2-7


 とりあえず。

 二匹を応接室に並んで座らせ、しぼりたてミルクをコップにそそいで出した。


 ミケランジェロさんは、二匹が何を言われているのか分からない事を良い事に「早くお前の家に連れて行くんだぞー!」と叫んだが、僕は耳を器用きようにペタンと閉じて、聞かなかった事にする。


 二匹はミルクを一口飲み、目玉を丸くした。


「✕✕✕✕!」


 あ、今のは美味しいって言ったんだろうな。

 それから二匹はミルクをコクコク飲みながら、はてな新聞堂の中をながめ始めた。

 そして「✕✕✕、✕✕✕✕?」「✕✕✕✕、✕✕✕✕?」と僕に何かを聞き始めた。


 ……ふーむ、これは何を言っているのか分かんないにゃ。ちんぷんかんぷん。


 せめて、二匹の名前くらいは知りたいにゃあと思って、僕は応接室の机越つくえごしに二匹の前に立った。それから、自分の胸をポンと肉球で叩いて言った。


「僕は、ソラマメ」


 自分の名前をゆっくりと言う。


「僕は、ソラマメ」


 もう一度言った。

 すると、女の子はピンと来た様で、自分の胸に肉球を当てて言った。


「ボクハ、コマリ!」

「……コマリ?」


 うんうん、と女の子はうなづいた。

 それから、青年猫も真似まねして言った。


「ボクハ、ハヤテ」

「コマリと、ハヤテ?」


 うんうん、と二匹は頷いた。

 それから、コマリは言う。


マメ、オマメ、イヤ!」


「ソラマメね」

「オラマメネ?」


「ソ! ラ! マメ!」

「オラ! オラ! マメ!」

「僕は不良じゃないよ〜!」


「ソラマメ」


 覚えの悪いコマリと違って、ハヤテの方はスラリと僕の名前を言った。

 どうやら、聞き取り能力はハヤテの方が断然上だんぜんうえらしい。コマリは困った顔をしていたが、すぐにパッと顔がほころんだ。名案めいあんが浮かんだらしい。


「マメ!」


 ……まあ、これでいっか。

 はてな島のみんなも、マメって呼んでいるし……。


 ――そんな時。


 「たのもう!」の声と共に、ソックスが玄関扉げんかんとびらって現れた。

 お行儀悪ぎょうぎわるっ! と思ったら、両手に大量の本を持っていた。

 背中にも大きな布袋ぬのぶくろ背負せおっている。


「ソックス、どうしたの? その大量の本は?」

「とかい島の事がっているっぽい本を、図書館で借りてきた」


 無断むだんでズカズカと入って来たが、ソックスが新聞堂に勝手に出入りするなんて、いつものこと。

 ミケランジェロさんは全く気にしないで作業を続けている。(タマジロー先輩は外出中にゃ!)


 ソックスは、応接室のテーブルに大量の本をドサドサと置いた。その中の一冊に、聞き覚えのあるタイトルの本があった。


「あ、『とある島の猫族の習性』!」

「お、もう読んでいたの? お前がこんなむずかしい本を読んでいたとは」

「ううん、僕じゃなくって、ミケランジェロさんが読んだんだよ」

「そんなオチだよな。あのさ、この本には、恐ろしい事が書いてあったんだ。とある島に住む猫は、定期的ていきてき凶暴きょうぼうになるんだとよ。これってとかい島の事じゃね?」

「そうそう、ミケランジェロさんがそう言っていた」

「それに、北の壁が出来た理由ってのも、とかい島の猫が凶暴きょうぼうだからって理由らしいぜ。こわいよなー、とかい島、あやしすぎるよなー」

「それも、ミケランジェロさんが言っていた」

「…………ちぇ! なんだよ! ミケランジェロさんも、図書館の本の受け売りじゃん!」


 と、本を放り投げて、努力が無駄むだだったとばかりに舌打したうちするソックス。

 そんなソックスを背後からにらみつけるミケランジェロさん。


 ――その時、ダカダカダカ……! と何かがはてな新聞堂にせまり来る音がした。


 僕達は耳をキョロキョロ、音の出所を探していると、外出中だったタマジロー先輩がゴロゴロゴロンと字面通じめんどおり、玄関から転がり込んできた。そのままゴロゴロと転がり、バコン! と僕のデスクにぶつかって、机の上に飾ってあった木彫きぼりのカブトムシとクワガタを全部落っことしてくれた。

 そして、その態勢たいせいのまま叫んだ。


「大変だ! 大変だ! 面白そうなネタが、自分達からやって来たぞー!!」


 目を輝かせる、タマジロー先輩。


「はにゃ? ネタが歩いてきたんにゃ?」

「ちゃうちゃう。珍しい青い目をした兵隊さんが、急に現れたんだ!!」


 年中平和なはてな島。

 イレギュラーな事件に興奮気味こうふんぎみのタマジロー先輩。しかし、僕とソックスは『青い目』と聞いただけでドキリとする。


「町のどこに来たんですか?」

「すぐそこに居るよ!」と入口側の窓の外を指差すタマジロー先輩。


 僕とソックスは、ソロ~っと入口側の窓から外を覗いた。

 気が付けば、コマリとハヤテも一緒にこっそり覗いていた。

 そして、兵隊さん達を見たコマリは、「✕✕!」と小さく叫び、隣に居た僕の腕をつかんで、また言ったのだった。

 あの言葉を。


「マメ、オマメ、イヤ!!」


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