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 ころころマーケットは、はてな町の中央広場で行われる。


 中央広場は石畳で作られた、円形の広い広い場所。

 そのど真ん中に、はてな島の古代遺跡こだいいせきでシンボルでもある、全長十メートルの黄金色のキャットタワーがそびえ立っている。


 ツルツルでかた素材そざいで出来た、トウモロコシの形をしたタワーはずっとずーっと昔、はてな島が出来た頃からあるんだって。



 ――結局、僕の仕事にくっついて来たコマリと、ころころマーケットの商品説明しょうひんせつめいをするために連行れんこうさせられたハヤテ、そしてソックスと僕。

 

 今、四匹でキャットタワーの前に居る。


 コマリとハヤテの二匹は、不思議ふしぎな素材で出来たキャットタワーをじっと見上げ、コマリは好奇心こうきしんに目を輝かせていたが、ハヤテの方は何が深く考え込んでいる。

 その表情は暗い。


「なんだなんだ? キャットタワーが何かあるのか??」


 ハヤテの表情を読み取って、尋ねるソックス。

 しかし、この話題は続くことなく途切れてしまった。なぜならば、僕の事をず〜っと待っていた猫が、ズンズンと向こうから早足でやって来たからだ。


「遅い!! 遅刻ちこくするな!!」


 僕の頭を猫パンチするミケランジェロさん。びっくりするコマリ。 


「早くワンダフルさんにお知らせを聞いてこ〜い!!」

「にゃ、にゃい!!」

「そして、お前も! 早く行かないと、透明の筒が無くなるぞ!」


 親切心じゃなくて、ソックスを追い払いたいだけのミケランジェロさんがわざとかす。


「にゃっ!! じゃあマメ、俺達は商品の方へ行くからな~」


 と、ハヤテと肩を組んでイソイソと後ろ手を振るソックス。もはや、翻訳ほんやくの表とハヤテを手に入れたソックスは無敵むてきだ。


 ……こういう時、大人なのにお仕事をしていない彼がうらやましい。


 僕もふつうにお祭りを楽しみたいにゃあ~!!


 残された僕とコマリは、ミケランジェロさんに監視かんしされながら、依頼主いらいぬしの元へと急いだ。



 (ΦωΦ;)&(*ΦωΦ*)〜〜♡



 ワンダフルさんは、海岸沿いのゴミ拾いボランティアの会長さん。

 とっても気の良いおじさんで、とっても元気でパワフルで、とっても話が長い。


 でもね、それよりも、気になるのが……。


「そこで海に飛び込んだ時だワン? わしは透明な物を見つけたワン。儂は最初、それがクラゲだと思ったんだワン? でも、違ったんだワン。軽くて不思議な陶器とうきだったワン」


 ――なぞ語尾ごびを使うのだ。


 ワン、ワンって。



 ……ワンって、何にゃ?


 ワンダフルさんの容姿は、耳が二つ。目も黒い。綺麗なクリーム色の毛並み。髭もあって、しっぽもある。うん、猫の容姿なんだけど……なんか猫離れした体格というか……大きい??

 大きいワンダフルさんはとかい島の子孫なんじゃないか? って言う猫も居るけれど、僕はコマリとハヤテ、兵隊さんを見て、同じ大きさだったのを確認した(兵隊さんは大きかったけれど、ワンダフルさんほど大きくないにゃ)。


「……と、いう訳で、募集の記事を頼むワン!」

「――はっ! 分かりました!!」


 ぼんやりとしていたら、話が終わっていた。僕は慌ててボランティアの事をメモした。


 (ΦωΦ;)&(*ΦωΦ*)〜〜☆



 仕事は順調じゅんちょうに終わり、ミケランジェロさんに報告ほうこくする。


「よし! 俺も記事のネタは仕入れた。じゃあ、後は熱い内に記事を書けよ! あと、とかい島の二匹の事、頼んだぞ~!」


 ハッカ笛を煙草たばこに見立てて、ピーピー鳴らしながらはてな新聞堂へと帰って行くミケランジェロさん。


 僕達はにぎわう広場で、ソックス達を探す事にした。


  

 ««(ΦωΦ;)»»&(*ΦωΦ*)〜〜♪


 ソックスとハヤテは五十音表を介して茣蓙ござの上に並ぶマーケットの商品について、熱く語り合っていた。


「お待たせ!」

「マメ! 凄いぞ!! 大発見だ!! 俺はここに並ぶ道具をとてもユニークな使い方をしてた事が判明はんめいした!」


 目を輝かせて、鼻息荒はないきあらいいソックス。

 一番人気いちばんにんきの透明の筒を指差し、


「これはな、【ペットボトル】と言う物らしい。とかい島では使い捨ての水筒すいとうなんだと。使い捨てだから、使い終わると海や川に捨てるマナーの悪い猫が多いらしく、はてな島に辿り着くらしい」

「へええ! でも、水筒ならこぼれちゃうよね?」


 そう、この筒は先端せんたんが穴が開いているのだ。

 すると、ソックスは震える手で、コインぐらいの小さな円柱の物体を持ち上げた。


「見てろよ、これが……」


 透明の筒の穴部分と、円柱の物体をくっつけてひねると、あら不思議!


「にゃあ!! くっついた!!」

「凄いだろ!? 凄いだろ!? これで、水筒になるんだ! しかも、漏れない!」

「なんで? なんで? 凄いにゃあ!!」

「筒の穴と円柱の内側にうまく切れ込みが入っていて、それがシックリ合う様になっているんだ。凄い技術だ」


 興奮冷こうふんさめやらぬソックスはハヤテを指差して、


「ハヤテ君は頭が良い! 俺の助手にしてもいいぐらいだ!!」


 められているのが分かるのか、嬉しそうに照れるハヤテ。

 そんな笑顔したら、きっとはてな島の女の子達はメロメロだにゃ。実際、ハヤテを見かけた女の子達の頬はみんな赤いにゃ。


 それからも商品の説明に夢中な二匹。


 僕とコマリは盛り上がる二匹の背後で、全くもってひまだった。

 お互い、ころころマーケットの商品に興味がないからだ。

 

 コマリを見れば、彼女は真横を向いて、何かを見ていた。

 その視線を追うとその先には屋台やたいがある。


 僕は「コマリ」と声を掛けた。

 そして、言った。


「一緒に、屋台を回ろうよ!」

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