第24話 資金源

 リコが一日のかなりの時間を王の病を治すのに費やしていて、ウォルターたちがローサンを助ける手段を模索している間に、ネヴィルは傭兵からヘレル子爵が魔法石を換金している証拠も掴んだ。

 そして、それが別の問題もはらむ。


「ヘレル子爵が王の名代だと言って隣国のキリファと密約を取り交わそうとしているようだ」

「兄上。どういうことですか!」


 レイモンの執務室に集まったのはレイモンとリコ、ネヴィルとエルド。

 ネヴィルから告げられたのはヘレル子爵が魔法石の換金をしていたとして上がったのが隣国キリファ。それもただ、換金だけではなく、王の名代としてキリファ国のカイル王にも謁見していた事実を掴んだ。


「ネヴィル皇子。ヘレル子爵がどうして王の名代を名乗れるのですか?」


 そもそも、国内の重要な地位にいる訳でもないヘレル子爵が王の名代と名乗っても相手国が信用するのか。


「ヘレル子爵家にいた魔法使いがキリファ出身で、キリファの貴族と繋がっていたみたいだ。その貴族からの紹介で国王への謁見となった。そして、謁見を可能にしたのが魔法石だ。あれを携えて何度かキリファ国のカイル王に会っている」


 国が管理しているとされる魔法石を何度も持っていけば信頼しなくはない。それでも名代としていくのなら公的な書面か何かをもっていかなくても信頼されるものだろうか。


「どんな密約が取り交わされているか分かりますか?」

「まだ、そこまでは調べ切れていない」


 レイモンが素早く反応している。

 密約の内容によっては取り返しのつかないことが起きる。


「リコ。王の病はどんな感じだ」

「あと少しです。ですが、ローサンの救出方法が分からないので、どうしようか迷っているの」

「エルド。あそこから出すだけでもできないのか?」


 レイモンが焦っている。

 王の病を治せば一番早いが、このままだとローサンを犠牲にしてしまう。だが、一刻の猶予もない。


「かなり強力な力で拘束されていますから。無理に出すのは難しいです」


 エルドからの回答を聞き、レイモンは考え込んでしまった。


「なあ。もしも、ローサンをあのままにして王の病を治したら、ローサンはどうなる?」


 今度はネヴィル皇子が聞いてくる。

 やったことがないから分からないが、おそらく。


「あの黒い物体と共に消滅すると思います」

「消滅か……」


 ネヴィルは両腕を組んで考え始める。

 ウォルターたちが調べた内容はあの物体から出せばそれ以上の被害は出ない。ただ、あのまま物体の中に留まったままだと、王の病の原因が物体に返ることになるのでその衝撃を受けるだろうというものだった。


「兄上。このことを知っているのはここにいる者達だけですか?」

「第一騎士団の団長、ジョージが知っている」

「ジョージ・ミゲルですね。あの家門は確か中立派だったと記憶していますが、間違いないですか」

「そうだ。ミゲル家の当主は厳格な方だからそれは変わらない。レイモン、何をするつもりだ?」

「いい加減、腹が立ってきたのです。このままではあの親子の思うつぼです」


 レイモンが傍にあった紙に何かを書き始めた。その間、リコは王の病の完治までの日数を計算してみる。


「兄上。これがあの親子が横領した魔法石の値段です。無くなったとされる量と王が皇太子時代から今までの魔法石の値段を考慮してこれだけの金額になります」

「なんだこの数字は!!」


 ネヴィルはあまりのも大きな数字に驚いている。

 見せられた紙にはゼロが多すぎてよくわからなかったが、リコが少し前に貰った魔導士団の給料の何百倍だということは隣にいたエルドが説明してくれた。

 リコとネヴィルはせいぜい数十個くらいだと考えていたが、どうやら違っていたようだ。


「どうしてこんな金額になるんだ!」

「皇太子時代に採掘場所を聞いてから、王が気づくまでに六年。その間にかなりの量を持ち出していたようです。先日王妃様に言われて再度調査した結果、先王の時代の採掘量とその後六年間の採掘量を計算したところ、この量が無くなっていることが分かりました」

