第11話 冒険者交流会

「「ダン! 合格おめでとー!!」」


 俺はバンとして冒険者登録試験に挑み、見事数多の試験を乗り越え合格をすることが出来た。冒険者カードと言うプラスチックで作られたようなカードを渡されている。それを両親を見せたらお祝いをしようと言われて今に至る。



「今日はダンの好きなバーバードの胸肉のから揚げよ」

「ありがと」

「やっぱりダンは凄いな。中々合格できない人だっているのに。まぁ勇者なら当然か」



 俺はから揚げをむしゃむしゃとフォークで食べていると母が何かソワソワしながら一枚の紙を出した。



「ダン! じゃじゃーん! これ見て」

「なにそれ?」

「冒険者交流会の用紙! 最近よく行われるんだって」


 

 母から渡された用紙を見てみると、確かに近々冒険者同士による交流会が行われるらしい。この会で未来のパートナーが見つかることもよくあるとも書かれている。要するに前世の合コンみたいな奴だろう。



「行ってみたら?」

「そだね」



 母はきっと俺に参加してほしいのだろう。なぜならば結婚をして平穏に生活をして欲しいと願っているからだ。ならば断る理由はない。それに俺も同じような想いでもある。


 そろそろ本格的に彼女が欲しいと思い始めているところである。勇者ダンとしてではなく、冒険者バンとして参加して彼女ゲットだぜ。


 しかし、少しだけ懸念点として本当は30歳だが18歳として活動をしていると言う事だ。年齢詐称は良くないと思うが……前世のマッチングアプリ使っていた奴も写真盛ったり、身長偽造してる奴居たからな。


 しかもファンタジーの世界だし、そんなに問題ないような気もする。あ、そうだ、この合コンの日はユージンの修行の日だ。確かに合コンは行きたいが後継者育成もさぼる訳には行かない。俺は七日間周期で弟子一人一人に教えているから、弟子との時間を蔑ろには出来ない。


 だとするなら……ちょっと修行を早めに切り上げる。これだな。しかし、早めに切り上げて会場に向かいたいがアイツ怒るんだよな。


 修行が減ったりすると激おこになる。どうしようかな……そうだ、伝説の始まりの盾あげよう。うん、そうしよう。それで機嫌治るだろ。




◆◆



 アタシリンリンは一度地元である大樹国フロンティアに戻り、自身の部屋のベッドの上でゴロゴロしていた。アタシには特にやりたい事がない。だからずっと部屋に居て本を読んだり、ごろごろするだけで終わる。




 アタシが部屋から出るのはダンと会う事くらいだ。一応エルフの第二王女であるという事で母や兄弟からもう少ししっかりしろと言われるがそれは無理な話なのだ。


 アタシは面倒くさがり屋の我儘王女なのだから……。しかし、こうしてずっと部屋に閉じこもっているとほぼやることはない。ただ、ダンに会いたいなって頭の中で思うだけだ。


 彼を想うと、ちょっと体が熱くなってくる。


「ダンに滅茶苦茶にされたい……」


 ごくりと唾を飲んだ。頭の中では彼に愛撫される自分を思い描いたり、言葉攻めされる自分を妄想している。部屋の中だと誰にも気を遣わずに妄想できるから好きだ。


 だけど、キスだけが妄想できないのが非常に残念だ。だって、鉄仮面を被っているから素顔が分からない。でも、別にそれでも十分興奮は出来る。


 そして、そんな事を考えていると自然と手が、下着の下に伸びてしまう。


「ダン、ダン、ダン……もっと、滅茶苦茶に……」


 妄想を捗らせて、性欲を満たそうと下着の中に手を入れた瞬間……


 


「姉さんー、入るよー」

「勝手に入らないでよ! ターニャ!」



 危なかった! ダンで妄想して色々するのがあとちょっと早かったら間違いなく姉として死んでいた。


「ごめん。でも時間無いから早めに終わらせたくて」

「あっそ」

「冷たいなぁ。あ、髪も服もぼさぼさだし、王女なんだからもっとさ、あるでしょ?」



 アタシの妹であり第三王女のターニャが部屋に入ってきた。アタシには兄と姉が一人ずつ、そして妹が一人の四人兄弟なのだが、妹の方がしっかりしていると偶に言われて気に食わない事が多い。



