第2話新人歓迎会

ここは九州の田舎の町役場。4月、総務課に新卒の新人が配属された。

戸川達也。福岡教育大学法学部卒の男の子である。

戸川は緊張していた。

朝の朝礼で、総務課課長の前園高志が紹介した。

「おはようございます。さて、4月が始まりましたので、新人を紹介します。さっ、挨拶して」

戸川は前園課長にうながされて、

「今日からお世話になります。戸川達也です。一生懸命頑張りますので宜しくお願いします」

周りから拍手が起きた。

「山内君。君が戸川君の指導をしなさい」

「はい」

山内祐介は新卒5年目でまだ主事である。

担当は、町営住宅の家賃管理や苦情の対応と消防団の連携であった。


主任の水原さやかが係長の堀健一朗に耳打ちした。

「今夜の歓迎会は町長も参加するらしいですよ」

「あっ、知ってる。ただ、顔見せ程度らしい。全課の歓迎会に顔見せするんだって。あのハゲが」

2人はクスクス笑っていると、山内と同期の竹田咲が近付いてきた。

「水原先輩、何をクスクスしてるんですか?」

「え、今夜の歓迎会の話しだよ」

「何が面白いんですか?」

「係長が町長の事をハゲって言うから」

「アハハハ。ハゲオブザハゲですからね」

「君たち、真面目に仕事しないとまた、隣の福祉課の連中から総務課は遊んでるって言われるよ!」

水原は、

「あっ、ずる~い。元は係長の言葉じゃないですか!」

「ま、今日は勘弁してやろう」

「何を勘弁なんですか?」

「……」

係長はパソコンとにらめっこしている。


昼休み時間、喫煙所で前園と堀はタバコを吸っていた。今夜は、戸川の歓迎会。

「課長、夫婦寿司の後はカラオケです」

「えぇ~、カラオケ~?」

「カラオケ屋の酒は不味いんだよ」

「ビールでいいじゃないですか!」

「あのハゲまたくるんでしょ?」

「はい。あのエロハゲが」

役場職員は休み時間しか喫煙できないので、喫煙者はニコチンを昼休みにチャージするのだ。

「あっ、堀君。例の件はどうなった?」

「まだ、掴めてないです」

おおやけになる前に、手を打たねば」

「はい」

2人は腕時計を見ると席に向かった。


キーンコーンカーンコーン


業務終了のチャイムが鳴った。

総務課6人は一次会の夫婦寿司へ向かった。

座席室で堀係長が歓迎会を指揮した。

「では、前園課長に乾杯の音頭を」

「えー、小さな町役場ですが大きな心で町民の味方になって下さい、戸川君。では、かんぱ~い」


かんぱ~い


「戸川君、足を崩しなさい。何も遠慮するな」

「係長、ウワサで聞いたのですが、総務課は皆さん姶良あいら高校出身なんですか?」

「そうだよ。大学はバラバラでも、高校は一緒なんだ。だから、変な学閥があってね。ま、公正に試験を受けて合格しなきゃ職員にはなれないけど。僕は熊本大学で課長は鹿児島大学。君は?」

「福岡教育大学です」

「そうか、水原は高卒でうちに来たぞ」

「そうなんですね」

みんな、ビールをがばがば飲んで焼酎タイムに突入した。

山内は顔が真っ赤になっている。

前園は新婚の水原と共に竹田の恋愛話に華を咲かせている。


寿司屋が静かになった。他の課も一次会はここを選んだ所が多い。

ヤツが来た。

そう、山根大造町長が!


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