第24話 ベスト4
リンと一緒に白装束の女性の後を追う。こういう尾行をするときってパンを食べたりするイメージがあるのだが、俺の手元にあるのはクレープだ。しかもまさかのおかずクレープ。
しょっぱい、ミートソースでチキンを挟んでいるタイプのやつである。
「あっち、行ったわね」
「そうですね」
「追うわよ」
「はい」
「……あと、それどんな味するの?」
「しょっぱいです。クレープって感じじゃないですね。食べます?」
「あ、いいの?」
「どうぞ」
「ありがと……おいしい」
俺達は白装束の女性を追っている……勇者ダン教と言う聞いたことのない、俺非公認宗教団体。もしかしたら、とんでもなくヤバい団体と言う可能性もある。慎重に気を抜かずに尾行をしなくては……ならない。
「こちら、勇者ダン教……」
あの白装束は衣服屋に入り、店主にビラを渡していた。しかも、隣の雑貨屋には別の白装束の女性がビラを配っているのも確認できた。複数人で勧誘とは、かなり大きな団体なのだろうか?
「結構アクティブに活動してるわね」
「そうですね。お店に貼ってくれとかも言ってるようですし」
「……ビラまで用意してるって事はかなり大きな団体なのかしら?」
「白装束も宗教衣装だとすればかなり形にも拘ってる感じもしますね」
「これは油断できないわね。バン、気を抜いちゃダメよ」
「はい」
「ちなみにだけど、この赤い服と白のワンピース。どっちが私に似合うと思う?」
「白の方ですかね」
「そう……すいませーん、このワンピース買いますー」
リンも謎の宗教団体、勇者ダン教に対してかなりの警戒心を抱いているようだ。その後も俺達は謎の白装束を追い続けた。すると、その女性は怪しげな地下道のような場所に徐々に入って行った。
「あそこがアジトなのかしら?」
「かもしれないですね」
「これは、本拠地ね、油断しちゃダメよ。これは尾行なんだから」
彼女の両手には色々な服の入った紙袋とかあるが……顔は険しい。相当警戒しているのだろう。
「リンちゃん」
そんな彼女に誰かが話しかける。俺達が振り向くとそこには見慣れた顔があった。元勇者メンバー、覇剣士サクラである。
「サクラ……」
サクラはニコニコしながらリンの肩を叩く。相変わらずと言うか、顔つきが中性的で肌も白い。顔面偏差値が高いってこういうことを言うのだろう。リンも美人だが、サクラも美人。美の風神雷神、って勝手に二人を心の中で呼んでいた時期もあるほどだ。
「アンタ、どうしてここに」
「勇者ダン教とか言う宗教団体を調べてるんだー」
「そうなの」
「うん、リンちゃんもそうなんでしょ?」
「まぁね。私も参戦とか勝手に言われてるし」
「やっぱり、勇者ダン教って偽物だよね?」
「まぁ、そうでしょうね」
「そうだよね、勇者君が献金とか集めるわけないし」
「偽物はお金集めてるの?」
「そうらしいよ。騎士団でもこの宗教にのめり込んだ人居るんだって、騎士団としてはかなり面倒だから調査しておきたいって事で僕が来たの」
「ふーん、調査ね」
「そう、潰しても良いんだけど……万が一、勇者君が本当に宗教やってたら大変だから慎重に捜査してって頼まれてるの。ほら、勇者君最強じゃん?」
「敵に回したら国滅ぶわね」
「でしょ? でも本人に確認しようと思ってもそう簡単に出来ないでしょ? 顔も分からないし、住居も分からないし」
「なるほどね……」
「うん、そういう事。折角だし、一緒に行こうよ」
「……まぁ、良いけど」
「うん! じゃあ、一緒に……あ、えっと、君は……」
二人で話し込んでいたがサクラはようやく俺に気付いたようだ。普段と違って俺様系オーラ的なの消してるのから分からなかったのだろう。
「どうも、バンです」
「そ、そう、よろしくね? バン君……えっと、リンちゃんの知り合い?」
「そうよ。一緒に偽勇者教を調べてるの」
「そうなんだ……でも、一般人が来たら危ないから帰った方が」
「大丈夫よ。そいつ、私より強いから」
「いやいやいやいや、リンちゃんより強いとか、勇者君とか魔王くらいしかいないでしょ? そんな訳ないって」
「……まぁ、そういうことにしておきましょう。因みにバンはついて来ても問題はないわ」
「え、えぇ? で、でもさ……」
サクラは明らかにフツメン的な顔と、もさっとしている一般人オーラで、俺を弱い奴認定をしている。
サクラはこの人大丈夫かな? みたいな顔で俺をジッと見ている。最初は懐疑的な表情だったが徐々に何やら別の意味で不思議そうな顔つきに変化した。
「あの、君さ……僕とどっかで会ったことある?」
「え?」
「いや、なんとなく、どっかで会ったような……気が……う、うーん? 気のせい、なのかな? 出身何処か聞いても良い?」
「これは、俺が偽教祖の疑いをかけられているから、身元確認的なあれですか?」
「あ、ごめん、そう言う意味じゃないんだけど……なーんか、初めてあった気がしないと言うか……」
「まぁ、雑草みたいな顔なので、どこに居ても不思議な顔だからそう思うのかもしれないですよね……」
「い、いやいや、そんなこと思ってないよ! 疑っても居ないし、雑草とかも思ってないって! た、ただ、なんか、本当に初めてあった気がしないだけなんだ」
「はぁ、そうですか……でも、初対面だと思いますよ」
「……………………そっか、うーん、絶対どっかで会った気がするんだけど。まぁ、今は良いか」
まさか、サクラの奴、俺が勇者ダンであると勘付いたのか!? ば、馬鹿な!? リンでさえ、完璧に誤魔化すことに成功していると言うのに、サクラにバレるのか!?
