台本置き場【声劇、ボイスドラマ等】

弥生るっか

ファザコン息子と普通の親父【男2 計2】

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をお守りくださいますようお願い申し上げます!

●コメディ

●所要時間10分程度

●配役(男性2)


息子(男)

一見普通そうだがファザコン。

結婚も視野に入れるか、あるいは早くしてほしい程度のお年頃。


親父(男)

息子を大事に育ててきた父親。

別段イケオジでもない、普通の親父。



―― ここより本編 ――


息子

なーなー、オヤジー。


親父

(寝ている)……んー……


息子

おーやーじー! 起きろよー!


親父

んー、あと、一時間……


息子

せっかくの休みなのに、昼すぎまで寝てちゃ、もったいねーだろ!

おーきーろー!


親父

せっかくの休みだから……寝てたい……


息子

ほら、外はいい天気だぜ!

絶好のお出かけ日和だぜ!

さっさと起きて、遊びに行こうぜー!


親父

ふぁ~あ……あー、遊びにって、どこに。


息子

ショッピングモールとかさー。

今、新しい映画もはじまってるじゃん。


親父

めんどくせぇ。


息子

だったら近所の公園でもいいよ!

キャッチボールとか竹とんぼとかやろうぜ!


親父

なんでオッサンと成人男子の親子が公園で遊んでるんだよ。

絵面えづらひでーぞ。


息子

んなことねーよ。

素敵な親子の光景じゃねーか。


親父

お前ももう、イイ年した社会人なんだから、他に遊び相手いるだろ。

会社の人とか友達とかさ。


息子

今日はみんなつかまらねーんだよ。

つうか今日はオヤジと遊ぶ日なんだよ!

なーなー!


親父

なんだよオヤジと遊ぶ日って……

はぁーあ……

まゆみ……お前を亡くしてはや二十年。

男手ひとつで、こいつが寂しくないようにと、仕事も子育てもめっちゃ頑張ってきたが……

大事に育てすぎたかなぁ、なんだか不思議な感性の息子に育っちまったよ……ごめんなぁ。


息子

なんで謝ってんだよ。

収入も安定、親孝行もする立派な息子に育ったじゃねーか。


親父

自分で言うな。

しっかしなぁ、オヤジオヤジで、彼女のひとりも連れてこねーんだもんなぁ。

俺は早く孫の顔が見たいよ……


息子

……あー……


親父

なんだよ。


息子

あー……それなんだけどさ……


親父

ホントに何だよ、え、まさか。


息子

彼女、いるんだよ。結婚も考えてる。


親父

なんだってぇぇ!

この息子にそんな女性が! 奇跡か!?


息子

実はその、これからさ、来る予定なんだよ。

オヤジに挨拶しに。


親父

なんだよお前、そういうことは当日に言うなよ!

何も準備してねーぞ!


息子

オヤジはありのままでいいんだよ。


親父

よくねーわ。

いや待て、てかお前、さっき、遊びに行こうって言ったよな?

オヤジと遊ぶ日とか言ってたよな?


息子

あーうん、彼女来るの忘れてたわ。


親父

忘れちゃだめだろー、だめだろぉー。

つーか、彼女できたとか、そういうことはもっと早く言っとけよー。

急に結婚まで話が進んで挨拶に来られたら、オヤジは動揺しちまうからさあ。


息子

んー、いや、隠すつもりはなかったんだけどさ、ただ……


親父

ただ、なんだよ。


息子

オヤジに会わせて、取り合いになったらいやかなーって、ちょっと不安になっちまってさ、言うのが遅くなっちまった。


親父

取り合いってなんだよ。

オヤジ、息子の嫁に手なんか出さね―よ。

これでもまだまだ、まゆみ一筋なんだからな!?


息子

いやそうじゃなくて、オヤジと彼女で、俺を。


親父

取り合わね―わ。

お前を取りにはいかねーわ。むしろ大歓迎で婿に出すわ。


息子

婿に出すなよ、彼女を嫁にもらうんだよ。


親父

もうどっちでもいいよ、お前、ぜったいその彼女を大事にしろよ!

