5-2


 アズキばあちゃん家に行くのはドキドキする。


 鶏も怖いけれど、なんてったってとかい島の兵隊さん達が居るから。

 でも、あの美味しそうな卵かけご飯のために! 勇気を振り絞ってアズキばあちゃんの家に向かった。


 すると、なんと、驚いた。


「あにゃー!? みんな目が赤い!?」


 アズキばあちゃん家の鶏、全部の目が赤かったのだ。

 しかも、とても大人しい。

 僕が放牧ほうぼくされている庭に入っても、突きに来ない。

 何の被害ひがいも受けずに、家までたどり着くと、家の前で壁にぶつかった。

 見上げれば、水平にひげが生えた兵隊さんだった。


「にゃ、にゃああ!?」


 兵隊さんも、僕の顔を見て「あーっ!!」って顔をする。

 僕は「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も何度も言いながら、頭を壊れたバネの様に揺らしてあやまった。

 しかし兵隊さんは「ダ、ダイジョブ、デェス」と言って、僕を恐ろしい物でも見る目で、そそくさと水桶みずおけを持って裏庭うらにわへと行ってしまった。


「……マメじゃないか。どうした?」


「あ、ばあちゃん!」


 心なしか、ばあちゃんまで元気ない。


「どうしたの、ばあちゃん? 元気ないよ?」

「ああ、今夜が新月だから……」


 もしかして……ばあちゃんも、とかい島からの追手を心配しているのだろうか。


「ばあちゃん、それは満月だよ。月がまんまるの日。新月はとかい島の猫は来ないから、安心して!」

「……だろうよ」


 何か呟いたけれど、僕には聞こえなかった。それから続けて、鶏の目が赤い理由を尋ねてみた。

 ばあちゃんの家の鶏の目も赤かったから、とても聞きやすかった。


「これは、力をめているんだ」

「ち、力? 力ってパワー??」


 こくり、と頷くばあちゃん。


「力を溜めて、どうするの?」

「力を放出するのさ。そうすれば、いつもの黒目に戻る」


 何を言っているのだろうか。


「――つまり、新月の日の朝はものすっごい大きな卵を出すって事?」

「まあ、そう考えていた方が、平和だな」


 なんか煮え切らない答え。

 しかし、ラッキーだ。

 ソックスの家の鶏も目が赤くて、今夜、力を放出するのならば……。


 明日の卵かけご飯は、特大の卵が食べられそうだ♪


「話はそれだけか?」

「うん、ありがとう!」

「ところで、お前のアパートに居る、とかい島の猫なんだが」

「にゃ?」


「二匹を、私に会わせてくれないか?」



 (ΦωΦ?)&(∅ιω∅)〜〜



 最初は却下したんだ。

 だって、ばあちゃん家は兵隊さんが居るんだもの。でも、足の悪いばあちゃんの方が僕のアパートへ来ると言うから、僕はOKを出した。

 足の悪いばあちゃんをおんぶして運んでやる。

 

 現在は僕の隣の部屋を借りて住む、ハヤテとコマリ。

 

 家具や生活用品は、シノおばさんが用意してくれたり、町のみんなが要らない物をゆずってくれた。

 なので、彼女らの部屋はなんだか統一性とういつせいの無い、ごちゃごちゃした部屋になっていた。しかし、ごちゃごちゃしているのに、それが落ち着く不思議な家になっていた。


「ハヤテ、お客さんだよ」


 扉を開けたハヤテに、僕はゆっくりと言った。


 背後から現れた、紫のサングラスに赤・ピンク・紫の迷彩めいさいワンピースを来たおばあちゃんに、ちょっと驚く二匹。


「アズキばあちゃんだよ」

「コンニチハ、アズキサン」


 と、微笑むハヤテ。

 すると、アズキばあちゃんは僕に言った。


「マメ、お前は仕事があるんだろ?」

「にゃ?」

「ここからは、私一匹で大丈夫だ。行っていいぞ」


「そ、そりゃあ仕事もあるけれど……」


 ――怪しい。


 いくら呑気のんきな僕でも、アズキばあちゃんの言動げんどうが怪しいのは分かった。


「さ、はてな新聞堂へ行きな」


 僕は追い払われて、モヤモヤした気持ちで階段を降りて行ったが…………。

 どうしても気がかりだったから、何を話すのかこっそりと聞いちゃう事に決めたのだ。

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