第7話 忠実なる従者

「ありがとうございます...!あと、俺たちは佐々木さんより年下なので、ため口でいいですよ。」


この邸宅の威圧感ですっかり忘れていたが、この二人は中学一年生だった。


「えっと...わかった、空、雪。それで、まず今までの話を聞いていて、伝えることがある。」


俺は二人の方を改めて向き直って話し始めた。


「まず、一週間前に届いたと言っていた紙は、神託の紙と呼ばれるものだ。実は、前回殺人事件を捜査していた時、同じような紙が現場から見つかっている。」

「!...本当だ...まさか、私たちの所に届いたものが、殺人事件にも関係があったものだなんて.....」


俺が前回の神託の紙の写真をスマホで見せると、雪が反応した。確かに、冷静に考えると、殺人事件と関わりのあるものが家にあると考えると、かなり恐怖だと思う。


「それで、前回はこの紙に書かれている意味を考えることで、事件の解決につながった。だから、今回も神託の紙から考察していくのがいいと思う。幸い、今回は最初からこちらにあるんだからな。それに、今回はもう二通脅迫文が届いているんだ。そっちも考察したほうがいいと思う。」


俺がそういうと、3人は頷いて、まずは神託の紙に注目しだした。


「”パンジー、ビオラの天使”って書いてあるのは、空と雪のことじゃない?」

「私もそう思いましたが...私たちはもちろん普通の人間なので、天使などではありませんよ。」

「そうだな。だとしたら、何か理由があって、空と雪のことを”天使”と例えているということになるだろう。」


前回の”マリーゴールドの後継者”のときは、オレンジ色のマリーゴールドの花言葉から考えた。それと同じように、神託は花や生き物に例えるという決まりがあるのかもしれない。


(パンジー、ビオラと言っているのも、何かしら理由があるはずだ。後で花言葉を調べておこう。)

「じゃあ、その次の”二人の悪魔”ってなんのことだ?」


前回のことを思い出していると、空が次のフレーズについて話を振った。


「うーん、二人のことを”天使”って呼んでいると仮定すると、二人のことじゃないってなるけど、今狙われているのは空と雪の二人だし、他に当てはまりそうな人はいないよね。」

「確かに、そうなりますね。俺らのほかに狙われそうな人...正直、心当たりはないです。」


彩花が言ったように、二人を天使にするなら、その正反対といってもいい悪魔には当てはまらないだろう。だとすると、空と雪の身近にいる人――親二人、という可能性も出てくる。だが、確率は極めて低いだろう。


「とりあえず一度置いておこう。あとは、”打ち落とせ”だな。」

「打ち落とすって...かなり怖い表現をしていますよね。」

「ああ。ここで考える必要があるのは、どういう意味での”打ち落とせ”なのか、ということだ。」


俺がそういうと、空は何が言いたいのかわかったようで、俺の代わりに話を進めてくれた。


「つまり、<実際に危害を加えるのか>、<社会的に危害を加えるのか>ということを考えればいいんですね。」

「あ、なるほど...。てっきり私は、本当に殺されるとばかり思っていましたが、SNSとか、社会的に狙われている可能性もあるんですね。」


最近注目のフルート奏者ということもあり、一般人より確実にネット被害にあってもおかしくない立場にいるだろう。


(それに、実際に危害を加えたとしても、演奏家として活動できなくするために、手だけ狙う可能性もある。どこが狙われるかわからない以上、気を引き締めないと...)

「”我らの神に栄光あれ 大1106回目の神託”は、前回も特に意味のない言葉だった。とりあえず気にしなくていいだろう。あとは、もう二通の手紙だな。」


俺がそういうと、もう二つの手紙を出してきた。こちらは神託の紙とは別で、普通の紙切れだった。


「”光野空、雪を我々は狙っている”ていうのはさすがにその通りの意味だと思うけど...」

「俺もそう思います。もう一つの”お前らの次のコンサートは失敗する”というのにも、それほど意味はないと思うのですが...」


彩花と空はそこまで深い意味はないと考えているようだ。それに雪もうなずいている。


「俺も神託の紙ほど深い意味はないと思う。だが、もしかしたら”コンサートの中で狙う”ということかもしれないと思った。」

「あ、なるほど。普通ならいろんなタイミングで狙う可能性があるけど、この手紙がある以上、コンサート以外では私たちに危害を加えない、ということになるのでしょうか?」


雪が言うように、コンサートの時だけに危害を加えにかかるということの可能性があると感じた。しかし、そうするとコンサート中に社会的に危害を加えるのは難しいため、実害を与えてくることがほぼ確定してしまう。


「確かに、そういう可能性もあるんだね...まあとりあえず、一通り来た手紙については考えられたかな?」

「そうですね、では、これからどうしましょうか...」


兄妹が悩んでいるような顔になっていたが、俺はそんなことも気にせず、はっきりと言った。


「もちろん、次は現場での情報収集をするんだ。」


*******


FOUR of SWORDS:逆位置


次の休みの日、俺たちはコンサートホールに来ていた。

演奏を行うコンサートホールは、「秋葉シンフォニーホール」。国内でもかなり大きく設備のいいコンサートホールとして知られている。今回、期待の新生フルート兄妹と、ベテラン交響楽団のコラボということもあって、大きいホールを使わせてもらえることになったそうだ。