この先、休日に父親と遊びたがる男と結婚してくれるような女性は現れねーぞ!


息子

父親を大事にする息子の何が悪い。


親父

言葉にすると何も悪くないように感じる不思議。


息子

てか、詳しいことも聞かずに大歓迎なのな。

色々心配じゃねーの? 結婚詐欺かもしれないとかさ。


親父

自分の彼女に、なんて言い草だ。

……だがまあ、たとえはともかく、一理あるな。

息子に嫁と聞いてつい浮かれちまったが、人となりくらいは気にするべきだった、うん。

あー、いまさらだが、どんな子なんだ?


息子

うん、ギャンブル中毒でもないし、高額ブランドでクレジット上限超えることもない、黒い商売にも手を出してない普通の子だよ。


親父

聞いてない聞いてない。もっと他に情報あるだろ。


息子

彼女とは、大学が一緒だったんだよ。

で、今の職場で偶然再会してさ。

色々話すうちに、付き合いが始まって……って感じかな。


親父

おお、なんかいかにも普通な馴れ初めだな。


息子

ハハ、そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。


親父

いやそれほど心配もしてねーし。


息子

(※なんかいい話風に)

……オヤジもさ、絶対気に入ると思う。

彼女、実は少し……オヤジに似てるんだ。


親父

えぇー……オヤジに似てる彼女ー……

息子じゃなくて娘の婿とかで聞きたいセリフだそれー……


息子

おおらかなとことか、それでいて案外器用なとことかさ。


親父

あ、ああ、そっち! そういうこと!

それはいいな!


息子

でも一番似てるのは、顔かな。


親父

一番似てちゃだめなとこー!

てか彼女かわいそう!


息子

失礼だな! それに顔で判断しちゃだめだろ!


親父

まずお前が顔で判断しただろそれ!


息子

顔のつくりだけじゃなくてさ。

ふとした時に見せる表情とか、ちょっとした仕草とか、焼酎はお湯割りが好きなとことかさ。


親父

可愛い彼女の像が、どんどんオヤジに変化していく……


息子

そうだ、せっかくだからさ、彼女が来たら、公園に行こうぜ!


親父

なんでお前はそんなに公園が好きなの。


息子

子供の頃に日が暮れるまでオヤジと遊んだ、思い出の場所じゃね―か。


親父

オヤジとの思い出を求める日じゃねぇと思うよ。


息子

ずっと練習してた、オヤジの顔のキャラ弁作るからさ、公園の芝生にシート敷いて、そこで食おうぜ!


親父

結婚の挨拶に来て、芝生でオヤジの顔のキャラ弁食わされる彼女の気持ちを考えてやれ。


息子

彼女じゃなくてオヤジが食うんだよ!


親父

彼女に食わせる弁当を作れ!


息子

せっかくこの日のために、何ヶ月も、寝る間も惜しんで研究開発したのに……


親父

たまに遅くまで台所にいたの、それかよぉ……


息子

夏は蛍の光、冬は白雪を窓辺に積み上げて頑張ったんだ!


親父

明かりはあるぞ? 電気代は払ってるぞ?


息子

それもこれも、オヤジのために!


親父

今日は彼女のためを思う日だろぉ?


息子

俺の人生の主人公は、オヤジだ!


親父

自分か彼女にしとけよー。

てか、理想形としては、オヤジは息子よりずっと早く死ぬんだぞ。

そうしたら主人公不在になるじゃねーか。


息子

ああ、そうさ……俺はそれを受け入れてなお、生き続けなければならない……

絶望に駆られて後を追うなんてこと、オヤジは望んじゃいないから。


親父

ほんと、やめてね。


息子

あまたの物語にも語られる、主人公の世代交代……

俺は悲しみを乗り越えて、オヤジの遺志を受け継ぐ。

そして次世代の主人公として、キラキラと輝く光に包まれた、オヤジの面影を胸にいだき、余生を生きていかなければならないだろう!