いや、落ち着け。まだ、疑われているだけだ。流石のサクラもまさか、散々俺様系キャラをやっていた勇者がこんなフツメン男とは思うまい。
そうだ、分かる訳が無いんだ。だが、もしばれたら、この二人の隣に立つことになるのか。凄く嫌だ。
それであれだろ? 散々俺様系キャラやって置いてフツメンとかダサすぎだろとか、信じられないとか言われるんだろ?
それから庇うように勇者様は顔つきなど気にしなくていいとか、別に顔のカッコよさとか関係ないとか言う出す奴居るだろ?
それはもう、限りなく擁護に近い処刑なんだよ。
あー、フツメンだとバレたくねぇ。
「じゃあ、3人であそこ行ってみようか?」
「そうね」
「あ、はい」
地下道的な場所に入るとかなりの広さがある広間のような場所があった。まさか、地下にこんな空間を作るとは、それなりの団体なのだろう。
リンとサクラは顔を隠して、辺りをキョロキョロしている。周りには俺達のように連れてこられたばかりなのか、普通の服装をしている一般人、そして、白装束を纏っている宗派の奴らに別れている。
「あ、勇者ダン様だ!!」
咄嗟に正体ばれたのか!? と思ったがそんなことはないらしい。広間の一番目立つステージのような場所に鉄仮面を被った一人の男性が現れただけだった。
「初めまして、新たなる信徒たちよ。私の名は勇者ダンだ。嘗て数多の魔王を倒した、生きる伝説である。私と共に生きられる時代に感謝をするといい」
外から見ると俺ってあんな感じだったのだろうか? 最高にダサくね? これ見せられてどう反応すればいいんだよ。
「キャあああああああああああああ!!! 勇者様よぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ありがとう!!! いつもありがとう!!!」
「ゆうしゃ! ゆうしゃ! ありがとゆうしゃ!!!」
へぇ、あれ見ても逆共感性羞恥とか無いのか。意外とウケが良いのか? 信徒たちは狂喜乱舞状態だった。
「ほぉぉぉ!! 勇者あまぁあぁ!!!!!」
「生きててよかったぁぁあ!!」
だが、確かに騙されてしまうのも分かるかもしれない。見た目と言動はよく似せている、というか本人に見えなくもない。本人の俺が言うのだから、それなりに似ているんだろうなぁ。
これは、偽物を見たらサクラとリンも騙されてもしょうがないだろう。
「あれは偽物だね」
「そうね。魔力もあんな波動じゃないわ」
「あと、勇者君の一人称俺だし」
「それに、もっと、痛々しいわよね。ダンは」
「もっと言えば勇者君がよく使う鉄仮面って、右側が少し錆びてるんだよね。まぁ、勇者君が使ってた鉄仮面は他にもあるけど、どの鉄仮面の特徴とも一致してないね」
「それ、私も思ったわ。あと、ダンは歩く時に踵から地面にしっかり地面に足をつけるのよ。偽物は中途半端ね」
「僕も思った。あと、剣を装着してるのは右側じゃなくて、左側の腰の方ね」
「そうねそうね。あと、声も違う」
「うん、もっと渋いよね」
間違い探しのプロみたいだ。二人にはあれが偽物であると分かったらしい。いや、よく分かったな。俺も鉄仮面の右側が錆びてるとか知らなかったんだが……
「おい、そこのオマエ」
「え? 誰だ?」
「オマエだ、そこのどこにでも居そうな平凡な男」
