ツツジ月七日 月齢16.3

第3章 ころころマーケット

3-1

 

「マメちゃ~ん! 朝ですよ~!! 朝ごはんが出来ましたよ~!!」


「……はにゃ??」


 夢の中にいた幸せな僕。

 いつものモーニングコールで現実に戻った。


 アパートの大家さん、シノおばさんの声だ。


 仰向あおむけでイェイ♪ みたいな態勢たいせいで寝ていたらしい僕は、いきおいよく起き上がると、ピキキーン! と背中に衝撃しょうげきが走った。


「……!」


 背中と腰に痛みが走る。

 痛くて、無言で腰をさすった。


「マメちゃ~ん! 起きて~!! 朝よ〜!!」


 腰をさすりながら、ぼんやりと隣を見れば、ガーガーといびきをかいて大の字で寝ているソックスが居る。


 ……なんで、居るの……?


 ……あっ、そうか! 


 そうだった、昨日はリビングのかたい床でソックスと寝たんだ。

 だから、背中と腰が痛いんだ。


 僕の家、マタタビ荘は二階建ての小さなアパート。実家は別にあるけれど新聞記者になったので、通勤に便利べんりなこのアパートに引っ越してきた。


 今寝ていたリビングと、寝室にしている部屋が一つ。

 トイレ・バスの小部屋が、一つずつ。

 リビングのすみっこには、ハヤテがシノおばさんに借りた寝袋につつまって寝ていた。


「マメちゃ~ん!」

「はーい! 今行くよー!!」


 僕の返事の声に、ハヤテがのそっと起き上がる。

 目をこすりながら、見慣れない部屋を眺めて、ぼーっとしている。


 ……にゃあ、美形猫は寝起きも美形だにゃ。それに引きかえ……隣でいびきかいて寝ている幼馴染みソックスは……。


 とりあえず、なかなか起きないソックスを放って、マタタビ荘の一階にあるウッドデッキへと降りて行く。


 マタタビ荘にはキッチンがない。

 お世話好きのシノおばさんが、住人のご飯を作ってくれるのだ。

 マタタビ荘は、僕以外には1階に絵描きさんが住んでいるのみ。その絵描きさんも今は旅に出ているため、現在は僕一匹だけがマタタビ荘に住んでいる事になる。


「マメ、オハヨ!」

「!」


 僕はビックリした。


 コマリがはてな語で挨拶あいさつしたのだから。

 昨日の黒インクだらけのウエディングドレスではなく、ペールピンクの生地に小さな白フリルがすそについた膝丈ワンピースを着ているコマリ。

 その後ろからスミレ色のくるぶしまであるフリフリドレスを来たシノおばさんが、大量のロールパンを持って現れた。


「うふふ〜♪ 可愛いでしょ? 私のお下がりのワンピース!」

「うん、とっても可愛い……!」

「あらあら〜? マメちゃんもお年頃としごろかしら?」

「にゃ!? にゃあ、ちが、違うにゃあ!! それに、コマリにはハヤテがいるにゃ!」

「ああ、あのカッコいい男の子ね!」


 シノおばさんは、ポッとほほを赤らめる。

 その話題のハヤテは、兵隊さんの青い服は脱いで、下に来ていた白いロングシャツと黒いズボン姿でやって来た。――その朝日にかがやさわややかさを、ジロジロとにらみつけているソックスを引き連れて。


「オハヨ、ゴザイマス」


 ハヤテもハキハキと、はてな語で挨拶あいさつする。その白い歯がキラーンと輝く笑顔に、メロメロなシノおばさん。


「あ~ん、私があと10歳若かったら~!」なんて言っているけれど、きっとシノおばさんは10歳若返っても……おばさんにゃ。



 (ΦωΦ;)(ΦωΦ#)

 (*ΦωΦ*)(ΦωΦ)✩←(ΦωΦ‥)♡



 全員がそろい、朝食を食べる僕たち。

 今日の朝ごはんは、手作りロールパンにオムレツ、おばさんの菜園さいえんで採ったばかりの葉野菜はやさいのサラダとしぼりたてのミルク。


「嬉しいわ♪ いつもはマメちゃんと二匹だから、楽しいわ♪」


 おもてなしが大好きなシノおばさんは、たくさんのお客さんにルンルンだ。

 急に猫が増えて迷惑めいわくかな……? と思ったけれど、おばさんがお客様が大好きで良かった。


 僕の目の前にはコマリが居て、おばさんの美味おいしいご飯を食べては、隣に座るハヤテに「✕✕✕✕! ✕✕✕✕!」と語りかけて、ハヤテがそれに微笑ほほえむ。


 その光景こうけいがとっても仲良しで、僕らはなんだか面白くない気持ちになる。


「ったく、朝からイチャイチャイチャイチャしやがって!」


 と、ロールパンを前歯で豪快ごうかい千切ちぎるソックス。


「……でも、二匹は仲良しだけど、恋人同士じゃなさそうね」とおばさんが言う。


「「にゃ!?」」


 僕とソックスは、おばさんの発言に驚いた。


「そうなの?」

「その根拠こんきょは?」


「うふふ〜♪ 女のかんよ!」


 ……そうですか。



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