3-4



「一緒に、屋台を回ろうよ!」


 はてな語でしゃべる僕。


「マメ? ✕✕✕?」


 やはり、よく分かっていないコマリ。

 だから、ゆっくりと言う。


「一緒に、行こう!」


 僕はコマリの手を引っ張って屋台を指差した。すると、分かってくれたみたい。

 うんうん! と笑顔で何度も頷いた。


「コマリ、わたあめ食べようか」

「??」

「わたあめ!」


 僕が、真っ白なわたあめを指さすと「タヤ゛タア!」と言う。

 きっと口調からして、食べたいって事だろう。


 僕はまんまるのわたあめを購入して、コマリに渡した。それを興味津々きょうみしんしんに眺めてから、はむっと食べるコマリ。

 目が輝いた。


「ホロヲロ!」

「美味しいよね~」

「ホロヲロ〜!」

「ホロオロオロ~?」


 僕らは笑い合った。二匹で、はむはむとわたあめを食べていると中央から音楽が鳴り出す。

 はてな島のみんなは集まるとダンスを踊る習性がある。弦楽器げんがっきを持った猫達の周りで、みんな適当なダンスを始めた。

 

 でも、僕はダンスは苦手だにゃ。

 どう頑張っても、反復横飛はんぷくよことびになってしまう。


 わたあめを食べ終わったコマリ。

 僕の腕を引っ張る。

 一緒に踊ろうと言っているのだ。


「にゃ! 僕は無理っ!」


 首をブンブンと振ると、コマリは履いていたシノおばさんのペタンコくつを脱ぎ捨てて、裸足になる。

 そして、踊る猫の輪に入って行った。


 みんな、見慣れない猫のコマリに少し驚き、コマリと周囲をへだてる空間が出来た。

 そんな事を気にしないコマリは、息をする様に、自然に体を音楽にゆだねた。

 

 その踊りのうまいこと!!


 細長い手足を使って、流れるような美しいまいを踊るコマリ。

 あんまりの綺麗さに見惚みほれていると……。


 風が吹いた。


 温かいお日様の匂いのする心地よい風が。

 コマリは風に包まれてキラキラと輝いていた。


 ――いや、これは例えじゃなくって、本当にキラキラと光っていたんだ。


 キラキラのコマリの風は、お祭りに来ていた猫に、そして町中に広がった。


 その風を吸い込むと、僕の体はなんだか軽くなった気がした。

 気のせい? と思ったけれど、周りにいる猫達も「体が軽い?」「うん、気分がいい」と言っているのが聞こえた。

 体の調子が良くなったと口々に言う猫達。


 そして、みんなの注目を浴びながら、コマリの踊りが終わると、たくさんの拍手がコマリを包み込んだ。


 一番驚いていたのは、コマリだった。

 周りの猫は「綺麗きれい~!」「すごいぞー!」「魔法使いみたい!!」とすごくめている。

 褒められていると気が付いたコマリは、嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔に、顔を真っ赤にするオス猫達。


「……これは、とかい島の猫の力??」


 僕がコマリの不思議な力に驚いていると、背後から知っている声がした。


「……浄化じょうかの力か」


 振り向けば、アズキばあちゃんがりんごあめを持って立っていた。


「ば、ばあちゃん!?」


 ドキーっとする。辺りに兵隊さんが居るのかと思い、警戒けいかいする。


「心配すんな、兵隊達は鶏の世話をさせている」

「あ、安心したぁ。アズキばあちゃん、珍しいね。どうしたの? 足が悪いのにこんな遠くまで来て……」

「お前を探しに来たんだ。新聞社へ行ったら、タマジローがココだと言うから」

「何か用事?」


「鶏」


「にゃっ……?!」

「早く鶏を探しておくれ。見つからないなら、また記事を書いて欲しい」


 ……本当はソックスの家に居るんだけど……。


「ば、ばあちゃんは、本当に鶏を大事にしているんだね」

「当たり前だ。あの子達は誰も欠けてはならんのだよ」


 ガリン! と盛大にりんご飴をかじるアズキばあちゃん。

 ……先にばあちゃんの歯が欠けそうだにゃ。


「良いかい? お願いだから早く見つけておくれよ。……頼んだよ!」


「……にゃ?」


「頼んだよ……!」


 急に切羽詰せっぱつまった態度になったアズキばあちゃんに、なんだか違和感を感じた。

 鶏が心配というよりも、あせっているという言葉が合う感じ。


 何を焦っているのだろうか……?




 (ΦωΦ)??




「マメ?」


 気が付けば、踊り終えたコマリが隣に居た。

 可愛いコマリに声をかけたくて、でも勇気がなくて声をかけられない男の子達と一緒に。


「あ、ああ。なんでもないにゃ。じゃあ次はお汁粉屋しるこやさんに行こうか」


 僕はコマリの手を握るとその男の子達をき分けて、お汁粉屋さんの屋台へと足を進めた。


 アズキばあちゃんに、ちょっとした違和感いわかんを残して。

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