第12話 覚醒ウィルVSダイヤ

 とある朝、僕はいつものように勇者ダンと共に訓練をしていたんだ。だけど、いつもとは少し違う所がある。それは村から少し離れた場所で訓練を行ってると言う点だ。


 森林に囲まれた鬱蒼とした場所。木と木の間から僅かに刺す光明が僕達を照らしていた。僅かにしか光は刺していないと言うのに眼の前の勇者はいつものように極大に輝いていた。


 この人が……あと十年しか輝けないなんて……


 もっと、強くならないといけない!!



「お願いします!」

「どっからでもかかってこい」



 勇者は木剣をこちらに向ける。合図はない、始めるタイミングは僕が決めて良いと言う事だ。全てがこちらにゆだねられている状況で僕は直ぐにも足を踏み出した。この時間を一秒たりとも無駄にしてはならない。


 振り下ろした剣は彼に防がれた。更には僕の刀身を剣先にピンポイントに当てられてる。一瞬のうちに起こった神業に驚いている暇もない。一度引いて、そこから振り下ろす……と見せかけて、敢えて空振り、そこから切り上げる。


 それで一撃が決まる訳が無い。彼は上からフェイントとして放った空振りを防ごうともしなかった。全て分かっていたのだろう。



 未来すら見通すことが出来るとすら言われた勇者ダンの洞察力、それを甘く見ていたつもりはない。しかし、本当に心の奥底を更には自身すら知りえないようなことまで知られているような気がして、身の毛がよだった。



「少し、攻めるぞ」



 ――少し



 少しって、なんだっけ……? 真上から岩石でも降ってきたかのよな衝撃。真横から巨人の手でビンタされたくらいの爆発力。どこが少しだよ!?


 僕からしたら大嵐だ。


 重くてしなやか、同時に速い。最早、自身の眼では追えないほどに速過ぎた。だけど、なんとか僕は喰らい付いていたのだ。一撃すら食らわずになんとか耐え凌ぐ。


 しかし、手が震えていた。手も剣を通じて喰らった振動の余波で鉛のように重くなってしまった。


「少しはできるようになったな」


 数秒の打ち合いの果てに、体力が底をつく。そして、上から隕石が落ちてきた。正にこのまま体がすりつぶされると幻覚を見てしまう程にその一撃は強さが内包されていた。


 勇者の剣は僕の頭に激突することなく、直前で止められていた。あまりの迫力に僕は腰をついていた。


「あ、あ……」


 言葉にならない。彼に殺気はないとしても、容易に自身を潰すことが出来る人は恐怖を簡単に与えることが出来ると知った。


「少し、休め」



 言われるがまま休憩をした。しかし、すぐに腰を上げて彼に挑んだ。結果はいつもと同じでボロボロに負けるだけで汗だくになった。


「近くに滝がある。水浴びでもしていくといい」

「あ、はい!」



 確かにあれだけ汗をかいていたら村の人にも、メンメンにも怪しまれてしまう。服を脱いで僕は滝で水を浴びた。ついでに勇者様も浴びるようだ。


「あの」

「なんだ」

「水浴びでも仮面は取らないんですか……?」

「文句あるか」

「あ、ないです」


 全然水浴びになってないような気がする。だって、鉄仮面で滝の水が弾かれてるし、勇者ダンって偶によく分からない気がする。まぁ、僕程度に分かる訳がないんだけど……。


 水浴びをしながら、ふいに勇者ダンの下の方を見てしまった。それを見て、僕は戦慄をした。え……これって……勇者ダンの顔は今まで見たことはない。更には体つきとかだって見たことがなかった。


 どこまで引き締まった体なのか、それも気になっていた。直で見て、引き締まり同時に強固な肉体美に圧倒的な強さを感じた。僕もこれくらいにならないと勇者にはなれないと感じた。だけど……し、下の方は、これは……鍛えてどうこうなる大きさなのか?


