5-5


「ソックス、僕、まだ死にたくない」


「アハハハハ。悪い冗談は顔だけにしてくれよ」


「ソックス、僕、まだ死にたくない」


「大丈夫、大丈夫♪」


 僕は逃げようとした。

 しかし、ワンダフルさんが僕の首根っこを捕まえて、ワッハッハと大笑いし、


「大丈夫ワン。落っこちそうだったら、ワシがキャッチしてやるワン! チャレンジこそ、青春! 失敗こそ、青春だワン!」

「いやあぁあ! 失敗すると青春終わるからぁぁあ!!」


 と、泣き叫ぶ僕を、無理やり持ち前の怪力で、後方の座席に座らせた。


「よーっし、じゃあジーニアスソックス号、起動だ!!」


 ソックスが前方席にだけある、黒いボタンをぽちっと押した。


「にゃああああああ!!」


 ブルンブオン、と鈍い音を立てて、飛行機が縦揺れし始める。


「ぎゃああああああ!!」

乗組員クルー、うるさい。よーし、次は発進だ!!」


 ソックスが、右足にあるペダルを踏む。

 すると、ゆっくりと、飛行機が動き出した。


「う、動いたぁ!」

「あにゃあああああ!!」


 はてな丘の斜面の力も使って、徐々に加速し始める飛行機。

 ガクガクと平らではない草原の凹凸おうとつを、Uの字型のハンドルを上手く操作して進むソックス。僕のひざふるえも、ガクガクと止まらなかった。


「いい感じにスピード出てるぞ!」


 風を切って、傾斜を降りて行く飛行機。スピードもどんどんと上がっていく。


 やがて、本当の恐怖が目前にやって来た。


 崖の終わりが、僕の視界に入った。

 飛ばなければ、市街地へさかさまだ。


「ソックス、ソックス、ソックスー! 崖、崖、崖ー!!」

「ここからが、ソックス様の腕の見せ所よ!飛んでくれ、ジーニアスソックス号!!」


 ソックスはハンドルを持つ両手をぐっと引いて、斜め上へと力を入れた。

 僕も怖くて、前座席まえざせきの背中に付けられた手すりを力を込めて握った。

 すると、ボキッと嫌な音を立てて、手すりネジが取れた。


「うっそぉぉおおおお?!」

「飛べ、飛べ、飛べーー!!」



 その瞬間がやって来た。


 ふわり、と自分のお尻が浮いた気がした。



 僕とソックスは、今、大地のない空に居た。



 ……僕たち。


 もしかして……。




 本当に飛んでいる……!?



 目の前に広がるのは、市街地、キャットタワー、北の壁、そして、遥か彼方に見える、とかい島と、青く、果てなく続く大きな海だった。


「うおおおおお! 飛んだ! 飛んだぞ!!」


 ハンドルを握りしめ、興奮気味こうふんぎみに叫ぶソックス。

 ソックスは自前の飛行機が飛んだ事に大興奮だったが、僕は見たことがない空からの景色に圧倒あっとうされていた。


 海って、こんなに広いんだ。

 右を見ても、左を見ても、青い海が広がっていて、地平線はすこし丸い。

 綺麗だにゃ……。


 なんだか、すごく感動だにゃあ……!


「やっぱり、俺は天才だったんだな!!」


 ソックスが振り返り、僕を見た。

 その両手には操縦していたハンドルがある。


 そのハンドル、


「そ、ソックス!? ハ、ハンドルが、飛行機から取れているよ?!」

「え? あ、うっそ?! 本当だ! 接着が甘かったのか!?」


「ハ、ハンドルが飛行機から外れると、一体どうなるのー!?」



「そんなの、落ちるに決まっているだろー!!」








 (TωT)&(ΦωΦ;)?&(U^ェ^U)v




「――ワッハッハ。良かったな、下が繁みで!」


 駆けつけてくれたワンダフルさんと、近くに居たシロネギに、僕らは救出された。


 僕らは交番近くのケヤキの木の繁みにポスッと引っかかり、幸い、顔と手のかすり傷で済んだ。

 コマリが落っこちて来た時も思ったけれど、僕って丈夫だにゃあ。

 ソックスも顔がかすり傷だらけに、肩の部分をちょっと切ってしまった。

 前座席だったため傷が多かった。

 しかし、ソックスは飛行機に大きな損傷そんしょうが無かった方が良かったみたい。

 自分の怪我けがなんて、どうでも良いって感じ。


「ちくしょー。部品を(キャットタワーから)取って来て、接着のし直しだ! マメ、持って帰るぞ」

「にゃっ! また持って帰るの??」


 精神的にも肉体的にもクタクタな僕。

 また飛行機を台車にのせて、北の外れのソックスの家まではちょっとシンドイ。

 すると、ワンダフルさんがナイスな事を言う。


「接着するだけだったら、部品と道具を交番に持って来て直せば良いワン? そっちの方が軽いし、はてな丘にも近いワン」

「!! それは、名案だ! 良いか、シロネギ」

「ま、まあ、本官は良いですケレド」


 た、助かった~!!

 ワンダフルさんが、涙目の僕に、おっきくウインクした。

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