異世界転生したくない!【男1不問1 計2】

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をお守りくださいますようお願い申し上げます!

●コメディ

●所要時間10分程度

●配役(男1不問1計2)


【男】(男)

30歳→最後に7歳ですが、年齢相応の演技はしなくてもいいかも。


【神】(性別不問)

転生の神。


====================


男:

……ここは、どこだ?

さっきまで歩いてた道端だよな。けど、ついさっきまで賑わってたのに、人っ子ひとりいない……

どうなってるんだ……たしか……

そうだ! 俺はさっき事故ったはず!

トラックに突っ込まれたんだよ! ていうかそのトラックもない! ここはどこだ!


神:

転生者よ。


男:

うお! びっくりした! て、え? 誰だ?


神:

私は神です。


男:

神? 何の神? てか神(笑)


神:

なかなかにイラッとしますね。


男:

で、ここはどこ? あなたはだあれ?


神:

だから神だってば。正確に言うなら転生の神です。


男:

転生の神?


神:

あなたは不幸にも、先ほどの事故で亡くなられました。

よって、転生の審議のために、神である私が参上したのです。


男:

えー、死んじゃったのかよ俺……


神:

これから、転生の審議に入ります。


男:

転生の審議って何よ。


神:

現在、この地球、とりわけ日本においては、空前の転生ブームとなっているのです。


男:

転生にブームとかあんの。てか転生ってあるのかー。

ちょっと興味はあったんだよな。人は死んだらどうなるのか!


神:

とりあえず聞きなさい。


男:

へいへーい。


神:

えー、世界、特にあなたの国、日本を中心に、とにかく亡くなった方が、転生を望まれる傾向にありまして。

それも異世界に。


男:

あー、あれか。知ってる。

だいたい俺みたいに事故でとか、自殺とか、変化球で異世界からの干渉によって死んだヤツとかが、異世界転生しちまうっていうフィクションな。


神:

えらく詳しいですね。


男:

あれマンガや小説だけの話じゃなかったのか。


神:

で、ですね。

一部の死者だけが、異世界に転生してサクセスな人生を送るのは不公平だ、という話になりまして。


男:

どこからそんな話が。


神:

人々の心の声というか願いがね、神には届くのですよ。

そりゃあもう膨大な「異世界転生してぇー」という心の声が。

膨大すぎて、あまりにうるさく、一部の神が転属希望を出そうとする勢いでして。

なので、ついさっき転生の神同士の話し合いで決まりましてね。

これからは、ひとつの魂につき一度だけ、転生先の希望をかなえてあげましょうと。


男:

はあ。


神:

というわけで、あなたの担当は私になりましたので、転生先の希望を聞いて差し上げましょう。


男:

はあ。


神:

どういった世界を希望しますか? 大体の環境は取り揃えてますよ?

自然豊かな原始的な世界、ゴシック調の魔法世界、戦乱がお好きであれば、年がら年中いくさが勃発している世界でも。


男:

やだ。


神:

え?


男:

いらん、そんな人生。


神:

えー?


男:

異世界転生ってアレじゃん?

やり直し人生でハーレム満喫したり、前世で持ってたスキル生かして、割とそれが発達してない世界に都合よく生まれて、チートな人生送ったりしてるヤツじゃん?


神:

ホントに詳しいですね。


男:

めんどくさい、そんなの。

結局、俺みたいなごくごく平凡な人間が転生したところで、よっぽどの意識改革がなきゃサクセスストーリーになんてならないじゃん。


神:

ですが、特典として、希望者は前世の記憶を保持できますから、イチからスタートよりは有利な人生を送れますよ?


男:

それな! 強くてニューゲーム!

けどさ、例えば俺、享年三十歳!

子供のころから三十年分の記憶があれば、そりゃあ少しは、足を踏み外さずに生きられるだろうよ。

三十歳まではな?

けど、三十歳超えたらもう手探りじゃん。

んでもって、それまであった過去の経験がその先は無いわけだから、今まで楽した分、かえって不安じゃねえ?


神:

めんどくさいの担当になっちゃったなぁ……。


男:

なあなあ、俺、東京に転生したいんだけど。


神:

東京? これまで暮らしていたこの場所、ですか?


男:

そ、ここ。希望先にないわけ? 日本の東京。


神:

もちろん可能ではありますが……本当によろしいのですか?

希望をうかがうのは一度きり、二度はありませんよ?


男:

異世界とかマジめんどくさい! 住み慣れた場所が一番なんだって!


神:

なるほど。


男:

頼むわ! わざわざ波乱万丈とか、文明遅れてる場所とか生まれたくねえわ!


神:

まあ、そうですね。わかりました。それが希望であるならば、そういたしましょう。

それでは、前世の記憶もなくてよろしいですか?


男:

あ、それは欲しい。


神:

あれぇ? 先ほど、経験がどうとか演説ぶってませんでした?


男:

いや単純に興味あるじゃん。

前世の記憶とか、一度は持ってみたいじゃーん。

住み慣れた場所ならさ、過去の記憶、通り過ぎたあとも何とかなりそうな気がするし!


神:

はあ……そうですか。まあ、希望は聞き入れましょう。

では、記憶の覚醒はいつがよろしいですか?


男:

と、いうと?


神:

生まれた時から前世の記憶を持たれますか?

それとも、ある程度年齢がいってから?


男:

あー、そういうことなら、えーっと、遅すぎるのもアレだから、七歳くらいがいいかな。

三十歳の記憶を持った赤ん坊時代とか、地獄でしかねえわ。

おしめ取り替えられたりしたら、その場で死にたくなる。


神:

性別はどうされます?


