三題噺「昔話、リボン、チョコレート」

 髪を纏めたリボンを揺らして戦場を駆け抜け、チョコレートを齧りながら魔法を打ち放つ。

 私が視線を向けるだけで空間が爆ぜ、敵が恐怖で怯む中を突っ切っていく。

 敵将はもう視認距離。ここまで詰めたならもう逃がしはしない。


「ば、ばけも―――」


 化け物と、私を呼びきる事も出来ずに爆散して肉片と化す敵将。

 それを見た兵士達は最早戦意を無くし、武器すら捨てて逃げ惑う者もいる始末だ。


「一人も逃がすな!」

「「「「「「おおおおおおおお!」」」」」」


 逃げた兵は野盗になりかねない。捕虜にして抱きかかえる気も無い。

 ならば全て殲滅して皆殺しだ。私の指示に従い兵士達がが追撃に入る。

 後は彼らの仕事。私の仕事はこれで終わり。あとは下がって報告待ちだ。


 とはいえいつも通り、殲滅完了の報告が上がるだけだろうけど。

 兵士達の進行とは逆の方へと足を向け、陣に戻って天幕に入る。

 中では私の帰還を待っていた副隊長が、コーヒーを入れている所だった。


 リボンをほどいて髪を下し、小さく息を吐いて椅子に座る。


「お疲れさまです、隊長」

「ん、おつかれ副隊長ー・・・お代わり頂戴」

「どうぞ」

「ありがとー」


 お代わりのチョコレートと、出来立てのコーヒーも受け取る。

 チョコを齧ってコーヒーを流し込み、苦みと甘みにほっと息を吐く。

 戦闘そのものは簡単な物だったけれど、戦場を走り抜けるのは普通に疲れた。


「これで戦争は終わりますな。すべて隊長の功績です。本当に恐ろしい方です。あなた一人で戦況を変えてしまうなど・・・昔話やおとぎ話の劇でも見ている気分でしたよ。貴女が味方でなければと思うとぞっとします。貴女が軍に居る限り我が国は安泰ですね」

「え、私戦争終わったら軍抜けるけど」

「・・・はい?」


 副隊長が目を見開き首を傾げている。どうしたんだろうか。


「聞こえなかった? 戦争終わったら軍抜けるよ」

「いや、聞こえてましたよ! 何故ですか!?」

「え、だってもう十分稼いだし。あとは引き籠って生活するよ」

「嘘でしょう!?」


 嘘なんて何一つ吐いていないんだけどな。本当にこの後軍止めて引き籠るし。


「貴女は国の英雄ですよ!? 褒賞で貴族の地位が確約される程の活躍をしたんですよ!? 其の貴女が群を抜けるなんて、国が許す訳が無いでしょう!」

「知らないよそんな事。許してくれなかったらどこかに逃げるし」

「いや、それは・・・!」


 この戦争が終わるまでは戦う。っていうのが元々約束していた期間だ。

 ならそれ以上戦う気は無い。褒賞の額は先に聞いてるし、あれなら一生引き籠れる。

 後は自分の好きなように気ままに生きて、のんべんだらりと過ごすだけだ。


「ほ、本気ですか・・・」

「本気ー。という訳で隊長頑張ってね?」

「無茶言わないでくださいよ! 貴女がいなくなったら解体されるだけに決まってるじゃないですか! この部隊は貴女の為だけに出来た特殊部隊なんですから!」

「あー、そういえばそうだっけ」


 叫んでいる彼は『副隊長』という役職だけど、実質は私の世話係だっけ。

 となると私が軍を止めた場合、副隊長は突然無職になるかもしれないのか。

 けど副隊長だってそれなりの報酬や褒賞が待っているのでは?


「副隊長も軍辞めても問題ないでしょ?」

「問題しかないですよ!? というか貴女を引き留められなかったとか言われて裁かれかねないんですが! お願いですから考え直してくれませんか!?」

「そういわれてもなぁー。面倒くさいしなぁー。軍のお偉いさんたち面倒くさいしー」


 私が戦場から帰る度に、何かとネチネチ絡んでくる。

 調子に乗るなとか、小娘風情がとか、面倒くさい事この上ない。

 これでやっとアレと顔を合わせないで済むと思うと、私は気分爽快でしかない。


「お願いです! 見捨てないでくださいよぅ!」

「んー・・・まあ副隊長にはお世話になったしなぁ・・・」

「そう思っているなら考え直してください!」


 戦争の間副隊長は私の身の周りのお世話をしてくれて、とても快適だったと思う。

 食事も洗濯も掃除も何もかも、ぜーんぶ副隊長に任せていた。


「あ、良い事考えた」

「な、何でしょう・・・」

「結婚しよう。解決」

「・・・はい?」

「これで誰も副隊長に手を出せない。やったね」


 流石に英雄の伴侶を処分とかしないでしょ。副隊長がいれば私も生活がしやすい。

 お互いにいいことづくめだね。うん、我ながら中々の名案だと思う。


「・・・隊長。私は男っぽかもしれませんが、正真正銘女なんですけど」

「知ってるよ?」

「うちの国同棲婚は認められてません」

「あー、じゃあやっぱり国外に逃げる?」

「あああああもうヤダこの人おおおおお! 何でこんなに自由なのおおおお!?」


 あ、副隊長が壊れた。流石にちょっと雑過ぎただろうか。

 でも一番いい案だと思ったんだけどなぁ・・・。


「よし、同性婚認めさせよう」

「貴女本当に人の話聞きませんね!?」

「任せて、大丈夫大丈夫」

「心配しかありませんが!?」








 その後褒賞で叙爵される分を、同性婚を認めさえる事に使った。なんか上手く行った。


「ね? 大丈夫だったでしょ?」

「・・・納得いかない。と言うか私の結婚が勝手に決まった・・・」


 あ、副隊長の目が死んでる。とはいえここまで来たらもう変更できないけど。

 チョコレートを齧りながら彼女を見上げ、誓いの言葉を告げてしまった。

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