"ルクレシア〝  最弱冒険者が盗賊にジョブチェンジ 救国の英雄になるようです

ユライアス

第1話 さよならパーティ

今、仲間が殺された

目の前で仲間の首から血が飛び出ている


どこからともなく突然現れた少女は仲間を見て、

喉元に刃を刺した

その仲間の名前はバラン

俺のパーティーのリーダー


バランは血飛沫をあげて地面に倒れ込む

目を見開き、助けを求めているのか手を伸ばしている


俺の体のはずなのに動かない

恐ろしい この場から逃げ出したい


さっきまで元気に話していたバランはもう話すことはない


俺を含めて仲間はわかりやすく動揺している


バランの彼女でもあり、同じパーティのメンバーでもあるルミは腰を抜かしてガタガタと震えている


俺も少女が心底恐ろしい


俺とバラン、ルミ、ジョンの4人でずっと冒険してきた

バランはもういない

こんなにあっけなく死んでしまうのか……


3人で戦えばなんとか生き残れるかもしれない

ジョンとルミに視線を送るが怯えきっていて戦えそうではなかった


少女はルミの方へ歩き出す

顔には返り血がべっとりとついている


その顔が無表情なのがなによりも怖い

恨みや愉悦といった表情ではなく殺しが作業であるかのような顔だ


ルミは腰が抜けているので立ち上がろうにもあがれない


少女はゆっくりと足をすすめる

ルミは過呼吸ぎになりながらも手を使ってなんとか逃げようとしている


俺はただ呆然と立ち尽くしている


「はぁ……はぁ……くんな……」


「コツン」

すこしずつルミに近づいていく


「はぁはぁ」


「コツン……コツン」


周りは静かだった

足音とルミの息遣いがよく聞こえる


こんなことが実際に起きているなんて信じたくない

夢であってほしい


「コツン……コツン」


涙を流しているルミに追いついた少女


ルミが狙われて安堵していることに気がついた

自分ではなくて良かったとそう思っている

俺はどうしようもないやつだ


「じゃあね」

彼女はそういってルミの頬に手を当てる

その手は涙に濡れる


バランの血で赤くなった剣を振り上げてルミに刺そうとする


ルミは目を閉じて顔を背ける










時を遡ること数時間

4人の冒険者はクエストを受けるためにギルドに集まっていた


「おはよー」

バランは気の抜けた声でピンクの髪をしたルミに挨拶をする

体は筋骨隆々としていていかにも強そうな見た目をしている


女は髪をかきあげながらバランに笑顔を向ける

「おはよ」


この2人は同じパーティのメンバーで、しかも恋愛関係にある

命懸けで戦いながら徐々に好きになっていったらしい


「おはよ……」


「チッ」


俺が挨拶をすると舌打ちが返ってくる

バランの機嫌が悪いときはパンチで返事される


理不尽だとは思うが今に始まったことではないので驚きはない


パーティは俺を含めて4人

俺とリーダーのバランとその彼女のルミ、そしてジョン


ルミは腹や脚が露出した銀色の鎧を装備している

俊敏さを武器に戦う

「今日はどのクエストにする?」


バランは冒険者歴15年のベテランだ

「そうだな……ゴブリンの頭蓋骨10個の納品にしよう」


「めんどくさそう……」

ジョンは気だるそうに言う

年齢は25で俺より11歳も年上だ

無気力、無関心な男


俺は普段はなにも話さない

話したら何をされるか分からないから


俺は14歳で身長は160cmほど

白髪の髪は目にかかるほど伸びている

短刀を使ってはいるが戦闘能力はほとんどない



俺の腕で冒険者をできているのは奇跡に近い

こんな俺を入れてくれるのはこのパーティぐらいだと思う

まぁそのかわり虐げられることにはなるけど



バランはルミを抱き寄せる

「ルミ……いい匂いがするなぁ

じゃあさっそくクエストに行こう」

バランは周りに見せつけるように口づけをして店から出る

ジョンはやれやれといった様子だ


行き先はダンジョンと呼ばれる古代遺跡










ダンジョンに潜り、ゴブリンを掃討した

あたりには死臭が満ちている

いつもどおり俺は役に立てなかった


指を咥えて見ているだけというのはなかなか心にくるものがある


俺は1人で頭蓋骨を回収している

頭蓋骨を集めて何に使うのだろうか

部屋に飾るにしては悪趣味だしな……


生々しいゴブリンの死肉が散らばっている

三人は体を休めながら談笑している


ルミはピンクの髪を触りながらこっちへ来る

こういうときはろくでもないことが起きる

「あたしさ ゴブリンの血がどんな味か興味あるんだよね だから飲んで」


バランは楽しそうに笑い声をあげる

「ははは いいねぇ早くしろよ 役立たず」


はぁ……予感的中したよ

いやだなぁ


すぐに飲まないのが気に入らないのかルミが貧乏ゆすりを始めた

「はやく舐め ゆっくり味いながら 絶対に吐き出すなよ」


ゴブリンの体に流れる血が舌に触れる

まだ温かい


悔しい


「はは……涙目になってる もっとやれ」

俺の顔を見てルミは嬉しそうに笑う


「ガハッ オェ」

体がゴブリンの血を拒絶している


「イル こっちにこい」


「バシッ」

平手打ちされた

別に痛いわけじゃない

「はは……私も イルってほんといい音なるよね

ザコだから戦えないもんね

それじゃ冒険者じゃなくて楽器だ」


昔からずっと冒険者に憧れていた

こんな目に遭うだけなら安いものだ


ルミとバランのすぐ後ろに見知らぬ少女がいる

肩まで伸びた金髪で瞳の色は青い


少女といっても俺よりずっと大人びているように見える


俺の驚く顔を見てかバランも後ろを振り返る


「なっ……なんなんだおめぇ……」

バランが狼狽えながら少女に詰め寄る


少女はバランに足をかけて胸を押して転ばせる


「このクソガキ!!ぶっ殺してやる

こんなところで1人でいちゃ危ないんだぜ??

あの世で反省すんだな」

バランは無様な姿で少女にキレる


「あぁ〜あ かわいそうに バランは子供でも容赦ないから」


俺がバランにそんなことを言われたら震え上がるが少女は口を大きく開けてあくびをしている


次の瞬間……何かが起こった

そう確実に何かが起こった


少し時間が経ってようやく何が起きたか飲み込めた


彼女がバランを殺害した

それも平然と


まるで冒険者が魔物を狩る時のように



バランを殺されて過呼吸になるルミ

彼氏の命を奪ったんだ……無理はない


バランはずっと俺を虐げてきた


俺は何度も何度も頭の中で彼を殺していた

だが……実際に死んでいる姿は想像とかけ離れていた

なんというかすごくリアルで気持ち悪い


充満している血の匂いが濃くなる




ふと頭によぎる……バラン無しとなれば

パーティーは解散するかもしれない

そうなれば俺はどこへいけばいいんだろう



そんなことを思いながらも視線は少女のところへと

戻っていた




少女はゆっくりとルミの瞳を覗く




_________________________________________



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