「あ、あの」

「なんだ?」

「その、しもの大きさって……勇者の才能に関係ありますか……?」

「何を言っているんだお前は」

「いや、その……勇者様みたいに大きく――」

「――馬鹿か、お前は」

「ですよね。すいません」



 どうやら勇者の才能に大きさは関係ないらしい。なんだか安心をした。水浴びが終わると彼は修行の総評について語りだした。


「さて……自身でどう思う?」

「えっと、前より強くなっている感じがします!」

「そうか。俺もそれは感じている」


 勇者ダンも成長を一緒に感じてくれているという事実に思わず拳を握って喜んでしまう。しかし、と彼は淡々と告げる。


「しかし、お前は俺の動きに慣れているとも言える。あの修行で俺と打ち合えるのは俺の動きに慣れて、ある程度次にどこに衝撃が来るのか分かっているからだ」

「は、はい」

「ようは思考ではなく、脊髄反射に近い」

「せ、きずいはんしゃ?」


 聞いたことのない言葉だ。僕が無知であると言う事もあるのだろうけど……。勇者様は僕が無知であることに溜息を吐くことなく淡々と告げる。


「脳と言うより、感覚だな。熱いモノに触ったら咄嗟に手をどけるだろう。それと一緒だ、熱いから手をどける、と感じてから動くより、既に動いていると言う事だ」

「あ、はい、なるほど……」

「なれている俺にはまぁまぁ通じるが他相手だと通じない事もあるだろう。そこは経験だがな……あとは、お前魔法は使えるか?」

「使えません……」

「一々、落ち込むな。ここから俺が教える」

「え!?」

「来週からだ」

「ら、来週か……」



 モドカシイ、もっと教えて欲しい、出来たら明日からでもこの人に魔法を教えて欲しいけど……忙しいからな、勇者ダンは……


「頑張れ、ウィル。来週は始まりの盾もやろう」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ」


 そんな、まさかあの伝説の始まりの盾も貰えることが出来るだなんて……一生の家宝にしたい! 始まりの剣も寝る時も一緒だし、始まりの剣と盾と一緒に寝れたらいい夢が見れそうだ!!


「ウィル。あんまり焦るなよ。急激に成長することはない」

「そ、そうですよね」

「ただ、今までやってきた事が急に積みあがる瞬間はある。今は耐える時、積み上げるために土台を固めろ」

「は、はい!



 僕が強さに焦っていることも見抜かれていた。やっぱりこの人は凄い!! 


「では、一度家に帰らせて頂きます」

「あぁ」



 そう言って僕は一度家に帰った。朝練、昼練、夜の前にもう一度訓練。疲労や勇者ダンの予定によって変わることはあるが、基本的に訓練は三部構成だ。ここまで訓練が続くと流石に疲れる。


 この時点で疲労は溜まっている。しかし、頑張る、来週からは魔法で始まりの盾も貰えるのだから!!


 僕は気分が上がりいつも以上に野を翔けた。



◆◆



 ウィルは勇者ダンと別れ、一度村に帰り薪割をしていた。彼は冒険者になった後も家の手伝いをしたりしていた。冒険者として依頼をこなし僅かであるがお金も家に入れている。


 少しずつ変わっていく自分を彼も周りも感じている。そして、筋力が付いて以前とは別人のように薪も高速で割れる。



「ウィル。本当に力強くなったね」

「あ、うん」



 そんな彼に幼馴染のメンメンが不思議そうな目で観察をする。あまりに以前とは違いすぎて違和感が湧いているようだ。



「ねぇ、絶対なんかあったでしょ? 教えてよ」

「え? え、えっとなにもないよ……」

「嘘だよ、ゴブリン相手に引かないし私を助けてくれたし、急に冒険者試験受けるとか言って、合格してくるし……絶対可笑しい!」

「そ、そうかなぁ……?」



(不味い……メンメンに怪しまれている。でも、勇者ダンとの関係は絶対に秘密にしなければ……)



 どうにか言い訳を考えようとするウィル、そんな彼の下に二つの影がやってきた。


「おい、ウィル。相変わらずしけた面してるな」

「オレ達と一緒で冒険者試験受かったからって調子乗んなよ」


 ウィルとメンメン、二人の元にやってきたのは同じく同年代のルードとウェスタンと言う少年だ。彼等の村で最も才があるダイヤと言う少年の取り巻きみたいなことを二人はしており、三人で冒険者試験に挑み合格している。


