【書籍化!】『君は勇者になれる』才能ない子にノリで言ったら、本当に勇者になり始めたので後方師匠面して全部分かっていた感出した

流石ユユシタ

第一章 引退候補

第1話 君は勇者になれる

 俺は転生をした。驚くことに元は現代社会で学生をしていたのだがトラックに轢かれて、気づいたら魔法のある中世ファンタジー世界で赤ん坊になっていたのだ。


 最初は凄く驚いた。しかし、それよりも喜びがあったのだ。所謂魔法、そう言ったファンタジーは男子なら誰もが憧れる。当然俺も凄く憧れた。転生した世界には勇者と言われる伝説の存在も居たので尚更気持ちが沸いた。



 これから素晴らしい異世界生活が待っているのだと思っていた。憧れに胸を打つような冒険が待っていると……



 しかし、現実は非情であった。まずは才能が無かった。剣の才能も魔法の才能も、しかも顔がフツメンであったのだ。



 才能が無いと周りから言われたがそれを真に受けずに頑張り続けた。必死に頑張り続けた。中々、芽が出ない毎日を繰り返した。



 そんな時だ、とあることが世界中で騒ぎとなった。それは魔王が復活をしたという知らせである。中世ファンタジーと言う事もあって、やはり魔王も存在していたのだ。


 勇者の誕生を世界は待ったのだ。魔王が絶望なら、勇者は希望。よくあるテンプレ的な善悪の二分性であるがそれも俺は好きであったし、もしかしたら俺が勇者かもしれないって期待をしていた。


 その頃から、俺は冒険者として活動を始めた。魔王軍との戦いに俺も身を投じたのだ。周りには顔が良い人が多く、肩身が狭かったので鉄仮面を被って冒険とかしながら頑張り続けた。


 

 必死に、必死に時代を駆け抜けた。一度でいいから何か一つを頑張ってみたかったのかもしれない。


 後はやっぱりファンタジーの勇者的なのになってみたい!!



 それ位しか頭に無かった。そして、数年が経って気付いたら勇者になっていた。勇者パーティーとか言われて、魔王も討伐した。英雄みたいな存在に俺はなったのだ。


 嬉しかった。人から感謝されるのは嫌いではなかったから。だけど、それだけではなかった。


 魔王がまた復活した。他にも魔王が現れた。いや、どんだけ魔王現れるんだよって思っていたけどしょうがないと思って倒しまくった。嘗ては手こずった魔王も作業ゲーのような感覚で倒すようになっていった。



 そして、30歳を超えても俺は勇者と呼ばれていた。



『流石勇者!!』

『勇者様!!』



 

 流石に……飽きた。そして疲れた。勇者はいつまで続くのだろうか。魔王は一体いつまで現れるのだろうか。


 勇者だけど、良いことばかりでもないし……。救えない命もあるけど、何でもかんでも俺のせいだ。



 一部の人間は言う、勇者なのだから、救え。勇者なのだから戦ってくれる……。面倒だし、普通の生活がしたいと思った。


 前世のサブスク見たりする日常が欲しくなった。いや、日常ではない。非日常が欲しくなったのだ。嘗ては憧れていたファンタジーが今では日常になってしまったのだから。



 勇者、辞めたい……。でも、そう簡単にも辞められないのだ。俺と言う存在が、勇者の肩書がある意味での平和の抑止力だからである。俺が辞めたら世界がどうなるのか、平和が脅かされてしまうと俺は知っている。


 周りからの視線もある。



 そう簡単にやめられない……。



 どうしたものか……その時、ハッとした!! 辞める方法があったのだ。俺に勝る新たなる勇者が存在すれば良いのである。



 育てよう……。新たなる勇者を……。



 新たな勇者は若い子が良い。大人は既に伸びしろが見えている奴が多いし、ピュアじゃないから勇者の面倒な側面も知っているかもしれないからだ。だから、摩れていない餓鬼が良い。