男:

おとこ!


神:

即答ですね。


男:

俺、結婚できなかったもん。嫁さん欲しいもん。

この記憶持ったまま、彼氏とか旦那とかマジでいらん。


神:

なるほど、聞き届けましょう。


男:

おう!


神:

では、転生先は三次元、地球世界の日本、東京。性別は男性。記憶保持。

これで、転生手続きに入ります。


男:

頼んだ!


神:

皆さんの希望をうかがうようになりましたので、転生作業が立て込みますから、実際転生させるまでには少々お時間をいただきます。

が、まあ問題はないでしょう。

その間はあなたの魂は眠った状態ですから、待ち時間など無いに等しいので。


男:

なるほどな!

そっかそっか、転生かぁ~。

十年とか経ってたらあれかな、スマホなんてもう古くなってたりしてな~。

あー七歳が待ち遠しいぜ!


神:

では、一度あなたの魂は眠りにつきます。良い転生ライフを。


男:

おー! おやすみーぃ!


●間


男:

そうして俺は、転生した。

七歳まで普通に生きた俺は、唐突に前世の記憶をよみがえらせる。


七年という長くはないこれまでの人生と、前世の記憶と、そして転生の神とのやりとり、それらが頭の中で渦を巻いて混乱し、つい膝をついて固く目を閉じてしまう。

しばらくしてから、そっと目を開けて、あたりを見回した。


……


え、これ、詐欺じゃね……?

えぇぇ?

あ、あんの神様やろう、どうなってんだ!

ここ、全然東京じゃねえじゃん!


神:

おや、転生者。七歳を迎えましたね。


男:

あーー! お前! だましたな!

東京に転生させてくれるって言ったじゃねーか!

俺はこれまで、いや今まさにだけどな!

こんな、電気もない、まともな交通手段もない、森と草っぱらと土づくりの家しかないような田舎で、自給自足で働いてるぞ!


神:

おつかれさまです。


男:

じゃ、ねーよ!

これまでは記憶がなかったから、これが当たり前だと思ってたけどな。

なんでこんな文明未開化な国で、子供のころから汗水たらして働いてなきゃならねーんだよ!

結局、異世界に転生してんじゃねーか!


神:

いいえ? ここは東京ですよ?


男:

はぁ?


神:

東京です。


男:

んなわけあるか! 名前も番地もないような村だぞここ!


神:

あなたの転生までには、少々お時間がかかると言いましたよね?

あなたとお話をしてから転生するまでに、およそ五百年ほど経過しておりまして。


男:

ぜんぜん少々のお時間じゃねーわ!

いや、それにしたってこれはねーだろ。

よくわかんねーけど、五百年でこんなまっさら、何もなくなっちまうか?

逆にもっと進化してて良くねえ? 大規模な戦争でもあったのかよ。


神:

いえ、なんと申しますか。

実はですね、すべての魂の希望をきいていたところ、まあ大体の方が異世界への転生を希望されまして。

結果、日本への転生希望がほとんど無く、つまり人が生まれなくなってしまったので、日本の人口は右肩下がり、文明を維持するのが難しいレベルにまでなってしまいまして。


男:

はああ?


神:

一度、割と本格的に滅びましたね。

それに日本ほどではありませんが、三次元地球は不人気でして、全体的に人口減少の一途をたどっています。

みなさんよほど、「ここでないどこか」での暮らしに憧れているのですねぇ。


男:

そんな……ばかな……


神:

あなたは現在まだ子供ですから、今暮らしている場所のほかは知らないでしょうが、一応、文明の痕跡くらいは、わずかに残っているところもありますよ?


男:

いや、いや……東京だったら、一番痕跡残ってそうだろ!


神:

五百年もあれば、人工物なんてもろいものですよ?

多くは申し上げませんが、その間、天災も、人災もありましたしねぇ……

それに、一口に東京と申しましても、色々ですから……ちなみにこの場所は……


男:

あああああ、みなまで言うなあああ!


神:

おかげさまで、異世界のほうはあちこち大人気でしてね。

前世の記憶を持っていらっしゃる方もたくさんおりますから……どこでしたっけ、とある国では、前世のありとあらゆるスキルチートがインフレ状態でして。

そりゃあもう様々な分野が発達、皆さんスマホでゲームしながら電子決済、もっと技術が進んで転送ゲートで小旅行なんてのも楽しんでます。


男:

なんっじゃそりゃああああ!


神:

最近、マグニ・トーキョーなんて改名された都市もありますね。


男:

そっちに行きてえ! そっちに転生させてくれ!


神:

それは無理です。ひとつの魂の希望を聞き入れるのは一度のみですから。


男:

そんなあぁぁ……


神:

まあ、すべての魂の希望を聞き終えるまでは、数万年程度です。

その間にも、今度は希望なしに何度も転生する者はいるわけですから、一巡するのを待たずに、この国にも人はまたぼちぼち生まれて来るでしょう。


男:

俺の人生、砂粒にも満たねえ長さだよ……

いやむしろ、逆に五百年で転生したのが早すぎたよ……


神:

さて、転生後に私と会話できるのも一度きりです。これにて永遠のお別れとなりますね。


男:

あ、こら待て!


神:

それでは、良い転生ライフを!


男:

待てって、待ってぇぇーーーーーー!

こんなことなら、記憶のオプションなんかつけるんじゃなかったあぁ!



END

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