誰だろうか? キョロキョロしていると全員の視線が俺に集まっていた。あ、どうやら勇者は俺のことを言ってたらしい。
「なにか?」
「オマエ、私が勇者ダンではないと疑っているな」
「いや、別に」
「いや、オマエの顔に書いてある。オマエは心酔しきっていない。明らかにこの空間で平然としている。他の者達は疑うものなどいないと言うのに」
「いや、他にも疑ってる人は……」
途中から来た人たちもあれが本物だと信じているような眼だった。ふむ、これは流石に……なにかしてるな? 明らかに何らかの状態異常付与と見て間違いない。
リンとサクラは全然効いていないようだが異常を察知して、顔を隠しながらちょっと遠くで俺を見ている。
「私が偽物だとオマエは言うんだな?」
「いや、言ってないです。信じます、貴方が勇者ダンだと」
「嘘を言うな、オマエは信用していない。こちらの教壇に上がれ。直々に私が勇者であると教えてやる」
「そこまでしたら、逆に偽物って言っているようなものでは……まぁ、いいけど」
俺が歩き出すとさざ波様に人が引いて行った。こんな綺麗に人が心酔するわけがない。これは何者かの介入があるな。
あ、教壇の下に何かあるのかな? 洗脳装置的な? なーんか、感じるぞ
教壇に登って地面を見る。何かあるな。
「さて、オマエは……」
「その話もう良くないです?」
何回同じ話を繰り返すのだろうか。このままだと時間も大分かかる。ウィル達の大会もあるし、これ以上は時間はかけられないなぁ。多分、ウィルは負けてるだろうし、落ち込んでるだろうから、フォローしてあげないと。
テッシーもユージンもすでに負けているだろう。アルフレッドが残っているくらいかな? テッシー、ユージンとか才能はあるけど、あの大会でいきなり上位は難しいだろう。
早いとこ、メンタルケアをしてあげないと……どうしようか。
◆◆
「ねぇ、リンちゃん、あの人放っておいて大丈夫なの?」
「大丈夫よ」
サクラとリンは偽勇者からの視界から外れつつ、こっそりバンと勇者の体面を見守っていた。
「……なるほどね。分かったわ。あの偽勇者の足元、教壇の下に何かあるわ。超微弱、だけど魔力を感じる。脳の潜在意識にでも作用するのように出来てるのかもね」
「そっか、それで洗脳して信者数を拡大してるって事か」
「多分ね。私とかサクラは魔力が多いし、そもそもそう言うのに耐性があるでしょ?」
「あ、神様の恩恵だっけ?」
「そうよ。まぁ、私達なら問題ないけど、一般的な人とか、まぁまぁの実力者も洗脳されちゃいそうね」
「そっか……あれ? あの人、バン君は大丈夫なんだ」
「そりゃね。まぁ、大丈夫よ、見てれば分かるわ。アイツ、ガチで強いから」
「そんなに?」
サクラはちょっと信じられないようだった。確かに不思議な感覚のするような青年であるが強さは感じなかった。
「あの、単刀直入に言うんだけど、お前、偽物だろ」
「ふっ、俺が偽物だと?」
「下にある何かで洗脳してるんだろ?」
そう言ってバンは下を指さした。
「……嘘、分かったの? 僕でも全然感知できなかったのに?」
(リンちゃんでも、洗脳する何かがあるって探すのにちょっと時間かかったのに。あの人は、大賢者と言われたリンちゃんよりも早く気付いたって事……?)
