6-3


「ただの鶏じゃないよね……」


 マドンナが奇跡的に生き返った事でほっとした僕ら。


 ソックスの腕に抱っこされたマドンナは、ツヤツヤだった白い羽は真っ黒になってしまった。

 昨日は赤かった目も今や真っ黒で、本当に全身真っ黒の鶏。

 でも、とっても元気で「こけこけ」と良い声で鳴いている。 

 今だったら、アズキばあちゃん家に放流しても、マドンナがどの子が一目瞭然いちもくりょうぜんにゃ!


「うーん。これはアズキばあちゃんに正直に話して、マドンナの生態せいたいを教えてもらわなければ」


 そんな事を話しているうちに、町に入る。

 はてな町は、いつもと様子がガラリと変わっていた。

 どの家も晴天だと言うのに、雨戸あまどを閉め切っていて、誰一匹、街道を歩いている猫は居なかった。


 きっとシロネギがとかい島の兵隊が来る事をみんなに触れて回ったんだろう。 


 僕らは、やっとはてな新聞堂へと戻ると、一目散いちもくさんにコマリが僕に抱き付いた。


「マメ!!」

「うにゅ」

「おお、ソックス。無事だったのかい!」


「あれ、なんでアズキばあちゃんが?」


 はてな新聞社には、ハヤテにミケランジェロさん、タマジロー先輩、シロネギ以外にも、アズキばあちゃんと、なんと例の兵隊さん達三匹も居たのだ。

 僕は思わず警戒けいかいするが、アズキばあちゃんは言った。


「大丈夫。私がちゃんと教育したから、コイツらはもうコマリを追いはしない」


 兵隊さん達はペコリとお辞儀じぎをした。本当に、良い猫になったのかにゃ~? と疑いの目で見ていたら、髭の立派な兵隊さんは僕を見て、とってもブルブルと震えていた。怖がっているみたい?


 にゃ? なんでだろう……?

 ハヤテも、僕を見て気まずそうな顔をしている。


 にゃ? にゃ??

 にゃ~~???



 (ΦωΦ)?



 作戦会議が始まる。


「ハヤテがはてな丘から見た予想だと、今来ている兵隊は、とかい島の兵隊ほぼ全部だ。その数は二千」

「に、二千!?」

「それって、はてな島に住んでいる猫と同じくらい?」

「あにゃあ?……二千って……えーっと、えーっと……はてな新聞20日分の量!?」

「戦うのは無理だにゃあ」


「あの」


 シロネギが手を挙げた。


「あの、そもそも、北の壁をぶち抜いた大穴はどのようにして出来たのでショウカ? その力が何なのか分かれば、それを使って、とかい島の兵隊を追い払う事も出来そうデスガ……?」


 その話を聞いて、ここにいる半数以上の猫が、ぞーっとする。

 僕もその中の一匹。


「だ、ダメにゃ! 何なのか、ちっとも、全然、まーったく知らないけれど! 追い払うのには使っちゃダメにゃ!」

「そ、そうでアリマスか?」


 しかし、ミケランジェロさんがシロネギの話に乗っかって来た。


「俺も、穴が空いた理由は疑問に思っていた。それにソックス。お前はなんで壁の向こうに寝ていたんだ?」

「わかんね」

「わからないだと!?」

「だって、わかんないんだもん。俺はちゃんと家で寝ていたのにさ」


「……お前、おかしいんじゃないか……とは言えないな。実は俺も、今朝は家の近所の公園で、娘のぬいぐるみを五体も抱きしめて寝ていたんだ」


 ミケランジェロさんを皮切りに、


「実はおいらも、商店街の揚げ物屋さんで寝ていたんだよ」といつもよりも二倍くらいお腹が大きくて、ほっぺたに揚げカスがついているタマジロー先輩。


「本官も、交番近くの街路樹がいろじゅの枝に引っかかっていたでアリマス!」とシロネギ。


「他にもたくさんの猫が道端で寝ていたり、家やお店が壊れていたんだ」とミケランジェロさん。


 不思議な現象に、みんなが答えが出なくて黙っていると、ソックスに素直に抱っこされていたマドンナが「こけ」と鳴いた。

 アズキばあちゃんはその声に機敏きびんに反応し、目を凝らして、マドンナをにらみつけた。


「……ソックス、お前、その手の中にいる黒ダルマは、もしかして……」


「ばあちゃん、ごめんよ。ばあちゃんの探していた鶏、こいつなんだ」


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