 

 俺に変わる抑止力を育てよう。




 そう思い立ったら俺は早かった。既に三十路であるが動きは未だに速い。まずは勇者の才能ある子に声をかけることにした。




 ◆◆

 


 ある程度、勇者の才を持つめぼしい子を発見した。大体六人くらい、取りあえず声をかけた。ここからどうなるのかは知らない。


 あんまり大きな数に声をかけ続けても問題だ。俺が引退しようとしてるとバレたらそれこそ一番の面倒だからである。



 さてさて、これからどうなるかなっと考えていたら、夕方にとある田舎の村で鉄仮面を被っている男の子を発見した。



「はっ、はっ、はっ」



 素振りをしている。それを見ていると嘗ての俺のように剣に冴えがないことが分かった。懐かしむように見ていると……



「あ!! え!? あ、あの、も、もしかして勇者様!?」

「だったらどうした?」



 素振りをしていた彼は俺に気が付いたようだった。すると彼は急いで俺の元に駆け寄ってきたのだ。



「あ、ああああああの! ぼ、ぼぼぼくは! あ、貴方にあ、憧れておりまして!!」

「そう言う奴は今まで何度も居たな」

「ですよね!! 貴方は世界で一番の英雄ですし」

「ふっ、確かに俺は世界で一番の英雄だな」

「う、うわぁぁあ!!! 噂通りの傲慢さ!! 本気で世界で一番自分が強いと思っているんだ!! すげぇぇ!!」



 前世では謙虚であったが、二度目の人生と言う事もあり同じ人生を歩んでも面白くない。だから、俺様系のキャラを演じている。


 俺の性格は誰もが知っているので眼の前のこの子も知っているようだ。



「あ、握手してもらっても?」

「一生洗えなくなるぞ」

「寧ろそれを自慢して生きていきます!」



 いや洗えよ。


「その、聞きたいことがあって……質問してもよろしいでしょうか?」

「いいだろう」

「ぼ、僕、貴方みたいになりたくて……ずっと、頑張ってきたんですけど……でも、周りは皆、僕なんかじゃ……英雄には、なれないって……」



 あー、何言いたいのか大体わかった。俺みたいになれるかって聞きたいのか? 



「ぼ、僕でも勇者に英雄に……なれる、でしょうか?」

「お前次第だ。俺には知ったこっちゃない」

「で、ですよね……」

「ただ、俺もお前みたいに弱かった時期があった。まだ若いなら諦める必要もないだろう」



 こいつ、俺に似ている。そうだ、こいつを後継者として育てよう。才能あんまりないけど、七枠目の後継者候補として……。既に声をかけた六人は相当の実力者だし、才能あるけど一人くらい昔の俺みたいなのが居てもいいだろう。


 こいつ、ピュアで騙しやすそうだし。あとは競馬と同じ理論だ。大穴狙いの投資。一人だけこういうのが居ても問題ない。



「実はここ最近、俺はお前を見ていた。毎日訓練をしているお前をな」

「え!? ぼ、僕をですか!?」


 嘘だ。さっき見つけた。ただ、手の豆が血豆になっている、手の皮もそれなりに厚そうだから素振りは毎日しているんだろうという事は容易に想像できる。


「随分と若いくせに気合が入っていたからな。丁度いい。俺は……後継者を探していたんだ」

「こ、後継者……? な、なんのですか?」

「そんなもの、勇者に決まっている」

「ゆ、ゆゆゆゆゆ勇者!? の後継者!?」

「声が大きい、誰かに聞かれたらどうする」

「す、すいません、で、でもどうして? 歴代勇者の中でもっとも強くて、最強って言われている貴方が……」

「確かに俺は自他共に認める最強だ。だがな、

「そ、そんな……ど、どうして!?」

「俺は魔王との戦いで、呪いをかけられたんだ」

「――ッ!?」



 一から十まで全部嘘である。ぴんぴんしとるわ。体は未だに若いし、滞ることなく動く。しかし、強いて言うならおしっこのキレが悪い。残尿と本尿の割合が、以前より残尿の方が多くなっているくらいである。



