6-7


 はてな丘の下にたどり着いた僕らを待っていてくれたのは、ワンダフルさんだった。

 そして、今回も準備じゅんびを手伝ってくれた。


 ただ、ワンダフルさんに何があったのか。全身打撲ぜんしんだぼくのひっかき傷だらけで見ているこっちが痛々しかった。

 理由を聞いてもはぐらかすだけ。


「……まったく、こんな目にあっても、お前たちはいつもまっすぐで面白い。……応援おうえんしたくなるワン!」


 ――なんて、意味が分からない事はぼやいていたけれど。

 その体格を活かして、猫一倍準備を手伝ってくれた。


 準備が整うと、ソックスは飛行機に積んであった黄色のヘルメットを僕によこす。 

 僕は初めて自分の意思いしでそれをかぶって、深呼吸しんこきゅうした。



 ――さて、僕のがてら、みんなにも作戦内容を教えておく。


 まず、町やはてな丘に居るロケットチームが、大量のペットボトルロケットを飛ばし、とかい島の兵隊さんをビックリさせるのだ。


 そして、ビックリして動けないでいる間に、僕とソックスが飛行機から号外をく。


 そう、みんなで一所懸命いっしょけんめい作った号外は、とかい島の国王様と兵隊さんに向けて作られた特別号なのだ。

 号外にはコマリの思いがつづられている。


 これを読んだら、きっと、国王様もコマリがずっとはてな島に居る事を許してくれると思うのにゃ……!


「――じゃあ俺たち、行ってきます。崖から飛び立ったのを合図あいずに、ロケットを発射はっしゃして下さい」


 ソックスがそう指示すると、先に運転席へと乗り込んだ。


 僕も号外を持って後部座席に乗り込もうとすると、ミケランジェロさんが僕の肩をポンと叩いて言った。


「ソラマメ。必ずコマリちゃんの気持ちを、みんなに届けてやれよ。新聞記者の仕事は、ただ起こった出来事を記事にするだけじゃない。『真実』を届けるのも、我々の仕事なんだ。お前はコマリちゃんの苦しみに目をらし続けた読者のために、真実を届ける任務を任された。この号外は、はてな新聞堂始まって以来の最高傑作さいこうけっさくだ。きっと、この真実がとかい島の猫の心にも響くと、俺は信じている!」


「……にゃい!」


 僕は大きく頷いたのだが……。


 本当の所、ミケランジェロさんの言葉を全部理解する事は出来なかった。

 

 ……それでも少しは成長したのかな。

 

 この新聞はコマリはもちろん、ミケランジェロさんやタマジロー先輩のためにも、必ず国王様に届けなければならないと強く思ったんだ。


 それこそ、新聞を作る僕達の仕事想いであるのだと。


「よし、行こう。目的地は北の壁。とかい島国王の居る所だ!」

「ソックス、発進にゃあ!」


 飛行機がゆっくりと丘の傾斜けいしゃに沿って、すべり出した。

 風を切り、草を掻き分け、崖の際まで来ると、ソックスはハンドルをグッと斜め上に上昇じょうしょうさせた。


「よし、飛ばせー!!」


 ロケットチームのミケランジェロさんの掛け声と、飛行機が飛び立ったのは同時だった。


 僕たちは、大量のペットボトルロケットと一緒に、大空へと飛び立ったのだ。


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