王妃 静かに、ようやく見つけたみたいだから。きっと何か重要なことだから

白雪姫 お母様、私幸せになります

原告代理 よりによってそれかー

王妃 あのー白雪姫?それ結婚式の前に言うセリフよ

原告代理 白雪姫さん、彼女と何かあったのですか?

白雪姫 いえ、その、父の再婚相手で気まずい上にいつもは私に無頓着なくせ

    になんかいきなり愛想振りまいてだるいなーって

王妃 聞こえているわよ!

原告代理 すみません王妃、この裁判多分負けますけど絶対に私のせいではな

     いことは確かですから

王妃 もっと頑張りなさいよ

裁判長 感動の再会も済んだようなので尋問に移ります。白雪姫早く席につい

    てください

白雪姫 あ、すみません

裁判長 では原告代理

原告代理 はい、あなたはそこにいる王子に助けられ、同意を得た上で婚約を

     結んだ。それでいいですか?

白雪姫 あー大体合っています

原告代理 大体、とは?

白雪姫 いやあ、最初はまあ雰囲気に押されてかっこよく見えていたんですけ

    ど、でもしばらく一緒に暮らしてみて……はい

王子 どう言う意味だ、おい

王妃 バカな娘ね。なんでそんな簡単に結婚なんて決めたのよ

白雪姫 私だって年頃の女の子よ、真実の愛に憧れる年頃だもん

王子 真実の愛って、そんなディズニープリンセスじゃあるまいし

王妃 うっさいわねえ、女の子はいつだってディズニープリンセスなのよ!

王子 なんであんたがキレてんだよ

被告代理 二人とも世界観が崩れる発言は控えて。それにこのご時世キレ芸は

     古いよ。今は誰も傷つかないお笑いがトレンドなんだから

王子 お前こそなんの話してんだよ

裁判長 静粛に、原告代理、尋問を続けてください

原告代理 では白雪姫、彼の家に嫁ぐのは不服ですか

白雪姫 はい

王子 一体なぜなんだ

白雪姫 いやあ、助けられた手前強く出られなくて。そしたら気づかないうち

    に外堀からどんどん埋められて。もう断るに断れない状況まできちゃ

    ったんですよ

王妃 あなた見た目通り執念深いわね、そんなに幼い子が好きなの

王子 別にロリコンじゃねえよ、そもそも彼女をそんな風に追い詰めていたと

   は知らなかったんだ。悪かったと思っている

白雪姫 ええ……

原告代理 彼の言葉、どう思いますか

白雪姫 ちょっと信じられません

王子 そんな、

白雪姫 だってあの人幼い女の子なら見境なしですし

王子 え、そっち?ちょっと待ってそれ誤解なんだけど

裁判長 静粛に

原告代理 では白雪姫、貴方が王家の人間であることは伝えましたか

白雪姫 ええ、こっそり王子にだけ。あとついでに帰りたいって言ったんです

    けど……本当に言っていいんですか?

原告代理 はい、調べはついてます。彼らは安全です

王子 待て、何を言うつもりだ

白雪姫 小人さん達がどうなってもいいのかって脅されてて、彼らの生活を守

    りたいなら大人しくして欲しいと

裁判長 それは本当ですか

白雪姫 はい、一応第二の親みたいな存在なんで、守りたかったんです

王妃 ちょっと第二の親は私よ

原告代理 貴方は黙っててください

白雪姫 まあ、そんな感じで握りつぶされました

王子 クソッ

被告代理 何やっているんですか王子、そうやって女性を我が物にしようとす

     るからオタクの国は嫌われているんですよ

原告代理 また、彼の国はひどく男性優位です。他国の人間である彼女が安心

     して暮らせる環境とは思えません

王子 な、何を根拠に

原告代理 お手元にあるポスターを見てください。献血やみかん、あるいは自

     衛隊募集のポスターにまで、胸の大きな女の子やスカートが透けた

     女子高生のイラストを使っています。これは明らかに女性を性的に

     消費しています

被告代理 ちょっと待てえ!それは関係ないだろうが!異議あり、本編とは無

     関係な上にクリエイターや作品のファンへの侮辱行為です

王子 え、ど、どうした。ちょっと落ち着け

被告代理 王子は黙っててください

原告代理 あなたしっかり見ましたか、ひどいですよこれ。創作行為なら女性

     を性的搾取するのも許されるんですか

被告代理 何でもかんでも自分を被害者だと思い込みやがって、これだから女

     は嫌なんだ。このクソ野郎の弁護はしたくないけど、それ以上言う

     ならあんたら自称フェミニスト共を根こそぎ名誉毀損及び営業妨害

     で訴えるぞ、あ?