「そ、そうか、呪詛王ですね! 別次元から現れた魔王の! 確か息すら大樹を枯らすって言う……とんでもない魔王!!」



 あ、確かそんなのも居たな……。ワンパンだったけど……。うんまぁ、そう言う事にしておこう。それにしても鉄仮面を被っていると顔が見えないからさ、変顔したくなるんだよね。


 こう、シリアスな時ほど……。あと、小顔効果の体操とかもしたくなる、特に意味は無いけど。シリアスは落ち着かないのだ。


 しかし、顔は小顔体操をしてても声音は真剣である。だって、俺の後を押し付ける存在を見つけなければならないのだから。シチュエーションは大事。



「その通りだ。よく分かったな」

「ほ、褒められた!! 勇者様に!! 僕もう死んでもいいです!」

「お前には生きてもらわなきゃ困る。言ったはずだ。後継者を探しているとな」

「……ま、まさか、僕ですか? ボ、僕に?」

「それはお前次第……」

「ぼ、僕が……勇者に……」




 わなわなしているな。だが、気持ちはわかる。俺も昔はそんな風にワクワクしたりしていたからな。


 

「あくまで可能性の話だ。なれるかはお前次第……だが、俺は可能性を感じた」

「ぼ、僕に、可能性を……」

「俺の勘が外れた事はない。気合入れて走ってみろ」



 結構外れる事あるけど、まぁ気にしなくていいだろ。眼の前の子はすごくやる気になっているし……


「うぅぅぅ、ぼ、僕にぃ、そんなこと言ってくれるなんてぇ……あの勇者様がぁぁぁ」



 泣いてしまったよ。どんだけ、俺のこと好きなんだ……。しかしながら、お前以外にも六人くらいに同じような事言ってるんだけど……。



 だけど、これくらいの方が良いのか。馬券を買う時も、大穴に一点投資するよりも何個かに投資した方がいいもんな。




「あ、あの! ぼ、僕、頑張ります!!」




 どうやら、勇者後継者を気に入ってくれたようだ。頑張ってくれ、名前も知らないけど…‥。



 こうして、勇者の後継者を見つける戦いが始まった。




◆◆


 


 僕の名前はウィル。どこにでも居るような普通の平民だ。普通にどこにでもあるような村で育って、普通に暮らしている。


 周りからも普通って言われるし、親からも普通と言われている。確かに普通であるという事に異論はない。


 特別な何かにはなれない。人からずっと見下されているからその生き方が染みついてしまった。




「僕なんて、どうせ」



 そんな言葉が口癖であった。村の中には僕とは比べ物にならないほどの魔法の才能を持つ者が居た。僕より強い人、才能ある人が村にはいて、自身の至らなさに毎日打ちのめされた。



「お前は才能ないから、剣振っても意味ないだろ」

「鍬を持って畑耕す方が賢明だと思うよ」

「ダイヤみたいにはなれないから、諦めた方が良い」



 真実が心に刺さる。無理だと分かっている。でも、僕にも夢があるのだ。普通とは程遠い大きな夢がある。


 それはとある英雄になりたい、近づきたいというモノだ。……勇者ダン。数多の魔王を倒した歴代最高の勇者。


 数多の英雄譚、過去の伝説には沢山の勇者や英雄が存在している。彼等は魔の王を退けたり、倒したり崇高な偉業を成し遂げて来た。


 だが、勇者ダンは格が違うのだ。一体倒せば新たな伝説と言われる魔王を何体も討伐して、国を世界を救った英雄という枠組みの中でも最上位に間違いなくダンは居るのだ。


 憧れるな、という方が無理なのだ。同じ時代に生きてしまった以上、彼にはどうしても憧れてしまう。



 そんな存在が今、眼の前にいた。噂通りに鉄仮面を被っている。彼は誰にも素顔を見せないらしい!! 嘗て魔王を一緒に討伐した仲間ですら見たことがないって聞いている。


 だから、顔が分からない。もしかしたら、僕みたいに憧れで鉄仮面をしているだけかもしれない。しかし、僕には分かったのだ。




 空気感が他とは違う。纏っている覇気、発する言葉の重み、それらすべてが今までの人生では体験したことのない驚異的なフィードバックとして脳裏に焼き付く感覚。



 自然と息を飲んだ。



 

