2-5


 女の子猫は高いかべから肉団子となって落っこちて来た。

 青年猫は、壁の上からカッコよく何回転もして、見事に着地した。

 とかい島から。

 

 ――僕はとかい島へと行こうなんて思わないし、行きたいなんて一度も思った事なかったから、まさか向こうから猫がやって来るなんて発想はっそうも持っていなかった。


「✕✕✕✕✕!」


 青年猫が何か僕らにうったえた。

 ジェスチャーで紙とペンが欲しい、と言っている様だ。

 ソックスは作業場さぎょうばにしている土間どまへと降りて、工具や材木などが乱雑らんざつしている机から、羽ペンを持ってきて、僕が持って来た新聞の裏紙うらがみを青年猫に差し出した。


 青年猫はスラスラと絵を描き始めた。

 大きな丸と小さな丸。

 その間にすっごく細長い四角形。

 大きな丸の方に、女の子と青年猫の似顔絵を描いた。上手だな。

 そして、その二人の背後に何やら怒った感じの兵隊さん? が追いかけている絵を描いた。

 そして、二人の似顔絵から矢印を描き、四角形を超えて、小さい丸に飛び越えた絵を描く。


「何かに追われて、とかい島からはてな島へ来たって事か?」


 ソックスが絵を見て、そう理解したらしい。大きな丸はとかい島、小さな丸ははてな島。そして細長い四角形は白い壁の絵だろう。


 その時、女の子の方が初めて僕たちに分かる言葉を発したのだ。


「オマメ、イヤ!!」


 びっくりして、僕とソックスは顔を見合わせる。


「オマメ、イヤ!!」


 また言った。


「……ほほぅ……へえぇ……。この子は、お前ソラマメきらいなのか」

「がーん。初めて会ったのに嫌われてるの?!」


 ……なんで嫌われてるの?

 僕にぶつかったのが嫌だった?


 しかし、僕を嫌いと言いながらも、僕の腕をしっかりとつかんで「オマメ、イヤ」を連発する女の子。その青い目にはうっすらなみだまっていた。

 ソックスは少し考え込んでから、青年猫の描いた絵の矢印を大きな丸のとかい島の方へと戻した絵を描いた。

 そして二匹を上目使いで見上げて、


「帰りたい?」


 と、尋ねた。

 二匹ともソックスが言っている意味を理解した様で、女の子はブンブンと頭を横に振り、青年猫はその様子を見て、女の子の意見に同意している感じに見える。


「そっか。とかい島に帰りたくないって。マメ、どうする? お前のアパートって空き部屋あったっけ?」


 ――はにゃ?

 なんで、僕のアパートに住む前提ぜんていの話になっているのかな??

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