原告代理 上等ですよ、こっちこそ性的なコンテンツを根絶やしにしてやりま

     す。黒とオレンジの動画サイトの二の舞になりたくなければかかっ

     て来なさい

裁判長 静粛に、双方無関係な私情を挟み込まない。このポスターは証拠とし

    て認めることもできません

原告代理 すみません、熱くなりすぎました。

王妃 だ、大丈夫?何かあった?

原告代理 いえ、別件でちょっと

王子 お前も目的見失わないでね、さっきとんでもないこと口走っていたぞ

被告代理 すみません、つい本音が

王子 おい

原告代理 しかしこの著名を見てください。彼の国が男尊女卑が酷いのは事実

     です。彼のお父様やお爺様方も街で見かけた女性はなりふり構わず

     連れて帰る。女性の従業員には過剰なセクハラやパワハラ、何れに

     せよ不当な扱いを受けています。それが当たり前の社会です。他国

     の事情をとやかく言いませんが彼女にとっていい環境とは言い難い

     のは明らかです

白雪姫 あ、でも彼は他の女性に手を出したりしませんでしたよ

原告代理 それはロリコンだからでしょう

王妃 ロリコンだからねえ

被告代理 ロリコンが功をなしましたね

王子 ロリコンが功をなすって何?

原告代理 ですがロリコンなら尚更危険です

王子 だから違うって言ってるだろ

原告代理 もし彼女が成長した時、どんな待遇が待っているのか未知数という

    ことです。以上のことを踏まえ彼等との交流を一切断つべきです

王子 なんかめちゃくちゃ不利になっていない。大丈夫?

被告代理 大丈夫なわけないじゃないですか。だからやりたくなかったのに

王子 なんとかしろ、お前の仕事だろ

被告代理 はいはい、相変わらず女使い荒いですね

裁判長 では被告代理

被告代理 はい、では白雪姫にお聞きします。先ほど雰囲気に押されてと言い

     ましたね。と言うことは目覚める時のキスはどう思っているのです

     か

白雪姫 それは、記憶にないんですけど

被告代理 では想像してください。彼の顔をよくみて。ガラスの棺の中で急に

     彼に初めてのキスを奪われたと

白雪姫 それは……ぶふっ


白雪姫、王子の顔を見て突然吹き出す


王子 なんでだよ、そんなに言うほどブスじゃないだろ

被告代理 裁判長、当時のことを彼女はよく覚えていないので証人を連れてき

     ました

裁判長 許可します

王子 ねえ、今のやりとり意味あった?


