第21話 戦士トーナメント

 戦士トーナメント。それは七聖剣の一人、ドドドと言う人物が主催として開催する。戦士の実力を競い、順列をつける。


 なぜ、そのような事をするのか。それは彼自身が若い強さを持つ者を求めているから。魔族は何年も前から世界に害を与えている。だから、それに対抗のできる新たな強さを発掘したい。


 次世代の英雄は君だ!



 みたいなのが俺が貰ったビラに書かれている。へぇー、あの槍使いが今ではこんなことをしているのか。全然知らなかったな。

 

 ドドド、確か最初は剣使ってたのに、ある時から急に槍を使い始めた男性だったな。そろそろ60歳近いんじゃなかったか? それなのにこういう事をするとは凄いなぁ。


 昔はちょっと嫌味なイメージあったけど……。まぁ、昔の話だしね。気にしてはいないけど。


「お前はこれに出るつもりなのか?」

「……はい」




 ビラを見ながらウィルに俺様系口調でそう聞いた。修行の合間の休憩に聞いたら、ウィルは出場をすると答える。


 へぇ、まぁ、いい経験になるんじゃない? ベスト4以上になると報奨金が貰えるらしいけど……お! 優勝10万ゴールド、結構貰えるんだなぁ。流石にウィルは入賞は無理だろうけど。


 どうせ、ユージンも出場するだろうけど、ユージンも厳しそうだなぁ。アルフレッドが優勝候補くらいだろうか。出るか知らないけど。



「そうか。まぁ、精々頑張るといい」

「……はい」

「それより、どうした? お前は今日大分やつれているが」

「あ、ぁ、その……」



 顔が物凄く青いのだが一体全体どうしたのだろうか。



「始まりの、けんを……おって、しまって……、ぼくは、なんてことを……」



 あー、そう言えばリザードマンと戦っているときに折られてたな。いやいや、頭の髪手でぐしゃぐしゃして俯かないでよ。



「あはあああああああああ! どぉじでだよぉぉ! ぼくは」

「気にするな。形あるものは壊れる、それだけの事――」

「――伝説の遺品を壊してしまうだなんてぉぉ」



 俺の話を聞いてない。しかも遺品って……死んでないんだけどね、それと中古の剣なんだけどそれを言う事は出来ない。どうしたものか。もう殺人起こしたくらいに混乱してるし……



「僕は……そんなつもりはなかったんです、ただ、リザードマンの攻撃を始まりの剣で受けようとしただけで……そしたら、こんな、こんなことに……」



 取り調べをして、犯人から自白を受けた刑事とはこんな気持ちなのだろうか。全然殺人とかはしていない、中古の剣を壊しただけだぞ、ウィル。



「リザードマンは魔剣を持っていました、咄嗟に防御をしないといけなくて……」

「気にするな、別に壊れたところで特に問題はない。それより、手に入れた魔剣にはどんな効果が付随していた?」

「……え? その、始まりの剣を壊してしまったのに怒らないのですか?」

「どうでもいい、それより魔剣はどうなんだ」

「その、惨殺付与、切れ味が魔力を通すと上がるらしいです」

「なるほど……切れ味が増す。言い方を変えれば強化、剣の状態を気にせずに防御も出来ると言うわけだ」

「ぼ、僕もそれは思っていました。シンプルですがかなりの魔剣らしいです。ランクがあるらしくて」

「なるほど、特別な効果が付与されている魔道具にはランクがあるが……」



 ウィルはようやく落ち着いてきたようだ。それにしても魔剣か。魔道具と呼ばれる不思議な道具にはランクがある。1から100まである。因みに俺が持っている聖剣も大きなくくりでは魔道具であるし、ランクは100らしい。


 歴代勇者が使って来たらしいから、衛生面で心配なのであんまり使わないが……



「僕の魔剣は単純なスペック的には35だそうです」

「大したものだ」

「でも、それよりも僕には」

「始まりの剣はもういい、壊れてもどうせいつしか土に還る、それが定めだ」

「は、はい……ちゃんと土の中に破片を集めて埋めておきます」

「そうしておけ。始まりの剣もこれ以上は気にするな。俺も大事なモノは沢山壊してきた、勇者ならば通る道だ」

「は、はい!」




 そう言えば、昔、リンも大泣きしてた時あったな。俺があげた誕生日プレゼント壊したとか言って……別に気にしなくても良いと思うんだけどね。





◆◆



 そして、ウィルとの修行から数日が経過した。その間には特に色々無かったのだが……今日は戦士トーナメントが開催する。かなりの人数かコロッセオのような場所に出向いており、騒がしい。


 偶に鉄仮面を被った俺を真似している奴の姿もチラホラといるがいつもの事だ。こういった催しは俺の姿を模した奴がかならずいる。眼の前に居るウィルも鉄仮面を被っている。


 戦士トーナメントは鉄仮面を被って出場するらしい。


「よし、では行ってきます!」

「俺の弟子なのだから、無様な戦いは許さんぞ」

「はい!」

「順当に行けば入賞は確実だ、頑張ると言い」

「はい! ありがとうございます!」



 流石に入賞は無理だろうけど、一応、こういう期待をしている感じを出しておかないと。やる気がなくなったら困るからな。さぁて、負けた時の慰める構文を今から考えておこうかな。