 色々聞きたいことがあった。でも、眼の前にするとテンションが上がってしまって何を言っているのかが分からない状態になってしまった。




「あ、ああああああの! ぼ、ぼぼぼくは! あ、貴方にあ、憧れておりまして!!」

「そう言う奴は今まで何度も居たな」

「ですよね!! 貴方は世界で一番の英雄ですし」

「ふっ、確かに俺は世界で一番の英雄だな」

「う、うわぁぁあ!!! 噂通りの傲慢さ!! 本気で世界で一番自分が強いを思っているだ!! すげぇぇ!!」



 

 英雄譚に載っている通りだ……!! 傲慢、圧倒的自信に裏付けされた実績と実力。



「あ、握手してもらっても?」

「一生洗えなくなるぞ」

「寧ろそれを自慢して生きていきます!」



 どどどどど、どうしよう。本当に洗えなくなりそう。洗えなくても別にいいけど。そうだ! 聞きたいことがあったんだ。


「その、聞きたいことがあって……質問してもよろしいでしょうか?」

「いいだろう」

「ぼ、僕、貴方みたいになりたくて……ずっと、頑張ってきたんですけど……でも、周りは皆、僕なんかじゃ……英雄には、なれないって……」


 


  村では僕が一番弱い。でも、この人に頑張れ、そんな言葉だけで良いから欲しかったのだ。



「お前次第だ。俺には知ったこっちゃない」


 その通りだった。彼に知る訳が無い。そして、こんな田舎の村の才能もない僕がどうして彼みたいになれるのだろうか。


 落ち込みかけたが……



「ただ、俺もお前みたいに弱かった時期があった。まだ若いなら諦める必要もないだろう」



 ちょっとだけ、希望が湧いた。言葉にこれほど説得力を、希望を持たせられるのはカリスマ性があるからだろうか。



 そして、勇者ダンは語りだす。自身の後継者が欲しいと。



 呪いが徐々に自身を蝕んでいると……。確かに聞いたことがあった、彼が倒した魔王の中に途轍もない呪を操る者が居たと、息だけで大樹を枯らし、片手で国を亡ぼす運命を辿る呪いをかける絶望の化身であったと。



 だから、彼は後継者を探している。彼は抑止力としての役割も担っていると聞いたことがある。魔王はこの空の先、様々な星にも居るらしい。しかしながら、勇者ダンと言う存在が居るからこそ、下手に攻めてこれないとか……。



 たかが伝説、そう言われているが……もしかしたら本当なのかもしれない。彼の、勇者の真剣な表情……いや、鉄仮面で見えないがきっと真剣そうな顔に違いない、声音も鋭い。


 

 きっとそうに違いない。



 でも、まさか僕に……後継者をしろだなんて……。信じられない。本当に? この僕に彼のように? 出来るのだろうか。



「あくまで可能性の話だ。なれるかはお前次第……だが、俺は可能性を感じた」



 なれるかは僕次第。でも、無理ではない、そう言われて嬉しい。思わず、泣いてしまった。鉄仮面を僕も被っているから泣き顔は見えないと思うけど、声で丸わかりだ。


 僕は彼に、憧れに期待をされた。後を託したいと言われた。


「あ、あの! ぼ、僕、頑張ります!!」



 気付いたら、そう言っていた、僕は勇者になる。そう、思ってこの日から走り出すことを決めた。







――――――――――

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