被告代理、小人を連れてくる

小人、白雪姫と目が合うなり奇声をあげながら駆け寄る


小人 きゃー久しぶり!元気してた?なんか前より色っぽくなってるじゃん。

   あれから王子さまとは仲良くやってるの

白雪姫 そんなわけないじゃん、もしそうだったらこんなところにいないって

小人 それもそうね、でも一体何があったの。私たち号泣しながら見送ったの

   にこんなの悲しいわよ

白雪姫 それについてはマジごめーん。だってなんかそりが合わないって言う

    か、

裁判長 静粛に、仲良くもないのに道端で出くわした同級生みたいなノリは今

    すぐやめなさい

原告代理 そうよ、裁判長そのノリが嫌すぎて同級生見かけても知らない人の

     ふりしてダッシュで逃げるくらいなんだから

裁判長 原告代理、あとで来なさい

原告代理 え、

小人 あーすみません。でも私と白雪ちゃん超仲良しなんでご心配なく。なん

   かよくわかんないけどバリバリ答えちゃうから

王妃 というか、七人の小人に女性いたのね

小人 あー、流石に女の子がむさ苦しいジジイと屋根の下はまずいでしょって

   話になって私がおこりんぼさんと入れ替わった感じ

王妃 なんか制作側の事情の匂いがプンプンするのだけど

原告代理 王妃それ以上はツッコムのやめましょう

裁判長 では始めてください

被告代理 わかりました。では小人さん。白雪姫が目を覚ます時について、詳

     しく教えてください

小人 えーそうね。あの時はビックリしたなあ。なんかいきなり馬に乗って現

   れたかと思ったら、白雪ちゃん見るなりチューしちゃうんだもん。

原告代理 いきなりですか

小人 うん、なんか完全に自分の世界入ってて、私たちのことなんか見向きも

   してなかったし。あとなんかブツブツ言ってたかな。『ああ、なんて美し 

   い少女なんだ。こんなところで死んでしまうとはなんという悲劇か。こ

   の世に神がいるなら私の聖剣で……』

王子 やめろおお!おい、なんでこんなやつ呼んだ。完全に不利になっている

   じゃん

被告代理 落ち着いてください、王子。では改めて質問します。目覚めた時の

     彼女は被告に対し拒絶しましたか

小人 ううん、白雪ちゃん満更でもない態度だったよ

被告代理 手で彼を押しのけたり、嫌な顔一つしていませんでしたか

小人 全然してなかったよ

原告代理 しかし彼女は意識がはっきりしていない状態です。もしかしたら

     重症患者だったのかもしれなかったんですよ。もっと慎重になるべ

    きです

王子 そんなキスの一つや二つで

小人 あ、でも思いっきり舌入っていましたよ

王妃 貴様あああああ!

王子 えええええ

小人 あと手もなんかこんな感じで動いていました


小人、よくわからないが生々しい手の動きをする


王妃 人の娘に何してんだ、誰かあいつを処刑しろ

原告代理 落ち着いてください。あなたも意外と歳なんだから

王妃 それは口にするな

被告代理 裁判長、本来なら私は彼を弁護する立場ですが、こいつを一発ぶん

     殴ってもいいでしょうか

裁判長 閉廷後に許可します

王子 おい、法の番人が暴力を認めるな。ていうかお前が連れてきた証人だか

   らね。これに関して俺は悪くないからね

被告代理 はー、まあいいです。このご時世に安易な粘膜接触とは非常識極ま

     りませんがね。それでまとめると、いきなり現れては彼女の口に舌

     を入れ、思う存分貪って体も舐め回すように撫でても彼女は嫌そうな素振りはしなかったと

小人 あー大体合ってます

白雪姫 ええ、そうだったかな

被告代理 つまりその場ではなんか盛り上がっちゃって、でも冷静になってみ

     るとあんまりタイプじゃねーなーこいつ、約束なかったことにして

     くんねーかな、めんどくせえ、ということでいいですか

白雪姫 いや、そこまででは

被告代理 では仮に、彼が容姿が佐藤健や吉沢亮並みに精巧に整っていたらこ

     のまま結婚しちゃってもいいかなーと?

白雪姫 ……まあ、はい

被告代理 聞きましたか裁判ちょおおおお!女なんて所詮こんなものです。強

     引に行為を迫られていようと顔と体つき次第でホイホイついていく

     生き物なんですよ

王子 おい、なんか変なスイッチ入っていないか

原告代理 意義あり、仮にその時の行為が合意の元であっても彼が彼女の身分

     を知った上で脅迫した事実には変わりありません

被告代理 甘いですね。都合がいい時には猫なで声で守りもしない約束を結び、

     自分に不利になった途端ありもしないこと抜かすのが女です

王子 落ち着け、お前も生物学的には女だ

被告代理 加えて彼女の発言は先ほどからチグハグです。これは白雪姫の言葉

     に信憑性が問われますよ

白雪姫 でも私7歳ですよ。そりゃあ恋に盲目的になりますし、現実との違い

     にショックは受けます

原告代理 そうです、彼女はまだななさ……え?

全員 ええええええ?

原告代理 え、まじですか王妃

王妃 ごめん、私も初耳

被告代理 王子、流石に7歳に手を出すのはまずいですよ

王子 いやいやいや、俺だって知らなかったからね

被告代理 無理がありますよ。ロリコンどころかペドフィリアですよ

小人 なんかかっこいいですね、どう言う意味ですか

被告代理 うるさい!もう負けです負け、だから引き受けたくなかったのに

王子 いや気づかないって。だってリアルではこれで、絵に起こしたらこれだ

   よ。どこが7歳なんだよ

被告代理 あ、ばか


王子、スノーホワイトのポスターを取り出す


裁判長 被告、そんな大ぴらに見せないで下さい。赤いパンツを履いた黒鼠が

    来たらどうするんですか。こんな小さな団体なんて明日には舞浜の海

    に沈みますよ

王子 ああ!しまった!