 ウィルが一礼して去っていく。あ、ユージンも居る、アルフレッドも受付に並んでいるなぁ。皆、出るんだろう。受付にはまさに長蛇の列があったのだ。そこに見慣れたもう一人の姿が居た。


 灰色の髪の毛、目元には布を巻いている少年。槍を背中に背負って、彼は僅かにおぼつかない足取りで受付を探しているようであった。



「お前も来ていたのか」

「お、勇者様やんけ! ワテを応援に来てくれたんか?」



 弟子の『テッシー』だと俺はすぐに分かった。



 テッシー・ルーフォー、貴族ルーフォー家の長男。眼が見えないと言う特徴があるがそれとは関係なしに、それなりの才能がある。家柄的には才能ナシと言う烙印を押されている。ユージンと同じだ。


 だが、俺は普通に才能ありそうなので声をかけた。滅茶苦茶とんでもない才能があるのかと聞かれたら、何とも言えないが少なくとも周りの評価は過小評価だったし、そんなに下げる必要もないのでは……? と思いつつ声をかけた。ボッチだし、関係性を暴露される確率も低いからだ。



「受付はあっちだ、気づいてると思うがな」

「おー、どうりでゴッツい魔力を沢山感じるわけや」



 元はウィル以上におどおどしている少年だった。だけど、唯一無二の存在になりたい的な、自分を変えたいと言うので、日本の関西弁を教えてあげた。それで異世界で唯一関西弁を話す少年が生まれたのだ。



「勇者様も居るのは分かっとったけど……相変わらず垂れ流しエグイわ」

「そうか」

「そうか、じゃないんやけど。アンタのせいで感知が鈍るねん。魔力の濃度が余りに可笑しくてワテの感覚バグるねん」



 テッシーは他人の魔力感知が優れているらしい。俺も何となくで魔力は感じ取れるが、テッシーは俺以上に感じ取れるらしい。感覚的な物なのであまり説明は出来ないらしいが、大体感じ取って避けたり、人の動きを感じれるらしい。


 へぇ、やるじゃん、位の感想だが……。貴族一家では目が見えない、それに加えて魔力があまりに少ないので落ちこぼれ烙印らしい。まぁ、有名貴族騎士一家だからね、四大貴族には及ばないけどそれなりの面倒な家訓があるのだろう。



「そうか、まぁ、頑張れ」

「おー、優勝したるでー」

「期待しておく」



 それなりの才能はある。だが、優勝は無理、入賞も厳しい。何故かと言うとテッシーはずっと引きこもりだったからだ。彼は槍を使っているが武器全般を使い始めたのがつい最近なのだ。


 ウィルに声をかけたのが大体去年の冬、テッシーもほぼ同じころに声をかけたので半年しか経っていないのだ。魔力感知が優れているから面白そうと思って声をかけたけど、まだ半年。才能はある、確かにそこら辺の凡才より、俺より、持っている。


 だが、半年なのだ。中々、勝てるのも勝てないだろう。


 才能が有っても経験とか色々足りなすぎる。本当に魔力感知と成長力は眼を見張るんだけどね。



 さーてと、観戦の為に鉄仮面を外して冒険者バンとして活動をしようかな。師匠が試合見てたら緊張とかしてしまうかもしれない。



「ダン」

「リンか」



 危ない、仮面を取ろうと思ったらリンが居た。危ない、バレる所だったぜ。それにしてもリンが来るの珍しくね? あ、でも前の冒険者交流会でバンが行くと言ったら、私も行こうかなとか言ってた。



「アンタが来るなんて……珍しいわね。まさかと思うけど、参加するわけじゃないわよね?」

「当然だ。俺が出たら優勝してしまう。分かりきった勝負程つまらないモノはない」

「でしょうね。じゃ、見学に来たわけね?」

「ふっ、見学……まぁ、先見の明、未来を見通しに来たとでも言っておこう」

「あ、そう……」

「ではな、精々、上から見下ろすと言い」

「いや、私そんな性格悪くないから」



 そう言ってリンと別れて、鉄仮面を取ってバンとして早変わりをする。そのまま観戦用に受付で入場チケットを買っているとまた声をかけられた。



「おい、何の用だ?」

「え?」

「あ、何の用ですか? リンさん」

「見かけたから声をかけただけなんだけど」(……今思いっきり勇者の顔が出たわね)


 あ、やばい、一瞬俺様系の勇者ダンモードで話をしてしまった。だが、バレていないようなのでセーフ。


「あ、なるほど……」

「もしかして、出場するの?」

「いえいえ、僕なんか出てもねぇ?」

「そう? 四天王倒すくらいだし、優勝できそうだけど」

「いや、もう、僕なんか細々とやってる大したことない冒険者ですから、もう無理ですよ」


 こうやって誤魔化して下の感じを出しておかないとな。勇者を演じるのをやめた意味がない。引退後の普通の生活も出来ないからな。冒険者バンは謙虚で下の庶民を演じていないと。


「ぷぷ、そ、そうね……」(やばい、さっきと違い過ぎて笑いそうッ、言ってる事違い過ぎでしょ)



「リンさんも出場ですか?」

「い、いや、ぷぷ、私は、あれよ。見学よ」

「あー、なるほど」

「え、えぇ、折角だし、一緒に座りましょ」

「良いですけど、僕といても楽しくないですよ」

「それなりに楽しいから良いのよ」(いつか絶対、この演じ分けを頬をツンツンしながらからかってやりましょ)






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