5-3


「おばさん、おばさん! コップっ! コップを一つ貸して!」


 階下のシノおばさんの家に飛び込む僕。

 僕の家にはマグカップはあるけれど、ガラスのコップが無いのだ。

 だって、キッチンが無いから。


 クッションにスミレ刺繍ししゅうをしていたおばさんは「はいはい♪」と立ち上がり、水差みずさしからコップへお水を入れてくれた。


 それを一気飲みして、ぷはー! っと机に叩き付ける僕。

 うーん、のどがカラカラだったから、お水が美味うまいにゃあ!


「うふふ〜♪ 喉乾のどかいていたのね。おかわりする?」

「……って、違うのにゃ! お水を飲みに来たんじゃなくって。えーっと、えーっと。とにかく! コップを貸りるね!」

「何に使うのー??」


 僕は説明しているひまは無かったので「後でね!」とコップを持って、いそいそと二階の自分の部屋へと入った。

 そして、コマリとハヤテとの部屋と、僕の部屋を分けている壁へとコップを当てると耳をくっつけた。

 いわゆる、聞き耳ってやつ。


 ……聞こえるかにゃ?


「✕✕✕✕……」

「✕✕✕✕✕✕!?」


 コマリとハヤテが驚いている声がする。でも、内容が聞こえないにゃ。その時、


「……にゃんデー……」


 アズキばあちゃんの声が、聞き慣れない言葉を言った。


「にゃんデー?」


 にゃんデーってなんにゃ?


 右耳が疲れたから、左耳に変えようと、首を180度回転させると、隣で同じようにコップを壁に付けて聞き耳している、シノおばさんが居た。


「……っ!……っ!……!?」

「うふふ♪ マメちゃん、忍者ごっこ?」

「ち、違うにゃあ!」

駄目だめよ、いくらコマリちゃんが好きでも、聞き耳なんて立てちゃ♪」

「おばさん、違うったら!!」


 僕の声が大きかったらしい。


「こら、ソラマメ!! 盗み聞きなどしてないで、さっさと仕事へ行け!!」


 と、壁越しとは思えない大声で叱られた。

 とほほ。



 (TωT)……))))



 はてな新聞堂へと戻ると、いつもの様にミケランジェロさんが居て、応接間ではキュウ☆ニクニクさんが占いをしていて、その傍で爆睡中ばくすいちゅうのタマジロー先輩が居た。


 一見、いつもの光景。

 しかし良く見ればいつもと違う。


 キュウ☆ニクニクさんが、とっても大人しいのだ。まるで、アズキばあちゃん家の鶏と一緒だ。いつもの奇声が無い。普通に水晶玉に手を当てて、瞑想めいそうしている。


 そしてしばらく経つと、ふう、とため息をついて、ニクニクさんは立ち上がった。


「ニクニクさん、今日は調子が悪いんですか?」

「ソラマメぇ、あんたは、私の何を知っているのっ……!」


 ……何も知りませんが。


「もう最悪さいあくよ。いつもそう。新月の日は占いの調子が悪いの……」


 アンニュイなため息をついて、タマジロー先輩のメモ帳にサラサラと占いの結果を書いた。


「それ、当てずっぽうに書いた占いの結果。タマジローに渡しておいて」


 そう言い残すと、トボトボといつもの帰り道を帰って行った。


 ……なんだか、みんな、おかしいにゃ……。

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