被告代理 ああ、もうダメだ、私たちみんなハハッされる

小人 ハハッって何ですか

被告代理 うるさい!

原告代理 すみません、ちょっと調べたんですけど、グリム童話だと7歳でデ

     ィズニー公式だと14歳って設定されています

王妃 設定言うな

白雪姫 あれ、そうだったの?

被告代理 これどうしますか

裁判長 もうどうでもいいじゃないですか、どうせ明日にはみんなで夢の国な

    んです。もっとも夢は夢でも悪夢の方ですけどねエヘヘヘ

被告代理 裁判ちょおおおお

小人 あー、大丈夫じゃないですか、どうせこんな小さい団体にそこまで目光

   らせてないでしょうし

裁判長 ほんとですかぁ?私ハハッされませんか

小人 そのハハッが何か知らないんですけど、とりあえず続けましょうよ、もう情

   報過多でついていけてないですって

裁判長 じゃあ、14歳で。さっき原告が女の子はみんなディズニープリンセ

    スって言っていたので

王妃 いきなり適当になったわね

白雪姫 え、私年齢倍になるんですか

被告代理 収集つかないんでそうなります

白雪姫 ええ、

裁判長 被告代理、他に何か尋問はありますか

被告代理 いや、色々吹っ飛んでもう何もありません

裁判長 わかりました。では被告への尋問に移ります。


王妃、前へ出る

白雪姫、被告側の席に座る


小人 あれ、私はどうすればいいの?

裁判長 もう退出されて結構です

小人 あ、それなら面白そうなんで最後まで見ます


小人、原告側の席に座る


王子 何でそっち陣営に行くの

小人 いや、なんかこっちが勝ちそうだなーって

王子 ああ、うん、もう好きにして

裁判長 では被告代理

被告代理 ……

王子 おい、どうしたんだ?

被告代理 王子、今日初めてちゃんと謝ります、すみません

王子 今までの分は一切反省していないと?