サクラは思わず眼を見開いた。生きる伝説と言われている自分達。勇者ダンには格段に劣るがサクラと言う剣士は世界でも指折りの実力者だ。魔法に関してもかなりの知識と経験と才能がある。
だが、今回に限っては起きている事象に関して把握が出来ていなかった。サクラよりもさらに上のリンの力を使ってようやく分かった。
それよりももっと早く勘付き、さも当然のように佇む彼に異様な既視感を覚えた。
「勇者様になんて失礼な事を!!!」
「勇者ダンが洗脳なんてする訳ないだろ!!」
「恥を知れ、バカ者!」
周りがバンに向かって罵詈雑言を投げるが言われた本人は気にしていない様子だ。ヒートアップしていく会場の中で、偽勇者はクツクツと笑いだす
「よく気付いたな。褒めてやろう」
「そりゃ、偽物だって分かるよ」
「だが、気づいたが運の尽きだ。お前は世界で一番運が悪い。新人類創造寮、幹部であり、
「なにそれ?」
バンは新人類創造寮と聞いても一切ピンとはこなかったがサクラは思わず息を飲んだ。
「ねぇ、サクラ? 新人類創造寮ってなに?」
「……僕も詳しくは知らないんだけど……最近活動が活発になってる謎の組織だよ」
「そう言うの沢山あるわよね、闇組織みたいな」
「うん。でも、今までとは比較にならない規模らしくて……騎士団も全く情報がつかめないって」
「そうなんだ」
「彼らの目的は人類の新たなステージを開く事、最終的には神になりたいらしいんだけど。それをするために闇の果実を配ってるらしい」
「ふーん、果実ね」
「この間、騎士育成学校でキャンディスって女子生徒が襲われて、その相手がその果実を食べてたらしいんだ」
「そうなのね」
「多分、色んな所で果実をバラまいてそれをもとに新たな果実を生成、それを食べて自分達だけが神になるとか、そんな所だと思う。僕も詳しくは知らないんだけど」
「滅茶苦茶知ってるじゃない」
「いや、その、スパイ活動をしてた騎士が居たらしくて、その報告書を見たから……でも、分かってるはそれくらいなんだ」
「他にもあるんじゃないの?」
「えっと、その組織では神に近い順に
「めっちゃ知ってるのね」
「でも、本当にそれで最後だよ? 調べた騎士はスパイがバレてから、接触が皆無になってそれっきり。そっからは本当に一切の情報が皆無だったの」
「ふーん、確かに強そうね、偽物」
「も、もう! ふざけてる場合じゃないでしょ! あの人助けないと」
「大丈夫よ。アイツ……ガチ強いから」
暢気にへらへらしているリンを見て、サクラは流石にシャキッとしてくれと叱咤をかける。だが、それでも彼女は動かない。勝ちを確信しているかのように。
「えっと、誰かは知らないけど、もう、偽物とかやるなよ。あと一般人の洗脳もな」
「黙れ、雑魚が!!」
しかし、間に合わなかった。彼女の思った以上に偽勇者の速度は速かった。想定を超えていた。助けられると剣を抜こうとしたら、既に敵の剣がバンの首元にあって、彼女はバンが殺されることを予期した。
(不味い、殺され――)
だが、彼女の眼に不思議な光景が写る。首元にあった剣は粉々に砕かれ、偽勇者は壁にめり込んでいた。
カキン、と現象に遅れた剣を収める音が聞こえた。
「え……?」
眼を離してはいなかった。救助すべき人を前にして眼を逸らしたわけでも無ければ、瞼を閉じたわけでもない。だが、時間がぶつ切りになったように偽勇者は倒され、青年は立っていたのだ。
収めた剣を再び抜いて、バンは教壇を切った。すると、やはりと言うべきか、カチカチと僅かな機械音を放つ、黒い装置があった。最初から分かっていた手品のタネを見つけたくらい退屈な表情でそれを壊す。
壊すと、地下広間に居た、リンとサクラ以外の全員が気絶をした。
「どうやら、片付いたみたいね。多分、一時的に洗脳元を壊したから寝てるだけでしょうね」
「そうですね。というわけで、ここは一旦出ましょう……」
バンは地下広間の出口に向かって歩き出す。こんなに速く帰りたいのはウィル達の試合があるからだ。
サクラとリンも彼の後を追うように外に出る。歩きながらバンには聞こえないようにサクラはリンに小声で話しかける。
「ね、ねぇ、リンちゃん、あの人何なの?」
「さぁ? 何なのかしらね?」
「知り合いなんだよね? 何か知ってるんじゃ」
「……知らないわ」
「そっか……あの人の動き、全然見えなかった」
「私も見えなかったわ。瞬きしなかったのに」
「お、おかしくない? 僕達、勇者パーティーだよね? 結構修羅場潜ってきてるのに」
「世の中にはいろんな人が居るのかもね」
「そ、それで済む話かな?」
「まぁ、一件落着だからいいじゃない」
「う、うーん?」
「あと、バンの事は騎士団には内緒よ」
「え?」
「私とサクラが倒したって事にしておいてね」
「そ、そう言うわけには……だ、だって、報奨金とか」
「いいのよ、バンはそう言うの嫌いらしいから」
「え、えぇ?」
「分かった?」
「……で、でも」
「分かったわよね?」
「う、うん。分かった」
◆◆
不味い、俺の偽物退治にかなり時間がかかってしまった。大会はどうなってるかな?
ウィルは確実に敗退してるだろうし……メンタルケアを……
「ベスト4が出そろったらしいぜ!!!」
「丁度、対戦表が張り出された!!」
「誰に賭ける!? 俺はアルフレッドに全額投資だ!!」
丁度、ベスト4が出そろったのか。声を聴くにアルフレッドはベスト4に残れたらしい。かなりの強者ぞろいの大会で残れるとは、やはり勇者の血統か。
アルフレッドの対戦相手を見たら、負けたであろうウィル達のフォローに行くか。
準決勝 第一試合
ウィル対ユージン
準決勝 第二試合
テッシー対アルフレッド
……全員、ベスト4残ってるのかよ
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