「それでなに?」

「ワタシ、今度結婚するの」

「えぇ!?」

「うん。公爵家のカッコいい人なんだけど……ってそれは別にいいや。姉さんもそろそろ結婚とか考えて良いんじゃない? もう27歳なんだし」

「エルフは長寿なのよ」

「確かにね、でも早めに嫁いでおかないと売れ残りみたいになるよ。兄弟で結婚してないの姉さんだけだし」

「アタシは……一応、相手いるから……」

「勇者ダンさん? 無理じゃない? あの人高嶺の花すぎて」

「……そんなことないもん」



 アタシが気にしていたことずばりと言う妹……確かにターニャの言うとおりである。でも、一時期は本当に良い感じだったのだ。もう何年も前の話だけど、恋人に成れるかもってなるかもって思っていた。



「母さん、そろそろ本気で結婚させるつもりかもよ。それに姉さんは七歳の時に勝手に城を抜け出した事も未だに根に持ってるし」

「うっ、それ言われると……」



 そう、七歳の時に魔王討伐するために城を勝手に抜け出して、そこで勇者と出会ったのだ。その後、初めて城に帰った時物凄く勇者の前で叱られた。涙出して、顔真っ赤にして勇者の前で号泣してしまったのは未だに黒歴史だ。



「……ってわけでこれ」

「なにこれ?」

「冒険者交流会、冒険者同士で色々話したりするんだって。この会がきっかけで結婚した人とか居るんだってさ。今度王都トレルバーナの一角を借りてやるから行ってきたら」

「ダンは来るの?」

「来るわけないでしょ。こういう会に」

「じゃ、行かない」

「いや、行っておきなって。いつまでも勇者ダンと結婚とか考えてないでさ、ちょっと理想下げなって」

「……いやよ」

「えぇー、まぁ、そう言うと思ったけどさ。でも、もしかしたら運命の出会いあるかもよ」

「もう運命なら出会ってるもん」

「そう言う事じゃなくてさ。勇者ダン以外との運命の話。それにこれ一応行っておけば、母さんにも一応結婚の為に動いてるって言えるじゃん? 小言減るよ」

「……むむ、確かにそうね」

「取りあえず行ってきたら? 暇つぶしにさ」

「王族が、こんなの出て良いのかしら?」

「良いんじゃない。それより結婚できないで燻る方が問題だと思うけど」

「……」



 ダンが来るなら行ってあげても良いけど……来ないんだったらいってもしょうがない。でも、母さんの小言はちょっとずつ増えてきている。結婚しなさいって、政略結婚とかあんまり興味ないし……。


 運命の人探してるからって形だけでも示しておくのは大事かしら? 母さんにアタシ一応、ちゃんと未来の事を考えてると言うために、凄く面倒だけど行ってみるのも一つの手かもしれない。


 交流会には食事も出るらしいし、お昼食べに行くくらいの感覚で行けばいいか。




◆◆


 さて、俺は遂に冒険者交流会にやってきた。それに加えスーツ姿で鉄仮面は外した姿でである。


 実を言うとちょっと緊張をしている、合コンとか初めてだからだ。俺は参加料金を払って、冒険者カードを提示して会場に入る。


 うわぁぁ、よく来る場所だな……。結構こういう場所来るから新鮮味はない。なのだが、どこか居心地の悪さを感じてしまった。または緊張とも言えるかもしれない。


 ここにきてまず俺がやることはナンパに等しい。出会いを求める者同士で話して仲良くなり、恋愛関係に発展させる。それは凄く難しい。なぜなら俺は一度もそう言う経験がないからだ。


 だが、折角来たのだあの綺麗なエルフの女性に話しかけよう。


「あ、こんにちは」

「こんにちは。ミーティングって言います」

「僕はバンです。ここ始めて来たんですけど、ミーティングさんも初めてですか?」

「えぇ、そうなんです。あんまりこういうの疎くて……バンさんは冒険者ランクいくつですか?」



 冒険者ランク、FEDCBASLの八種類存在しており、Lに近い程高ランクであると言う。一つ上げるにもかなりの時間がかかり、しかもDから上は更に試験を受けないと上げることはできないらしい。しかし、稀に凄い成果を上げれば試験を受けなくても昇級できるとか。


 とは言っても今の俺は駆け出しの冒険者バンだからな。



「Fです」

「Fですかぁ、あー、そうですか」



 なんだその外れ引いたみたいな顔は……いや、違う。そうか、そう言う事か。ここに居る冒険者達は全員出会いを求めている。折角ならばカッコよくて高ランクの冒険者と出会いたいと考えるのは必然。

 

 フツメンの最下層とか論外だ……。くっ、しまったぁ。

 

 エルフの女性は別の男性と話し始めていた。物凄くイケメンで物腰も柔らかさそうな人だ。二人は一気に距離を縮めているような気がした。



「え!? Cですか?」

「えぇ、まぁ」

「凄いー! どうして冒険者になったんですか?」

「僕は昔勇者ダンに憧れてましてそれで冒険者になったんです」

「あ、私もです。勇者ダンカッコいいですよね」



 二人して死んで地獄に落ちろと言うのは簡単だが……俺の事が好きと言われたら憎むに憎みきれない。お幸せに、クソ野郎ども。



 あーあ、なんだか萎えて来たわ。しかも周りでは既にグループが出来てる感じするし。これ以上頑張っても無意味な気がするなぁ。最低でもランクCくらいに上がったら出直そうかなと。



 きょろきょろ周り見ていたらとんでもない人を発見する。リンだ。元パーティーメンバーのリンが会場に居たのだ。



 いや、なんで居るんだよ!? 



