はてな新聞 号外


     ⦅以下、はてな語訳⦆



       はてな新聞

        【号外】


              はてな新聞堂

         ツツジ月二十日(火曜日)


【とかい島のお姫様、幸せを見つけました!!】


 今回は特別号外として、とある一匹の猫に密着をした記事をご紹介致します。

 

 先日、はてな島にやって来たコマリさんです。


 コマリさんは、とかい島のお姫様。

 そんな彼女がなぜはてな島へとやって来たのか?

 なぜとかい島へ帰りたくないのか?

 その経緯と理由……皆さん、知りたくないですか?


 私達はてな新聞堂記者は、その真実の独占インタビューに成功しました。

 

 ぜひ、お手にとった方はお読み頂き、読み終えた時、そっと目を閉じて考えてください。


 あなたは、この話を読んで、どう思いますか?



        ✿✿✿



 お城の上から見るとかい島は、いつも灰色でした。


 煙とツンとする空気の中、私はみなさんの体が少しでも楽になるようにと願い、毎日何回も何回も踊り続けました。


 朝も、昼も、そして夜だって。


 灰色の空気がとかい島を包み込まない様に、私は踊り続けました。


 すると、みんなは私に感謝します。

 ありがとう、あなたのおかげで体が楽になった、病気が軽くなったと。


 でも、私は感謝されるたびに、苦しい気持ちになりました。


 本当はこのお仕事が嫌だったんです。

 嫌で嫌で、たまらなかった。


 だって、いつか私の踊りが灰色の空気に負けちゃうかもしれない。負けちゃった時、たくさんの猫が病気になったり、死んでしまうかもしれない。


 その日が来るのが怖くて、それを想像するのが怖くて、たまらなかった。

 でも、お父様や周りの猫の本当に嬉しそうな顔を見るたびに、嫌だと言えなかった。


 ……今なら分かるけれど、本音を言って、お父様に嫌われてしまうのが怖かったんだと思います。私の家族はお父様だけだから……。


 そんな時、お父様はきかい島の王子との結婚話を持ってきました。

 お父様は「これでどちらの島も幸せになる」と喜んでいましたが、私は絶望しました。

 とかい島だけではなく、きかい島の運命も私にかかっているなんて……。


 私は怖くて、どうしたらいいのか分からなくて、毎日泣いて過ごしました。

 そんな私を見かねたハヤテが、私を助けてくれました。


 はてな島へ逃げようと。


 きっと、とかい島よりもきかい島よりも、幸せになれると。


 私達は逃げ出す決意をしました。


 命からがらでたどり着いた島は、本当に美しい島でした。

 空気が澄んでいて、海も川も綺麗で、緑豊かで。


 はてな島の猫は凶暴だと聞いていたので、最初に出会ったオレンジ色の猫さんを見た時、とても拍子抜けしました。


 ニコニコしていて、温かいお日様みたいな男の子でした。


 私が空から降って来てぶつかったのに、大丈夫と笑ってくれて、追っ手の兵隊さんを果敢に追い払ってくれて、得体のしれない私達のお世話までしてくれました。


 他の猫さんも優しくて、温かくて、私はすぐにはてな島が大好きになりました。


 しかし、私の心にはいつもとかい島の猫さんが居ました。


 私が居なくなって、誰か体調を崩していないか、病気になっていないか。

 ……逃げ出した私に怒っているんじゃないか、と。


 しかし、そんな辛い思いが忘れられる時がありました。


 はてな島へ来たその日、助けてくれた男の子がお仕事にしている「新聞作り」を初めて見ました。

 新聞作りはとても楽しくて、夢中で新聞を作っていると、その間は辛い事を忘れる事が出来ました。


 ビックリしました。

「好きな事」をしている時はこびりついて取れなかった「嫌な事」を忘れる事が出来たんです。


 私は嫌な事を忘れる自分はダメな猫だと思いました。

 ズルい猫だと思いました。

 

 そう落ち込む私を見かねたハヤテは、こう言ってくれました。


「それでいいんだよ。コマリの気持ちのままに生きていいんだよ、って」


 そう言ってくれた時、私は幸せになりました。

 ずっと、ずっと、この幸せに包まれて生きていきたい。


 こんな私をとかい島のみなさんは許さないでしょう。

 きっと、裏切者だと思うでしょう。


 でも、私は、このはてな島で幸せを感じて、生きて行きたいのです。

 ごめんなさい。


 私は、はてな島で、幸せです!

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