被告代理 私の目的はハナっから勝つことじゃないんですよ

王子 まあ、今の所真面目な姿一回も見ていないからな

被告代理 じゃあ、質問させていただきます。王妃さん、あなた白雪姫とどれ

     ほど交流がありましたか

王妃 え?それは……仕事で忙しくて

被告代理 仕事が忙しくて構ってあげられなかった、とは言わせませんよ。国

     にウィルス撒かれようが娘が行方不明になろうが、外交とでっちあ

     げて散々バカンスしていたじゃないですか


被告代理、写真を懐から取り出す


被告代理 そんな怖い顔しないでください、王妃。ただ気になっていたんです

     よ。王子との結婚に不満はあるが、あなたの元に帰りたいという素

     ぶりは一切見せず、むしろ避けていた。あなた自身も娘の年齢さえ

     覚えたいなかった

王子 本人もわかっていなかったけどな

被告代理 あなた、元々中流階級の出ですよね。そんなあなたがどうして王の

     再婚相手に選ばれたのか。

王妃 何が言いたいのよ

被告代理 いえ、ただそれだけ美しければなんでも好きにできるだろうなーっ

     て、羨ましい限りです。世界一の美貌はどんな武力や権力よりも強

     いですから。どうです、国中の男を手篭めにした気分は

原告代理 異議あり、本編とは無関係な上に、原告を侮辱する内容です

裁判長 認めます。被告代理、今すぐに彼女へ謝罪の言葉を

被告代理 すみません、口が滑りました。では別の切り口から。そう言えば王

     妃様、娘さんがどうして昏睡状態になったのか知っていますか

王妃 い、いや、詳しい原因は不明って

被告代理 ええそうです。どこかのバカ王子が考えなしに連れて帰ったせいで

     彼女の体から原因が掴めなかったんですよ

王子 悪かったなバカ王子で

被告代理 でも彼女にこれといった持病も外傷もない。なら考えられるのは他

     者からの毒殺。私たちは徹底的に小人さんたちの家を調べましたが

     工具や採掘道具ばかりで毒にも薬にもなるものはありませんでした

小人 私ら鉱石掘りだからね

被告代理 でもその周辺に明らかにおかしなものが落ちていたんですよ。完全

     に腐敗していましたがリンゴです。あの森で採れる筈もないリンゴ

     です。どうやら齧りかけのようで調べてみたところ白雪姫とDNAが

     一致しました

王妃 それがなんだって言うのよ

白雪姫 あのー、と言うか私リンゴとか食べた覚えないんですけど

王妃 ほら、これも関係のない話じゃないの

被告代理 問題なのは彼女が食べた覚えがないと言うこと。これ以上言う必要

     ありますか

裁判長 つまり、何者かが彼女に毒を服用させたと

被告代理 はい、その通りです


小人、こっそり被告側の席に移動する

被告代理、腕時計に目をやる


被告代理 さてそろそろかな


突然一人の男が法廷に現れる


男 検査結果出ました!

被告代理 ご苦労様、立て続けにごめんね。今度好きなだけ奢るから

男 ありがとうございます、では失礼します


男、すぐさま退場する


王子 あいつこのためだけに呼ばれたの?

被告代理 さて、彼ら小人たちは一部の国民以外から秘匿にされた半奴隷のよ

     うな存在です。最低限の生活を保障する代わりに危険な採掘仕事を

     強要してきました。彼らの元にリンゴを売りつけるなど余程お偉い

     身分の方でないと無理ですよ

白雪姫 そうだったの?

小人 あー、あんまり知られたくなかったけど、実はね

王子 ていうかいつの間にこっちに来たんだ

小人 なんか有利っぽいからね、私はいつも強い方の味方だよ

王子 最低だよ

小人 さて、盛り上がってきたところで逆転裁判と行きますか、ぶちかましな!

王子 あんた何様だよ

被告代理 王妃、一体どこのアホが毒を売りつけたかご存知ですか

王妃 さあね、知るわけないでしょ。私は政(まつりごと)には関与していないんだ

原告代理 あなたまさか王妃が毒を盛ったと言いたいのですか。リンゴから毒

     が検出できない以上証拠不十分です

被告代理 では最後の謎に移りましょう。王子、あなたは私に隠そうとしたよ

     うですがあなたにそのやり方は向いていない

王子 どういう意味だ?

被告代理 あなたは私欲で白雪姫にディープキスしたんじゃない。解毒薬を服

     用させたんだ

王子 なっ!

被告代理 お宅の国とうちの国とで何やら取引があったようで、毒物の輸入

     を引き受ける代わりに都合のいいモルモットを提供すると。つまり

     あなたたち小人だ

小人 ……

白雪姫 え……そんな

原告代理 デタラメだ。そんなやりとりの形跡などうちにはなかった

被告代理 ええそうでしょう、でもうちの王子、あのクズ家系から生まれたと

     思えないほどバカなもんで、そーゆーずるいことやろうにもすぐに

     ボロが出る。だから、途中で取引をほっぽって、目の前の女の子助

     けちゃうラノベ主人公なんです

王妃 貴様、よくも……

王子 ……すみませ

白雪姫 謝らないでください。私はあなたはやったことが決して間違いだとは

    思いません。だから謝る必要なんてありません

王子 白雪姫……

原告代理 ですがそれも全てあなたの憶測ではないのですか。仮に王子が解毒

     薬を飲ませたとしても彼の国で生産した以上ただのマッチポンプと

     いうことも

被告代理 ええ、だからその証拠がこちらです。うちの国がサンプルとして送

     った薬品、これが王子が使用した解毒薬と完全中和致しました。

王妃 なんですって

原告代理 しかしそれでも自作自演は可能では

被告代理 さらに、白雪姫が咀嚼したと思われるリンゴ、これはあなた方の国

     でしか取り扱っていない品種のリンゴだ。流通していないものを

     我々が使うことなどできません。その上で異議があるなら今すぐ申

     し立ててください

原告代理 くっ!

王妃 ……

小人 パパパーパラッパ、パパパーパラッパ、パッパパッパパラララララ

白雪姫 今シリアス入るからリーガルハイのテーマソング歌わないの

小人 オゥリーゴッハ

原告代理 貴方それでも弁護士ですか。彼の利益を守るのが貴方の仕事のはず

     です。なのにそれを無視してやりたい放題

被告代理 だからさっき謝ったんです。私も少しは心苦しかったんですよ。で

     もそれ以上に許せないものがありましたから。ようやく尻尾を捕ま

     えましたよ、王妃

王妃 覚えておきなさいよ貴方、こんなことしてタダじゃおかないわよ

被告代理 こんな時までテンプレのセリフですね

王妃 私を誰だと思っているの

被告代理 私利私欲に溺れ、子供の可愛さに狂ったアバズレじゃないんならな

     んだっていうんですか

王妃 このくそガキが

被告代理 さて、これ以上やっても無駄なことはわかるでしょう。次にどうす

     るべきか明白では?