「え? リンリン様じゃない?」

「大賢者リンリン様だ」

「どうしてここに!?」

「リンリン様もパートナー探しに来たのかしら?」

「いや、でも誰も話しかけられないだろ」



 俺と同じように彼女に気付いたのか、周りもざわつき始める。まさかここに居るとは思わなかった。サクラが居ると言うのにどうしているのだろうか? もしかしなくても喧嘩でもしたのだろうか。


 腹いせにこういう場所に来たと俺は予想をする。しかし、だからと言ってそれ以上は何もしない。周りは騒いでいるけど、騒ぎと言うのに俺は慣れているし、リンが周りから驚かれたりするのも今更だ。


 それに今の俺は何かを語るほどの力がない。彼女に話しかける気力もするつもりもない。そう悟り、俺は置いてあったバイキング形式の食事に手を伸ばした。折角高い料金を払ったのだからせめてお腹一杯に食べておきたいという思惑だ。



 俺はお皿を取って、オムレツとか唐揚げとかバランスを考えてサラダ、飲み物も野菜ジュースを選択し、それらをもって席についてよく噛んで食べるが男女で話さず、ご飯を食べるのは俺くらいだな。あと人前で鉄仮面を外して食べるのは初めてであるが気にならない。

 


「ねぇ、相席していい?」

「あ、どうぞどう……ぞ……?」



 一人でむしゃむしゃ食べてたら、元パーティーメンバーであり、大賢者リンが俺の眼の前に立っていた。



◆◆




 これは今から十四年前の話である。嘗て世界を蝕もうとする呪詛王ダイダロスが

アタシリンリン達、妖精族に対して宣戦布告をした。


 ヤツは大樹の更に上である、天空から魔法によって自身の巨大な姿を映し出し、高らかに宣言をしたのだ。



『劣等種族であるエルフの諸君、ごきげんよう。私の名は呪詛王ダイダロス。新たなる神だ』


 唐突に現れた魔王である彼に全ての妖精族は震えた。下品に顔を歪めて上から目線で笑って見下していた。裏を返せばそれほどまでの自信があったと言う事なのだろう。


『私は息ですら大樹を枯らすことが出来る。お前達は私の呪いの魔の手から逃れることが出来るのだろうか? 否だ。お前達の国は破滅に向かう』


『今から一時間後。私の手下である魔族の大群がそちらに向かう、震えていろ。ははっはあはああ!! 戦争だ!! お前たちに勝ち目はない』



 嗤って魔王は消えた。すぐに攻めて来ないのは慌て恐怖に溺れるエルフが見たかったのだろう。奴の思惑通りエルフたちは大混乱だった。


『どうするんだ!』

『こわいよぉママぁ』

『王族が何とかしてくれるんだろ!!』



 当然アタシにも怖かった、大樹を枯らすと言ったが大樹は魔力の塊で、国の自然の源であったからだ。それが枯らされたら国は終わる。それに魔族の大群は多数の死人が出てしまう。


 でも、アタシは戦うしかなかった。なぜなら魔王を討伐したメンバーであるアタシはエルフの希望であったからだ。最前線で杖を持って、大群に備える。一時間後に近づくまで恐怖で支配されていた。



『今から一時間後。私の手下である魔族の大群がそちらに向かう、震えていろ。ははっはあはああ!! 戦争だ!! お前たちに勝ち目はない』


 呪詛王の言葉が蘇る。あの邪気を感じてアタシよりも強い事は分かっていた。他のパーティーメンバーはその時居なかったから、余計に怖かったのだろう。


『ダン……会いたいよ』



 戦争が迫る。


一時間後……戦争は起きなかった。


偶々エルフの国にダンが来ていたらしく、倒してくれたらしい。


 あんだけ嗤いながら宣戦布告をした呪詛王はダン曰くワンパンだったとか……。あまりにあっけなかったのに大物感出してたから、エルフの一部からは顔芸魔王とか言われている。


