三題噺「脅迫・柔軟剤・教会」

「死にたくなければ金を出せ! 逆らえば撃つぞ!」


 突然銃を持った男が押し入り、私に銃を付きつけ脅迫した。

 その事で周囲に居た人達はパニックになり、叫びながら逃げ惑う者も。

 中には腰を抜かして立てなくなった人も居て、ずりずりと後ずさっている。


「あ、あの、貴方、場所を間違えていませんか?」

「うるせえ! 余計な事を言うな! これに金を詰めろ!」


 男は私の言い分を聞かず、鞄を押し付けて叫んだ。

 そう言われても困る。こんな鞄に詰める様な金はここに無い。

 この男は一体何を考えているのか、意味が解らず困惑して立ち尽してしまう。


「てめえ、聞いてんのか! くそっ、コイツを人質にする! この婆が死んでも良いのか! コイツの頭が穴をあけたスイカみたいになるのが嫌なら、早く金を詰めろ!!」

「ひぃぃ・・・」


 逃げ遅れたお婆さんが男に掴まり、こめかみに銃を突きつけられる。

 お婆さんは恐ろしさの余りか、買い物袋に入っていた柔軟剤を男にぶつけようとした。

 恐らく持っている者の中で一番大きく、ダメージを与えられると思ったのだろう。

 恐怖で震えた様子でありながら、頭の中は大分クレバーなご老人だ。


「ぐはっ!? こ、この婆ぁ、何しやがる・・・!」

「っ!」


 男の鼻に柔軟剤が直撃し、目を瞑って鼻を抑えた。

 ここしかないと思った私は駆け出し、男の手を捻って銃を落とさせる。

 落ちた銃を全力で蹴って男を押し倒すと、まだ逃げていなかった人たちも押さえてくれた。


「く、くそ、放せ、放せよ!!」


 男は最初こそ暴れていたが、その内暴れても無駄だと悟り静かになった。

 そして今度はすすり泣きを始め、俺だってやりたくなかったなどと言い出す。

 金が無かった。働き口も無かった。どうにもならなかったのだと。


 それでも強盗という手段に出て、人に銃を突きつけ脅す行為は許されない。

 叱るべき所で裁きを受け、罪を償って下さいと告げ、彼を警察に引き渡した。


「・・・悪かったな、騒がせて・・・婆さんの一撃、重かったよ・・・あの一撃を胸に抱いて、ちゃんと罪を償って来るよ・・・」


 いや、お婆さんは単純に殴っただけで・・・確かにアレは痛そうだったけれども。

 本人が納得しているならもう良いかと、彼がパトカーに乗るのを見送った。

 だがどうしても未だに一つ疑問が残るが。


「なぜ銀行ではなく、教会に強盗を・・・」


 聞いてもまともな返答が帰って来るとは思えず、もう私は忘れる事にした。

 世の中理解出来ない人は沢山居るものだ。あ、お婆さん柔軟剤忘れてる。

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