王妃 ……訴えを取り下げる

裁判長 わかりました、判決を言い渡します。原告の訴えを棄却する。あとの

    ことは追って言い渡します

小人 おお!勝ちましたよ、王子。勝訴です。早く裁判所前のお袋さんに勝訴

   の一筆を掲げないと

王子 ……そうだな。負ける以上に厄介なことしやがって

白雪姫 王子……

被告代理 これで終わりだと思わないことです。せっかく掴めた尻尾です。今

     度はこちらが刑事告訴し、あなた方が今まで犯してきた不正を全て

     晒します。確かに貴方がやってきたことは技術と国力の発展につな

     がった。でもね、国民や法を蔑ろにする政治が正しくあっちゃダメ

     でしょう

王妃 許さない、今度やるときは徹底的に叩き潰すわ。貴方の本当の依頼人も

   ろともね

原告代理 王妃、行きましょう


原告代理、王妃、退場


裁判長 全く、やってくれましたね

被告代理 はい、お陰様で好き勝手やれました

裁判長 やめてください。私にまで飛び火したらどうするんですか。でもまあ

    これが貴方のいう正義の形なら最後まで貫きなさい

被告代理 そんなんじゃありませんよ。私は私の仕事をしたまでです、

     ねえ王子

王子 何を言っているんだ、お前俺を利用しやがったな

被告代理 いやいや、何をしてでも勝てって言われたので

王子 依頼人の知られたくない情報までカードにする奴があるかよ

白雪姫 まあ、しょうがないですよ。いい機会ですし前時代の異物は全部取り

    除きましょう。王子ならきっといい改革ができますよ

王子 簡単に言わないでくれよ

被告代理 というより、貴方は結局王子の下にいていいんですか

白雪姫 はい、弁護士さんの話聞いて少しだけ惚れ直しちゃって……

被告代理 惚気なら他所でやれ、チクショウが

王子 最後まで口悪

白雪姫 じゃあ、先に出てイチャイチャしていますね

王子 え?それってどういう

白雪姫 じゃあ行きましょうか


白雪姫、王子、退場

それに続くように裁判長もお辞儀をして退場


被告代理 さて、これから忙しくなりますね

小人 ……はい、何もかも貴方のおかげです

被告代理 まだ始まったばかりですよ。やめてください

小人 いえ、それでも

被告代理 私は貴方の筋書き通りに動いただけです。まさか本当に王妃自身が

     犯人とは思っていませんでしたよ

小人 そうでしょうね。私たち小人は普通の人より鼻が効くのですぐにわかり

   ましたが……

被告代理 いえ、ちゃんと信頼していましたよ。だからギリギリまでこれが届

     くように粘った。これであなた方小人は、「異端」ではなく残虐非道

     な政権の「被害者」として世に認識されます

小人 ありがたいことこの上ありません。これからもどうかお力添えください

   それでは私もこれで

被告代理 あーそうそう、もう一つ気になっていたんですよ。聞いてもいいで

     すか

小人 ハイ、なんでしょうか

被告代理 白雪姫が行方不明になって、どうやって貴方達の森まで辿りついた

     んでしょう。そこは政府に秘匿される場所でそう簡単にたどり着け

     るものじゃない。もしかして貴方達……

小人 弁護士さん、それ以上話して何か裁判に有利になるんですか?

被告代理 いえ、ただ気になっただけです。まあそうですね、やはり都合のい

     い絶対悪なんて存在しないなーと

小人 彼女はいい娘ですよ。本物の我が子のように愛していました。それは本

   憎しみを抱けなかった人間は初めてです。ねえ弁護士さん、私たちがち

   ゃんと社会に認められたら、この感情からも解放されますかね

被告代理 どうでしょう、みんながみんなバカ王子やお姫様みたいにいい人と

     は限りませんから。でもそれを決めるのは私でも貴方でもなく、彼

     らの世代です



                           了

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「何も有耶無耶にならないお伽話 白雪姫」 御伽アトリ @Atoriotogi

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