「もう、二人はいい加減にしてよ! ウィルに構わないで!」

「いつも女の陰に隠れやがって」

「どうせ冒険者試験もインチキしただろ」

「どっか行って!」



 メンメンが怒り、ウィルを二人から遠ざけようとするがそうも行かなかった。ウィルはずっとそう言う馬鹿にされることに慣れていたから、下を向いて何も言わない。


「ウィルはすっごく強くなってるんだから! インチキじゃないし! アンタ達の親分のダイヤなんかちょちょいのちょいなんだから」

「ほう、言ったな!」

「だったらオレ達のダイヤと勝負だ!!」



 ルードとウェスタンは待ってましたと言わんばかりにダイヤとウィルの決闘を提案した。ウィルが馬鹿にされて頭に血が昇っていた為にメンメンはそのままそれを承諾した。



「いいよ! 絶対ウィルが勝つから!」



 そうと決まれば逃げるなよと二人は言い残して、去って行った。その後でメンメンは冷静になり、口に手を当てて、やってしまったと後悔をすることになる。


「ごごご、ごめん、ウィル! あの、私……」

「あ、うん。急に色々きまってびっくりしたけど……僕の為に言ってくれたわけだし、怒ってないよ」



(それに……良い機会かもしれない。今の僕がどれだけダイヤに通じるか。どこまで差が縮まっているか。それが例え仕組まれていたとしてもやる価値はある)



 ウィルはダンとの訓練の時間までの間にダイヤと戦う事を決めた。今まで比べることすらおこがましかった存在との戦いが始まる。




◆◆


 ウィルとダイヤが向かい合う。


「ボクとやるって言うのかい? ウィル」

「うん……。どこまでやれるか、試してみたい」


 

 ウィルは手を開いたり閉じたり落ち着かない様子だった。なぜならギャラリーが居て、彼自身の根っこは小心者だからだ。


「おいおいダイヤとウィルがやるのか」

「流石に無理だろ。手も足も出ずに負けるさ」



 同じ年の子達も気になって、二人の決闘に出向いていた。否、ルードとウェスタンが集めたのだ。二人はウィルが急に駆け上がるのが気に食わなく、絶対に勝てるダイヤと公衆の前で戦わせて赤っ恥をかかせてやるつもりなのだ。


 ダイヤはそれを知らない。だが、思いは違えど彼自身もウィルとの決闘を望んでいた。別人とも言えるような急成長を遂げたウィルの実力を確かめたかった。



「先手は譲るよ。ウィル」

「ありがとう」



 ウィルの足が地に沈む、そこからバネの様に急激に加速をして、剣を落とす。風を斬るような一撃をダイヤは防いだ。



(――速いッ、身体能力、それに流れるような型が作り上げられているのか……ッ)



 短時間でここまでの強さを得られるはずはない、しかし、眼の前の存在はそれを体現をしていた。それに驚愕と嫉妬、そして畏怖を抱く。それも束の間、攻守が入れ替わり、ダイヤが剣先を向けて突きを繰り出す。


 それで決まるかに思われるほどにダイヤの剣も見事であった。大衆も僅か一瞬だけ、勝負の決着を予感した。――だが、そこから彼は再びそれを横なぎで急所を外す。


(決まったと思ったのにッ)



 戦いを見守る周りもようやくウィルが急成長を遂げ、別種の番外になりかけていることに気付き始めた。



「ウィル、最近動きが軽いと思ってたが、本当にどうしちまったんだ」

「ってか、あれどこの流派の剣術?」

「ダイヤは絶真流だろ?」

「違くて、ウィルだよ……ウィルの剣術」



 その言葉は微かにだがダイヤにも聞こえていた。



(そうだよッ、どこの流派だ!? この剣は!?)



 まさか、生きる伝説から直々に落ちこぼれの泣き虫ウィルが剣の指南を受けているとは夢にも思わない。そもそもダンの剣は特殊の剣で彼が前世で覚えていた知識と、この世界で考えて、丁寧に丁寧に、砂で城を作るように少しずつ作り上げたモノ。


 似た剣はあれど、同種の剣はない。その根本にある剣の真理は途轍もなくシンプルなのだが、それには未だに誰も気付いていない。



(コイツ……マジでなんだよッ。ボクが、ボクが、ボクがこの村で一番強いんだよッ)



 ダイヤにはプライドがあった。彼はどこにでも居るような優しい青年だ。しかし、彼の中には力を誇示したい、己が強いと証明し名声を得たいと言う欲望もあった。それは悪い事ではない。欲望は人を成長させるものだから。


 だが、彼の場合はそれを内心に留めるが少々行き過ぎる。心の奥底で誰かを見下し、嘲笑し、それによって他者との実力を確認していた。


 故に、焦る。急に横から現れた三下以下の存在に焦った。



(確かに大したもんだよ。でもな……ボクの方が強いッ!)