『……泣いているのか?』

『べ、別に泣いてないし……って言うかアタシだけでも倒せたし……でも、ありがと』

『そうか』



 その後、エルフの国から報酬金とか貰っていたが本人からしたら金なんていくらでも持っているからさほど興味は無かったのだろう。一時期、褒美にアタシを嫁にすると言う話も出たが……結局お蔵入りになってしまった。



 あの時、生意気な口をきかずに告白をしていたらと後悔が拭えない。どうして好きだと一言言えなかったのか。そのことを後悔している。しかし、そんなことを言いだしたらキリがない。

 

 旅の途中で告白するチャンスなどいくらでもあったのだ。それを棒に振ってしまったのはアタシである。それに他のメンバーもダンの事が好きだったから、その事で揉めたくはない。


 ターニャの言う通り、理想を下げた方が良いのだろうか……。アタシは王族でもあって、他の兄弟は結婚をしている。このままではアタシは色々と良くない事も分かっている。


 でも……



『おい、リンリン様だぞ』

『どうして、ここに』

『誰か行けよ』

『いや、無理だろ。王族で伝説の賢者だぞ』




 失礼だけど、ここら辺のは嫌よね……。我儘だけど王族とか賢者とかそう言うのじゃなくて、リンリンとして見て貰いたい……だけど、これは我儘なのかしら。やっぱりダンが基準になってしまう。


 食事をするくらいの気分で来たけど、そんな気も失せてしまった。ここにアタシが居てもざわつかせて迷惑かもしれないなと思って、帰ろうとかと椅子から腰を上げると、偶々視界に一人の男性が眼に入った。


 ツンツンヘアーのどこにでも居そうな青年だろうか。しかし、普通そうなのに一人だけ座って食事をすると言うアンバランスな態度。こういう人も居るのだろうかと興味を無くしかけたが、彼の食べている食事の選択に僅かに目を見開いた。


 バランスが凄くとれている……。というのもダンが良く言っていたのだ。食事の栄養バランスは物凄く大事であると。


 このことはあんまり他の人に話しても通じないが、ダンは自身の中で強さへの道筋を立てており、僅かに聞いたのだ。栄養バランス、胸肉はたんぱくしつ? とか豊富らしい。人間の体は殆ど水分で出来てるとか、てつぶん? とか色々。


 特にたんぱくしつ? は凄く重視してたようで必ず食事に取り入れていた。後は色々細かい事はあるけど、バランスがとれている食事って言うのはよく覚えている。


 ダンは外食の時でも食事に殆ど気を使っていた。彼の生活習慣はかなり特殊で冒険者の中で明らかにおかしかった。普通は好きな物を食って、欲を満たして明日に繋げる生き物だ。


 でも、ダンは更にその先を俺は見ているとかなんとか言っていた。なんだっけ? ほうしゅう、さきおくりのうりょく? よくわかんないけど遥か未来を常に見ているとか。


 だから、だろうか。アイツに物凄い違和感を感じる。


 ここに居るのは全員冒険者。食事を普通あんな風に選ぶ人は少ない。偶にいるがわざわざここまで来てそれをするだろうか?

 それに彼が選んだ選択はダンのそれによく似ている。あと、よくよく考えてみれば皆アタシに注目してざわついているのに、アイツだけ何食わぬ顔でよく噛んで食事を続けている。

 

