三題噺「ビー玉・絶叫・名前」

 僕はビー玉達に名前を付けている。何故なら僕のビー玉は動くんだ。

 動いて喋るビー玉達を呼ぶのに、名前が無いと不便だろう?

 なので僕が直々に名前を付けてあげたのに、最近ビー玉達が不満を口にする。


 お前の名づけはダサいだの、古いだの、つまらないだのと。

 怒りに震えた僕は思わずビー玉を投げ捨て、ビー玉の絶叫が響く。

 崖に消えて行く叫びを聞きながら、思わず僕は叫んだ。


「思い知ったか! 名付け親に逆らうからこうなるんだ!」


 絶叫すら聞こえなくなったビー玉にそう叫ぶと、残ったビー玉達が震えあがった。

 どうやら僕に逆らう気が無くなったらしい。それで良いんだ。よしよし。


 僕は大人しくなったビー玉を抱え、何時も通りビー玉で遊ぶ。

 と言ってもビー玉に出来る事なんて限られている。だってビー玉だもの。

 弾いて遊ぶぐらいしか出来る事は無くて、偶には何か別の遊びがしたい。


 そこでふとビー玉の耐久テストをしたくなり、全力でコンクリートに投げつけてみた。

 するとビー玉は絶叫を上げて砕け散り、その声に胸がすく思いだ。

 僕は段々ビー玉の絶叫を聞きたくなり、ビー玉が叫ぶ事を進んでやる様になった。


「ふふっ、今度はどんな叫びが聞こえるかなぁ」


 ビー玉の絶叫もビー玉によって違う。甲高い時も有れば野太い時もある。

 時折絶叫じゃなくて呻く時もあるけれど、それはそれで楽しかった。

 けれどある日ビー玉達が反乱を起こし、僕の事を押さえつけたんだ。


「放せ! 放せよ! なんだよ僕に逆らうなよ! 僕は叫びを聞きたいだけなのに!」


 ビー玉達は僕を縛り付けると裁判所に連れて行き、有無を言わさず有罪判決を下した。

 こんな馬鹿な。こんな事があって良い筈がない。僕は何も悪い事はしていない。

 ただビー玉の叫びを聞く為にビー玉を壊していただけじゃないか。それの何が悪いんだ。


 けれどビー玉達は叫ぶ僕を見て怒鳴り出し、僕を殺すべきだと言い始める。

 僕は何も解らなくなってしまった。何故僕はこんなに責められるのだろう。

 ビー玉を壊す事はそんなに悪い事なのだろうか。所詮ビー玉じゃないか。


「今度から気を付けるよ。ビー玉を大事にする。弾く程度で済ませるよ。それなら良いだろ?」


 けれど僕も大人だ。譲歩をしよう。今度から扱いは気を付けよう。

 そう思いビー玉達に告げると、皆叫びを声上げ始めた。

 怒号と言うのが相応しい、怒りに染まった叫びを。ああでも、これも楽しいかもしれない。


 どうやら僕は許して貰えないらしい。ビー玉を粗末に扱った程度で死刑だそうだ。

 余りに罪が重すぎると思う。そう口にする度に、ビー玉達は僕を怒鳴りつける。

 お前に反省は無いのかと。お前なんて人間じゃないと。ああ、そうか、そうなのか。


 僕もビー玉だったのかもしれない。なら大事にされないのは当然だ。

 そうか、だから僕は割られるのか。次は僕の晩か。なんだ、ただそれだけの事か。


「次は僕が割られて、叫びをあげる。楽しみにしてると良いよ」


 そう告げると、ビー玉達は相変わらず、僕に怒りの叫びをあげた。

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