 ダイヤも積み上げてきた者がある。絶心流という剣を学び、魔法の才能もある。紛れもなく、強者の道を行く一人。彼の剣はさらに力を増して、ウィルの実力を確かめる剣から、彼と叩き潰す剣に姿を変えた。



 次第に追い込まれるウィルの姿にメンメンは祈るように手を握った。自分の失言によって、この戦いが始まってしまった事も後悔して、しかし、応援もしている。なぜなら、彼女は――


(ウィル……大丈夫だよね)


「ねぇ、これどういう状況?」

「え?」


 

 軽い間の抜けるような声。彼女が横を見るとツンツンヘアーの黒髪の男性が何食わぬ顔で二人の決闘を眺めていた。


「え、えっと村の若い人同士で決闘みたいな……、わ、私のせいなんですけど」



(この人、村の人じゃないよね……? しかもさっきまで居なかったし、足音とかも全然……)



「ふーん、決闘か……」



 興味深そうにその男性は決闘を眺めていた。その彼の目線の動きや独特の雰囲気から彼女はあることを悟る。



(この人、あの戦いが完璧に見えているのかな……。私は正直、見えないんだけど)



「あの、あっちの黒髪の子は勝てそうでしょうか?」

「うーん、間違いなく負けそうだね」

「あ……」

「ただ……折角なんだからもうちょっと、頑張ってほしいけどね」



 そう言って青年は手をメガホンの様な形にして、それを口に当てた。そのまま徐々に負けを認め始めたウィルに声を発する。



「頑張りなよ! まだまだ行けるって! まだまだ出し切れてないモノがあるんじゃない!?」



 がやっと周りが湧いた。あそこにいるツンツン頭の青年は誰だと、一体全体どっから勝手に入ってきたんだと言われ始める。だけど、ウィルだけはその声の主に気付いた。


 先日、冒険者試験に一緒に挑んだバンであると。どうして、ここに居るのかは分からないが彼が応援をしてくれていると気づいた。


(不思議と、彼の応援で力が湧いてくる……考えなきゃ、ある程度勝負できたで終わるなんて、勇者ダンの後継者として僕自身が許せないッ)



(ここから……更に……)




 バチっと彼の頭に電流が走る感覚――、そうだと彼は思い出す。



(脊髄、反射……。動きの慣れ、彼の動き、眼で見てからの思考と対処……僕の動きは遅いんだ……そうか――これが)



(勇者ダンが言っていたことだッ)



 覚悟を決めて、再び彼は一歩飛ぶ。剣を握り締め、思いの丈を外して、強敵に挑む。


 しかし、その行動に誰もが目を丸くした。



「は……?」



 見ていた内の一人が溢した言葉だった。だけど、それは一人を除いた全員の思いの代弁でもあった。なぜなら、ウィルは目をつぶっていたから。



(馬鹿が、それでボクに勝てるわけもない、諦めたか)


 ダイヤも勝負の決着を今度こそ、悟ったつもりだった――しかし、そこから瞬きをする暇もなく、彼の首元に剣が向かい始めていることに気付き、大急ぎで対処を試みる。


 上、下、右、左、彼は目を瞑りながら剣を振る。



(眼で見てから考え、対処するから遅いなら、眼もいらない。勘と今まで見て来たダイヤの動きを頭の中で予知して動く……)



(勇者ダンが既にヒントをくれていたんだ……)


 


 ウィルは生まれてすぐに勇者ダンに憧れを抱いた。それは彼以外にも抱く者は居て、ダイヤもその一人だった。彼には才能があって村の中では英雄だった。それをウィルは指をくわえることしか出来なかった。


 だけど、見ていた。嫉妬と自身の情けなさに板挟みになりながらも先を行く相手として、何年もダイヤの剣を見てきた。


 だから、必然的に彼の動きは分かった。彼の考えそうなことも僅かだか分かっていた。それを、今し方始まった実戦と自身の勘で埋めて、限定的な未来視をような力を再現した。



(ボクが、剣を振ろうとしたら、既にッ)