 あの無駄に胆力のある感じ……ダンに似ているような……いや、まさかね。


 …………ちょっと、話してみようかしら? 母さんにも一応結婚に向けて頑張っていると言い訳したいし。




「ねぇ、相席していい?」

「あ、どうぞどう……ぞ……?」



 青年はアタシの顔を見ると固まってしまった。だが、すぐさまにこやかに笑顔を返してくれた。


「暇でさ。ちょっと話し相手になってよ」

「僕で良ければ」

「ありがと。アンタは名前なんて言うの? アタシはリンリン・フロンティアね」

「僕はバンです」

「そう、バンはどうしてここに?」

「あー、そろそろ母さんが結婚しろっていうか……」

「アタシと同じね……」

「へぇ、さんも同じなんですね」



 今、こいつアタシのことって言った? 普通略して呼んだりする人居ないんだけど、ダンとかサクラとか……。というかそもそもアタシと話すのに特に緊張とかしないのね……。


 大体の人は恐れたりするんだけど……。



「まぁね……。えっとバンは何歳なの?」

「18です」

「へぇ……」



 なるほど、年下ね……。一瞬だけダンかと思ったけどそんな訳ないか。ダンは30歳くらいだし、そもそもこんなに愛想良くないし。だけど、そこが好きだったわけだけど。



「若いわね。これから色々経験するといいわ」

「はい。アドバイスありがとうございます」

「あ、うん。凄い真面目なのね」



 ぺこりと一礼する彼を見て何というか生真面目な青年な印象が付いた。よくいる人みたいにぺこぺこする感じではない自然な感謝にちょっと嬉しさが沸いた。


「バンは冒険者ランクいくつなの?」

「僕はまだ駆け出しのFです」

「そう……。そう言えば最近は冒険者になるには試験が必要なんだっけ?」

「そうです。リンさんはよくご存じですね」

「まぁ、これくらいはね。バンはどんなスタイルで戦うの?」

「えっと……剣とか魔法とか……」

「あら、魔法が使えるのね」

「少しですけど」

「魔法が使えるだけで結構凄いんじゃない? 才能ない人は全く使えないし」

「どうもありがとうございます」

「あ、うん、なんか変な感じがするわね。ちょっと見せてくれたりする?」

「え? 魔法ですか?」

「そうそう」

「あー、第一階梯のミニミニ・ファイアなら」

「お願い」


 そう言うとバンは手の平に小さな炎を発動させた。正直に言えばアタシは第十二階梯魔法と同時に五つくらい使えるからこの程度に普通は驚きはしない。だけど、彼の使った魔法は妙に研ぎ澄まされている感じがした。


 だから、自然と口が開いた。


「やるじゃない」

「ありがとうございます」

「あ、うん」



 変な感じ……。



 色々と話が弾んだ気がした。暫く時間が経って、食事が終わると彼は立ち上がった。



「では、自分はこれで」

「帰るの?」

「えぇ、食事はしましたから」

「ふふ、なにそれ? 元々ここには食事でもしに来たの?」

「あー、いえ。えっと、まぁ、そんな所です」

「アンタが帰るならアタシも帰ろ」

「そうですか」



 別にこれ以上ここに居る理由もない。母さんには結婚活動の言い訳をするほど頑張ったわけだし。そして、外に出ると彼はまた一礼して去って行こうとした。


「ねぇ」


 どうしてか。アタシは彼を呼び止めてしまった。



「また、来る?」

「え?」

「だから、この交流会にまた来るのかなって」

「あー、そうですね……多分来るでしょうね。母親が結婚しろって五月蠅いから」

「ふふ、そう。だったらまた会いましょう」

「はい。いつかまた」



 一礼して彼は去って行った。不思議な人だった。


 初めて話したのに妙に惹かれる感じが……いけないいけない、アタシはダンの事が……。



 少しだけ、彼の背を見て胸が苦しくなった。



◆◆



 リンリンが王都の交流会会場からフロンティア城の自室に帰った後、妹であり第三王女のターニャが彼女に感想を聞いていた。

 

「姉さん、どうだった?」

「うんー? なにが?」

「だから、交流会」

「あー、あれね。暇つぶしにはなったわ。母さんに言い訳もしないといけないし、また行ってあげてもいいわよ」

「へぇ」


(意外と機嫌良さそう。物凄い不機嫌な顔で帰ってくると思ったのに……もしかして本当にダンさん来たのかな?)


「もしかして、ダンさん本当に来たの?」

「来てないわよ」

「あ、そう」


(これは……もしかして本当に運命に出会っちゃったのかな?)



◆◆



 あ、っぶねぇぇぇぇえ!!! リンが話しかけてくるじゃない!? バレたのかと思ったぁぁぁぁ!?


 いや、本当にビビったわ。なんとか普通に接することは出来たと思うが本当にビビった。


 しかし、バレたわけではないようで一安心だ。魔法を見せた時、大したもんだって言われたけど、そりゃそうだろ。リンが俺に魔法を教えてくれたんだからな。



 だが、もしかしなくても彼女は俺の正体を疑っているのかもしれない。最後にまた会えるのかと聞いてきた。あれはもしかして、俺が勇者ダンだと勘付いてまた見極めたいから聞いたのかもしれない。


 変に拒んだりすると余計に怪しいし……。それに婚活は続けないといけないし。


 万が一にもバレることはないと思うけど、そこだけ注意だな。だって元パーティーメンバーに散々俺様系やってきたのに実はフツメンとかは思われたくないわ。



 しかし、懐かしいな。リンには魔法を本当によく教えてもらった。色々迷惑をかけたけど……あの時、あのまま付き合えるんじゃないかって本気で思っていた。


 だが、そんなことを思い出してもしょうがない。しかし……魔法か……ウィルにもそろそろ教えてあげてもいいかもしれないな。取りあえず剣術と基礎体力をメインに修行していたけど、大分固まってきた。


 そうと決まれば帰りに魔法の教科書買って帰ろう。




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