絶対になります! 立派な聖女と聖騎士にっ ~聖女に選ばれた私が聖騎士に選んだのはケモノで魔族の男の子です!冒険の中で絆を深めながら巡礼の旅に出ます~

狐狸 猫犬

第一章 見習い聖女と見習い聖騎士

第1話 出会い

 ここは王都ロークテルから少し離れた小高い丘の上にあるシルフォニア孤児院の玄関。そこで院長のエレオスと金色の髪に青い瞳を携えた少女が話をしていた。


 少女の名はアイリス。今年15歳を迎えた孤児院の最年長だ。ちょうどエレオスからのお使いを頼まれていた所だった。


「それじゃあ、アイリス。今度開かれるバザーの出店場所の確保をお願いしてきてくれるかな」


「いつもお世話になっている王都の雑貨屋さんでいいんですよね」


「ああ、よろしく頼むよ」


 アイリスは笑顔で返事をする。そしてエレオスと一緒に見送りをしてくれている年少の子らに向かって元気よく話しかけた。


「みんなは院長先生の言うことをちゃんと聞いて、バザーの用意をしておいてね。私との約束よ?」


 子供たちも元気に返事をしてくれた。それを見たアイリスは安心して孤児院を後にするのだった。


 王都までやってくるといつにも増して活気で溢れていた。理由は先日、先代の聖女様から次代の聖女が誕生するという話がアルカディアの大陸中に流れたからだ。


 今はそれを祝うためのお祭りが各地で開かれていた。孤児院が出店するバザーもそのお祭りの行事の一つだ。アイリスはいつも孤児院が贔屓にしている雑貨屋を訪ねるとバザーの際に店の前のスペースを貸してほしいというエレオス院長のお使いを早々に済ませた。


「院長先生に宜しく伝えてくれよ、アイリスちゃん」


「はい、ありがとうございます」


 アイリスは雑貨屋を後にして大通りに出る。お使いが終わったらすぐ孤児院に帰り、子供達と一緒にバザーで出す品物を作ることになっているからだ。すると歩き出したアイリスの目に、小さな女の子の姿が映る。

 どうやら迷子のようで今にも泣きそうな顔をして通りの隅で右往左往していた。それをアイリスが無視できるはずはなく、すぐにかけよって笑顔で声をかけた。


「ねえ、どうしたの?」

「おい、どうしたんだ?」


 その時声が重なった。

 そう、女の子に声をかけたのはアイリスだけではなかったのだ。


 アイリスが声の主の方をみると全身をローブで覆った者が隣に立っていた。声からして自分と同じくらいの年だろうか。それにローブの下から綺麗な青色の毛並みの尻尾が見えており、頭の部分にも二か所突起した所があることから相手は魔族の狼族か獅子族だろうという推測が出来た。


 だが、アイリスは驚くことはなかった。

 

 何故なら魔族であっても冒険者ギルドに登録し、旅券を発行されている者なら誰でも人間領と魔族領の往来が出来るからだ。現に今も通りを見渡せば通行しているヒトの中には魔族も多くいる。


「ふえ……」


 同時に声をかけられた女の子は、どちらの声に反応すればいいのか悩んでしまったのか不安そうに涙を浮かべていた。それに気づいたアイリスは明るい笑顔で対応する。


「ごめんね。お姉ちゃんもお兄ちゃんもあなたが心配だったから声をかけたの」


「本当?」


 そうよね、という素振りでローブの少年に合図を送る。意図が理解できたようでこちらも落ち着いた声で対応してくれた。


「ああ、そうだ」


 二人の対応に安心したのか、少女は母親とはぐれて迷子になってしまったことを教えてくれた。その場の成り行きだったが、アイリスとそのローブの少年は二人で女の子の母親を探すことになった。


 右にアイリス、女の子を挟んで左にローブの少年が共に小さい手をとって歩く。


「お兄ちゃんのおてて、すっごいふわふわだね」


「ま、まあそうだな」


 ローブを深くかぶっていて顔は見えなかったが、少し照れている様子をみてアイリスがふふっと笑うと相手がそれに気づく。


「今笑っただろ?」


「きのせいよ」


 アイリスは笑顔でごまかした。さらにバツが悪くなったようで相手はフードをさらに深くかぶる仕草をする。


 それからしばらく大通りを歩いていると女の子の母親を見つけることが出来た。名前を呼ばれると駆けだして母親の胸に飛びつく。母親もお礼を言って、女の子と手を繋いで歩いていった。


「お母さん、見つかってよかったね」


「そうだな」


 そう言うとローブの少年は足早に大通りから路地の方に歩いていく。それに気づいてアイリスは後を追う。まだ言っていないことがあるからだ。


「あの、一緒に探してくれてありがとう!」


 アイリスのその言葉を聞いてローブの少年が立ち止まり、こちらを振り向いた。同時に大通りから路地に向かって風が勢いよく通り抜けていく。

 すると深めにかぶっていたフードがふわっと後ろに押されその下から尻尾と同じ青い毛並み、独特の顔立ち、そして琥珀色の瞳をした狼族の少年の顔がはっきりと見えたのだった。


「困ってる奴を助けるのは当たり前だろ」


 フードをかぶり直すと少年はそのまま路地の奥に消えていった。アイリスはその綺麗な瞳にくぎ付けになっていたこともあって、少年の名前を聞くのを忘れていた。


 はっと我に返り、誰もいない路地の方をみつめる。


「名前、聞いておけばよかったな」


 だが、また会えるかもしれないと切り替えてアイリスは孤児院へと戻るために大通りへと戻っていくのだった。

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