親父

余生でやっと主人公かよ。


息子

つむぎ、積み重ねてきた愛を、少しずつすり減らしながら、それでも想いは永遠であれと……


親父

気持ち悪いわぁ……


息子

俺の人生設計を気持ち悪いって言うな!


親父

人生設計じゃなくて妄想だよ。

まあ、ファンタジー世界とかならアリっちゃアリかもしれんが?


息子

生まれる世界を、間違えたというのか、俺とオヤジは……


親父

俺を息子サーガに巻き込むな。


息子

息子サーガ! かっこいいな!

けどオヤジサーガのほうがもっとかっこいいな!


親父

心から辞退する。

まあそれは置いといてだ、とにかく準備しないとだろ。

彼女、いつごろ来るんだ?


息子

あれ? そういえば、そろそろ来ててもおかしくないはずなんだよな。


親父

あっぶねーな、ホントに予告なく対面するところだったよ。


息子

まさか、忘れてるんじゃないだろうなー?


親父

お前が言うな。


息子

あ、スマホに連絡きてる。

なんだよー、……、……え……


親父

え?


息子

えぇー!?


親父

どうしたよ。


息子

彼女が……結婚は……やめましょうって……


親父

はぁ!?


息子

というか、別れましょうって……


親父

なんでだ!?

お前、何かしでかしたんじゃないのか!?

いやもう今さらかもしれないが!


息子

そんなはずないだろ!


親父

無いはずないだろ!


息子

彼女はすごく心が広いんだ! オヤジに似て!


親父

それはもういい!


息子

オヤジが腰痛で苦しんでた日に、約束ドタキャンした時だって!

彼女からプレゼントされたハンカチ、オヤジが好きそうだからオヤジにあげたって言った時だって!

彼女は笑って許してくれたんだ!


親父

あの素敵なハンカチ、彼女からのプレゼントかよぉ……


息子

オヤジがこの先動けなくなっても、介護はシモの世話もふくめて全部俺がやるから、お前は一切手出ししなくていいって言ったときも、笑って「そうね」って言ってくれた!


親父

きっもち悪いわぁ……


息子

二度目!


親父

それ絶対、色々降り積もってるだろ……


息子

そんなことない!

昨日だって、結婚生活のこととか、色々話してたんだ!

まさか、それで……いや、そんなはずない。

彼女が嫌になるような話なんてしてない。


親父

不安しかねーが、何を話したんだよ。


息子

家事は苦手だけど、料理はちょっと手伝えるから一緒に頑張ろうなとか。


親父

おう……


息子

子供ができたら、オヤジの名前から一文字もらおうなとか。


親父

お、おぉう……


息子

浮気はだめだけど、オヤジにならお前を寝取られてもいいとか!


親父

そーれーだーよー!


息子

どこがだよ!


親父

どこじゃねーよ、絶対決定打だよ!

俺が嫁でも嫌だわそんな結婚生活!


息子

残念だけど、オヤジは俺の嫁さんにはなれねーよ。


親父

ならねーよ!

……あーあ……

せっっかく……こんな息子でも嫁に来てくれる奇特な娘さんがいたってーのに……


息子

まあ、気を落とすなよ。


親父

お前の話だよ!


息子

だめになっちまったもんは仕方がねーよ。

これからもふたりで仲良くやっていこうな!


親父

もうこりゃあ、結婚相談所の世話にでもなるしかねーかぁ……


息子

はあ!?

なんだよオヤジ、再婚する気か!?

寂しくねーだろ、俺がいる!


親父

俺じゃなくてお前の話だってばよ!


息子

そんなのどうでもいいからさ、せっかくこのあとフリーになったんだし、キャラ弁作るから公園行こうぜ!


親父

どうでもいいって言ったよ……


息子

オヤジの目尻のシワも、でっけーホクロも完璧に再現してやるからな!

あー、楽しみだぜぇー!


親父

これは一生、だめかぁ……

 

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