「ここが、私たちが演奏するコンサートホールです。」

「わぁ~!すごい!!本当に大きくて広いんだね!何個もホールがあるのかな?それともほかの施設と複合になっているのかな??」


外装を見ただけでテンションが最高潮に達している彩花ほどではないが、俺も実際に見るとその大きさに圧倒されている。


「彩花は来たことないのか?」

「なかなか来れないよこんなところ!普通のコンサートホールなら、音楽は好きだしよく行くけど、ここまで大きいのはほぼ行ったことないかな。ここは初めてだし。」

「あはは、俺たちの関係者ってことで、彩花さんにも来てもらえてよかったです。」


空が言っているように、俺たちは光野兄妹の関係者ということで、特別に入らせてもらった。本当はあまりよくないだろうが、そこは交響楽団の方が気を利かせてくれた。


「さて、ここに来たのは、もちろん実際に現場になるであろう場所で想像してみるためだ。論理的にできたとしても、それが実際にできるかはわからないからな。」

「はい、では実際に使うホールへ案内しますね。」


*******


ホールへの道で、俺は気になったことを二人に聞いておくことにした。


「これは気になったことだが、二人は警察に相談はしたのか?」

「いえ、実はしていません。本当は頼るべきなのですが...やはり大事にしたくなくて。そのせいで秋葉交響楽団の方々にまで迷惑がかかるのは嫌なので...」

「俺と雪で話して、とりあえず警察にはまだ相談しないでおこう、ということになりました。」

(なるほど、確かにそういう選択肢もあるのか。)


暗殺の危機に陥っているなら、普通は真っ先に警察に行くだろう。だがそれをしなかったということは、恐怖よりも周りのことを優先したということだ。


(優しいのはいいことだろうが、それで命を落とす羽目になったらどうするんだ...)


いろいろと考えていると、ホールに到着した。


「とりあえず、”打ち落とせ”が物理的な意味だったとして考えてみるか。」

「そうですね。では、俺と雪でステージに立ってみるので、佐々木さんと彩花さんで見てみてください。」


そう空が言って、本番のようにフルートをもって二人はステージに上がった。


「うーん、”打ち落とせ”ってことは銃かなと思ってたんだけど、無理そうじゃない?目立たなそうな後ろは案外目立っちゃうし...」


彩花の言う通り、言葉から考えると遠距離武器の銃で撃つことになると思う。遠距離なら弓とかもあるが、さすがに目立ちすぎるだろう。後ろの方も狙おうとしても隣に見えてしまうため、結局狙えないだろう。


「そうだな。俺は関係者に紛れ込んで狙う可能性を考えてみたが、ステージの横もスポットライトが微妙に当たってるし、観客からバレバレになるだろうな。」

「では、物理的に狙っているわけではなくて、社会的に狙っているということなのでしょうか?そうだと私たちに実害はないはずなのでまだいいのですが...」

「だけど、前回までの話では、コンサート中に狙うなら物理的に狙ったほうが現実的だということになってただろ?」


実害を加えるのか、社会的な危害なのか、いろいろな側面で考えれば考えるほど分からなくなってしまった。俺らがしばらく頭を悩ませていると...


「あの~、そろそろここ使えなくなるのですが...」

「あれ、もうこんな時間だ。すみませんリアトリスさん。私たちそろそろ行きますね。」


リアトリス、と雪に呼ばれた女性が、俺らに話しかけてきた。雪の話しぶりを聞いている限りでは、大方ここのスタッフということだろう。


「じゃあ皆さん、とりあえず帰りましょうか。」

「あ、ちょっと待ってください。これ、落ちてるんですけど、皆さんのですか?」


彩花が受け取ると、そこにはこう書かれていた。


【二人の悪魔、その配下にも慈悲は不要 大1107回目の神託】


「え、あ、これって...」

「ありがとうございます、僕たちのでした。」


彩花が分かりやすく動揺したため、とりあえず俺たちのものということにして話を終わらせた。


「ねえ、陸斗くん。この紙って間違いなく...」

「ああ、新しい神託の紙だろうな。前回は一枚だけだったが、今回は二枚だな。」


新しい情報が手に入ったところで、ホールに長居できるわけもなく、いったん各自の家に帰った。


*******


「ダリア様、これでよかったんですか?」

「ええ、とりあえず、今回は光野兄妹がいる手前私は話に入れなかったし。」


”私以上に話の分かる神に会わせてあげる”って言ったんだし、とりあえずこれからもリアトリスをちょくちょく会わせに行きましょう。


(...なーんてダリア様は思っているのでしょうけど、今回私たちほぼしゃべっていないので何も変わっていないんですよね...)



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世界の運命、紙と花 エリカ @kalner

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