「ヘレル子爵が持ち出した証拠があるのですか?」


 確かに減っていたのなら持ち去ったことになるだろう。しかし、証拠がなければ追及できない。これだけの金額の横領となるとヘレル子爵もそう簡単に認めないだろう。


「証拠はある」

「どこに!」


 ネヴィルがレイモンに詰め寄る。リコもエルドもその状況を見守る。レイモンは目を伏せている。何か言いづらい内容なのか。


「大事な証拠だから場所までは言えないが隠してある」

「信頼できる証拠なんだろうな」


 ネヴィルの言いたいことは分かる。確実にヘレル子爵を追い詰めるものでなければいけない。


「ティアローズ様が命がけで守った証拠だ」

「母上が……、どうして?」


 今度はネヴィルの目を見てはっきりと告げているレイモンにネヴィルは明らかに動揺している。


「ティアローズ様はこの証拠を見つけてダニエルとヘレル子爵を追い詰めようとしていたと王妃様が言っていた」

「もしかして、母上が亡くなったのはあいつらのせいか?」


 俯いたままのネヴィルからは唸るように声がした。両手は握りしめられていて怒りを感じる。


「確証はないですが、おそらくそうだろうと」

「あいつら!」


 今にも部屋を飛び出しそうな勢いのネヴィルの前をリコとエルドが立ち塞いで止める。


「ネヴィル皇子、レイモン皇子。ティアローズ様の亡くなった状況は今の王と同じです」


 今度はエルドが言う。


「「なんだと」」

「ティアローズ様は亡くなる数日前まではお元気だったと聞いています。そして、急に倒れられてそのまま寝込んでしまわれたと記録されています」


 エルドたちが王の病を心配して調べていく過程で状況が酷似していることが分かった。そして、リコが黒魔術と突き止めた以降、ティアローズの状況を再度確認するとすべてが当てはまったという。


「あいつらは母上までも!」


 ネヴィルの心の叫びのようにも聞こえる怒りを発した。


「兄上。実はまだあります。ヘレル子爵は魔法石を自分の派閥の貴族に分け与えていたようです」

「なに?」


 俯いていたネヴィルは少しだけ顔をあげ、横目でレイモンを見た。

 レイモンは臆することなく、別の紙をネヴィルに見せた。


「ここ最近、ヘレル子爵へと寝返った貴族たちです。周囲を探らせていたところかなり羽振りがよくなっています」

「魔法石の流通はどうなっている?」

「それは、私から」


 エルドがネヴィルに説明をする。

 魔法石の管理を任されている魔導士団は魔法石の流通に目を光らせていた。特にゾフィーとローサンが教会に忍び込んだことから、魔法石の動きを慎重に調べていた。そして分かったのが、ここ数ヶ月の間に前王妃派と現王妃派から側室派へと寝返った貴族たちは急に羽振りがよくなり、何人かは魔法石を売って金銭を手に入れていたり、魔法石を使って別の事業を始めたりしている者もいたようだ。


「最近変な動きをする者がいたが、そのことが理由だな」


 ネヴィルは周囲の異変を感じ取っていたようだ。それでも怒りは収まるはずもなく、手は強く握られている。


「兄上。今はリコがいます。王を助けて、ヘレル子爵とダニエルにしっかりと罪を償ってもらいましょう」


 ネヴィルは迷っているようだ。レイモンが言うように罪を償わせるのではなく、今すぐにでもネヴィルがヘレル子爵たちを裁きに行きたいのだと。


「ネヴィル皇子。きちんとした手段で裁きましょう。誰の目にも分かるように」


 リコが言うとネヴィルはぼんやりと私を見てくる。恐らく、それが王妃様の願いだと思った。

 感情のまま裁くのではなく、公平な目をもってきちんと裁く。誰にも文句は言わせないくらいの証拠を突き付けて。


「そなたはそう思うのだな」

「はい!」

「分かった。そうしよう」


 レイモンから安堵のため息が漏れた。

 四人で今後のことで話し合いを進める。


 ヘレル子爵とダニエルたち、誰も取りこぼさないようきちんと罪を償ってもらうための方法を。

ネヴィル皇子とエルドは魔法石の流通をレイモンは漆黒の森を調べる事になった。

リコは引き続き王の病を治すことに専念した。

レイモンからもらった魔法石のおかげで王の病は少しづつよくなっていく。ネヴィル皇子がヘレル士爵を追い詰める証拠を集めていく。

レイモンもウォルターと協力してローサン救出の方法を模索している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る