 強者ダイヤ弱者ウィルが迫る。一手ずつ、一歩ずつ、攻守が入れ替わる感覚を誰もが感じていた。


 まさか、勝つのか? ウィルが……と期待を抱きかける。


「まだだ、右、左、上、右」



 ブツブツと頭の中のダイヤの動きを呪言のように呟きながら、ウィルは剣を振る。剣が完全に読まれている、心が写し取れている感覚に背筋が凍る感覚。崖に追い込まられる焦りをひしひしとダイヤは感じていた。



「うそだ、ボクが、負けるなんて――」



 ――ダイヤが負けを悟って最後に適当に振った木剣がウィルの頭に当たった。



 最後の最後に彼は読み違えて、更には体力、気力共に限界に達していたウィルは倒れた。限定的な未来視の再現はそれだけ脳に負担を与えていたのだ。


 ダイヤは勝った。しかし、誰もその勝利に声を上げることはない。ダイヤ自身も勝ったとすら思わなかった。


 

「……なんだよ、なんなんだよッ。急にボクの隣にきやがってッ」



 ダイヤの言葉にウィルは応えない。ただ、疲労の渦に呑まれて彼は瞳を閉じていた。眠りに落ちる寸前、彼は夢を見た。



 遥か先、ダイヤなんて、比べることもできない程の先に居る存在。天にすら届きそうな強さの頂に居る勇者の背中が僅かだけ見えた気がした。



『――必ず、僕は貴方のような勇者になります』



 夢の中でしかも鉄仮面を被っている勇者ダンが笑って居る気がした。



◆◆



 僕はダイヤに負けた。気付いたら辺りは夕焼けに染まっていて、家のベッドの上で目を覚ましたのだ。



「ウィル!」

「メン、メン」



 起きたらすぐそばには幼馴染のメンメンが泣きそうな顔で僕を見ていた。きっとあの決闘の事を気にしているのだろうと僕は悟った。


「あの――」

「――ごめんなんて言わないで」



 彼女の言いそうなことは分かっていた。だから、止めた。



「あれは僕にとっては良い経験になったし! 元々、戦いは止めることは出来たのにしたのは僕だから! だから、謝らないで!」

「あ、うん」



 全部言ったら彼女は謝るのを止めた。


「え、えっと、頭打ったけど大丈夫?」

「うん、平気だよ」

「そっか、なら良かった……どうして私が最初にごめんって言おうとしたの分かったの?」

「え? なんとなくかな? メンメンとは幼馴染だし、大体分かりそうな気もするけど」

「……ウィルって昔からそうだよね」

「なにが?」

「んー、とね。誰かの気持ちを、痛みとか理解しようと努めるとこ。人の気持ちを考えて、なるべき傷つけないようにしようとか、きっと困ってるから、困りそうになるから助けてあげようとか、よくしてたじゃん」

「そ、そうかな?」

「そうだよ……ウィルのそう言う……


 メンメンがそう言って、顔を赤らめて下を向いた。思わず、ずっと心のうちに秘めていた想いを告げてしまったからだ。


「え? ごめん。よく聞こえなかったんだけど?」

「えー、嘘でしょー」

「あ、え!? ホントごめん!?」

「もー、じゃあ、当ててみて? 私が今、何を想っているのか」



 メンメンが上目遣いでウィルを見る。黄色の綺麗な髪と、宝石のような美しい瞳と整った容姿、そんな少女が頬を赤らめて雰囲気を出したら、もう、答えは決まっている。


「から揚げ食べたいとか?」

「……もぉー、こういう所だよね! ウィルの良いところは!」

「ありがとう!」

「皮肉だよ」



 溜息を吐きながらメンメンは立ち上がって、再びニッコリ笑った。



「ありがとね、私の事まで気にしてくれて! あと、今日のウィル、かっこよかったよ!」

「え? 本当!? ありがと! ってあああああ!?」

「どうしたの急に大声出して!?」

「忘れてた!!! ごめん! 僕行かなきゃ!」

「ちょっと、ウィル!?」




 ウィルはあることを思い出して、家を飛び出して走って行った。メンメンは一体全体何が何だか分からないまま、首を傾げた。



◆◆



 朝練が終わり、ちょっと眼を離したすきにウィルが決闘とかするって聞いたから鉄仮面外して、着替えて村に進入中である。



 既に始まっており、状況を聞くとウィルとダイヤと言う子が決闘をしているらしい。おおー、頑張れ! ウィル!


