2-4



 ……らせ……。

 

 お知らせ……。


 新聞を書かないと……。


 明日のお知らせ……。



 僕は真っ白な世界で、木箱ゲラを探していた。


 しかし右を見ても、左を見ても、真っ白で、木箱ゲラは無い。


 もちろん、はてな新聞堂も。


 どうしよう。このままだと、明日の新聞が出せなくなる! ミケランジェロさんに怒られる!? と背筋せすじがヒヤリとした時、突然ソックスが現れた。


 ソックスは両手に鶏を2羽抱えていた。

 

「ソックス! 鶏が見つかったんだね!!」


 喜ぶ僕。しかし、ソックスは僕を無視むしして、2羽の鶏を自分の家の庭に放った。

 そして高らかに笑って、言ったのだ。


『ぐはは、俺のとりが居るぞ! ぐははははは~!!』


 くだらないダジャレを言いながら、ちょうど良くポロンポロンと産まれた二つの卵を両手に持ち『たまご♪ たまご♪』と鶏たちと一緒に卵音頭たまごおんどおどり始める。


『たまご♪ たまご♪ たまごは美味しい♪ たまご♪ たまご♪ たまごは最高♪』


 ああ、何やってんだ。

 止めてくれ。

 僕にそんな変な踊りを見せないでくれ。

 新聞のお知らせを作らなきゃいけないのに!

 

『たまご♪ たまご♪ たまごは美味しい♪』


 止めて、僕を変な踊りに誘わないで。

 止めてよ、僕はそんな踊りはしないぞ!


『たまご♪ たまご♪ たまごは最高♪』


 ちょっと本当に踊るのやめてよ、なんだか楽しくなってきて、尻尾しっぽが揺れちゃうじゃないかっ!

 ソックス、やめて。


『たまご♪ たまご♪』


 ……やめて……!




「ソ……ソックス!(その、変な踊りを)やめてぇ!!」


 そう叫びながら、僕は夢からめた。


「――はい?」


 僕の真横に居たソックス。

 そして、並ぶように純白じゅんぱくの女の子猫と、銀の毛並みを持つ美形猫が居た。


「…………あれ? 夢か。夢だよね。あんな悪夢あくむ……」

「俺の名前を呼んでおいて、悪夢とか失礼にゃ!」


 プリプリと怒るソックス。

 気が付けば、ソックスの家の囲炉裏いろりの前でソックスの煎餅布団せんべいぶとんに寝ていた。

 後頭部がズキンと痛む。触ると見事なたんこぶが出来ていた。それ以外はちょっとお腹とか腕とか痛むけれど、無傷むきずの様だ。

 僕って意外と頑丈がんじょうだにゃあ……。


「ソラマメ君、起きて早々申し訳ないが、大変な事が起きている」


 腕を組むソックスが、隣に居る二匹に背中を向けて、僕にだけ言った。


「え? な、なに?」


 ソックスが口を開く前に、女の子と美形が話し出した。


「✕✕✕! ✕✕✕✕✕!!」

「✕✕! ✕✕✕✕!!」


「!?」


 ――みんなに言っておくと。


 決して、女の子達は「ばつばつばつ!」と言っている訳では無い。

 僕達が聞いたことない言葉をはっしているのだ。

 驚いて声が出ない僕。

 ソックスは表情を一つも変えずに「大問題だろ?」と真顔で言う。言葉が通じないのが怖いのか、かたくなに女の子達に背を向けて、拒絶きょぜつしている。


 僕は改めて、二匹を観察かんさつしてみた。


 女の子はびっくりするくらい可愛かわいかった。

 こんな可愛い女の子を見たことないくらい、綺麗な純白のふわふわの毛並みに綺麗な海色の目に綺麗なツヤっとしたひげ尻尾しっぽ

 落ち着いて見ると、その子の真っ白い格好は結婚式けっこんしきに着る、ウエディングドレスだと気が付いた。


 青年猫は、物語に出て来る王子様の様な美青年だった。

 さらっとした銀の毛並みに、女の子よりはうす色素しきその切れ長の水色の目。


 二匹は恋人同士こいびとどうしかにゃ? と最初は思った。

 しかし、かりに彼が女の子のお婿むこさんならば、タキシードのはずだけど、彼は青色の、兵隊さんが着る様な襟の詰まった制服だ。


 総じて、二匹のイメージはおとぎ話から出てきた、お姫様と騎士様って感じ。


「なんて言っているの?」

「お前も分からないのか。俺だけが分からないかと思ったけれど、俺はまともだったらしい。良かった良かった♪」

「自分がまともがどうか、僕で確認していたの?」


「✕✕✕!! ✕✕✕!!」


 女の子の方が、必死と僕に話しかける。困った顔をして、頭を何度も何度も下げる。


 ……どうやら、僕にぶつかった事をあやまっている様子。


 僕は歯を出してニカッと笑い「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」とVサインを送る。

 つられて、ソックスもVサインを送る。

 すると、女の子は胸に手を当てて、ホッとした表情になった。どうやらジェスチャーが通じた様だ。


「――で、この子達は、一体何なのさ?」


「……そりゃあ、壁から降って来たんだから、とかい島の猫だろうな」


 ソックスの答えに、もう一度、パチパチとまばたきをして、二匹を見つめた。


 青い目が、僕を見つめて微笑ほほえんでいる。

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