 

 しかし、負けそうだ……。まぁ、まだまだここからって感じだからな、ウィルは……。


 でも、後悔するような負けはするなよ。お前が勇者を目指すならきっと後悔することはあると思う。でも、今からしてどうするよ。沢山あるんだよ、辛い道も、困難なあぜ道も。


 なに、負けそうな顔しているんだ! 気合い入れろ! お前週一とは言え俺が教えてるんだぞ!!



「頑張りなよ! まだまだ行けるって! まだまだ出し切れてないモノがあるんじゃない!?」



 そう言ったらウィルもちょっと気合をいれなおしたらしい。というか、かなり良い線行っているのでは……? え? ちょっと待て


これ、勝つのか……?


 流石の俺も僅かに期待をしてしまった。しかし、ウィルは最後の最後に読み間違いをして呆気なく負けた。でも、確かに可能性を感じざるを得ない動きだった。



 これは褒めてやろうじゃないかと思い、家に帰って始まりの盾を持ってくることにする。起きた時に渡してやろうと待機していたら……ウィルと幼馴染? と思われる女の子が話をしている場面を聞いてしまった。


 それにしても、ウィルは可能性の塊かもしれない。あいつこそ真の勇者に成れるかも……七人の弟子で可能性のあるランキング一位はウィルかもな!!


「そ、そうかな?」

「そうだよ……ウィルのそう言う……

「え? ごめん。よく聞こえなかったんだけど?」




 うわぁ、俺難聴系苦手なんだよなぁ……、あとイチャイチャされるのもムカつくなぁ。弟子は師匠の俺が結婚するまでイチャイチャするなよ。


 勇者ダンの弟子は異性とイチャイチャしてはいけないって条例作ろうかな? それにしても何だよウィル、俺と一番近い灰色の青春送ってると思ったらリア充かよ。超新星爆発スーパーノヴァしろー


 


 腹立つわー。やっぱり孤高でボッチで女の子と一切話さないユージンが勇者として、一番可能性感じるわー。


 さて、という事は始まりの盾も女の子とイチャイチャしているなら必要ないよね?

 

 ウィルはイチャイチャしたので三週間後にあげることにしよう。



 そう思って帰り道を歩いているとウィルがやってきた。



「あの! 急に修行さぼってすいませんでした!」

「気にするな」

「あ、その……その手に持っている盾は」



 あ、しまった。出しっぱなしだった……仕方ない、あげるか。



「やろう、始まりの盾だ」

「あ、ありがとうございます! それと勇者様のアドバイスのおかげでまた一歩成長が出来ました!」

「そうか。精進しろよ」

「はい!」



 どのアドバイスであの動きになったのか全然分からないな。取りあえず現代知識で語ればそれなりの効果と信頼が得られると思って色々言っているから分からんよ。


 でも拡大解釈すれば俺のおかげか……。ならば腕組んで全部分かっていた感を出そう。


 ウィルは凄い感激して、全部分かっているなんて流石だ! みたいな顔をしている。それより、俺もリア充に成りたい……。


 あれ? でもそう言えば昔……ウィルと似たようなシチュエーションがあったな。なんだっけな? あ、そうだ。俺が『ダルダ』っていう剣士に負けた時だ。



 落ち込んで宿屋のベッドの上で座っていたら……リンが慰めてきてくれたんだったな。


「何しょぼくれてんの?」

「なんでもない」

「嘘でしょ。どうせアイツに負けたの気にしてるんでしょ」

「……」

「ほらね……別にこれから勝てばいいじゃない」

「……そうだな」

「……アタシから言わせれば両方まだまだって感じだけど……」

「……」

『――でも、その……アンタの方が……か、かか、カッコよかったわよッ』

「なんか言ったか?」

「い、言ってないわよ! ばか!」



 あの時、ダルダっていう剣士に思いっきり鉄仮面に鉄剣ぶつけられて、その衝撃と金属音で鼓膜がどうにかなってたんだよなぁ。あの時、リンは何て言っていたのか……。小声で聞こえなかったんだよ。


 なんでもいいか。どうせ分からないし。



「あの、これからもよろしくお願いします!」

「あぁ」

「この盾も一生家宝にします!」

「そうしろ」



 そう言って俺はウィルと別れた。さーてと、明日はユージンかー。始まりの籠手でも上げようかな?

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