公園のおじさん
青木一人
公園のおじさん
出張で地元の近くに行ったため、用事を済ませて思い出の残る公園に寄ることにした。
「懐かしいな」
日が暮れるまで城を作ろうと躍起になった砂場、2人乗りをしたブランコ。そして、受験に落ちた時に泣き腫らしたベンチ。次々と思い出が甦ってくる。ちなみにこのベンチにはフルートを演奏しているナイスガイの銅像が設置されている。
公園に足を踏み入れると同時に俺は驚愕した。
「ん? ……道、間違えたかな?遊具が、一つもないんだけど」
そこにはブランコも、ジャングルジムも、砂場さえ無かった。さながら狭いサッカーグラウンドのように芝生が生えており、見るも無残な姿に変わり果ててしまっている。一説によると、公園の遊具で死亡事故が発生したそうで、その影響を受けたらしい。
「こんな田舎にまで手がまわるのか……いや、こんな田舎だからか?」
これ以上暗いことに目を向けたくはなかったので、ベンチに座ってスマホをいじることにした。
ひやりとした感触と共に、尻に水たまりができてしまった。どうやら雨が降ったらしい。
その時、一人の子供が公園めがけて走ってきた。5歳くらいだろうか? 彼は「イヤッホホーイ!」と叫んでいる。後ろにいる母親らしき人は、少し心配そうな様子で彼を見ている。
「あっ」
彼は、芝生に足を滑らせたらしく、勢いよく尻餅をついた。俺は大人として彼の元に駆け寄り、
「大丈夫か?」と声をかける。
すると母親らしき人が「すみません!」と叫ぶ。母親は俺を見るなり「……って、勇気くん?」と問いかけてきた。
「ああ。そうだ」
「やっぱ変わってないね、中学の時と」
「そうか?」
そうだよ、と彼女は笑う。
「お前もしかして中村?」
「それ旧姓ね。今は伊藤」
中村は中学の時俺が好きだった人だったが、決心がつかず告白は出来なかった。高校も離れ離れになったため、連絡は今まで取っていなかった。
「結婚したんだな、おめでとう」
「あれ、言ってなかった? 私、慎太郎くんと」
「……そっか」
慎太郎は俺の幼馴染で一生の友情を誓いあったが、些細なことがきっかけで連絡を取らなくなった。
「わたし、中学の頃は勇気くんのこと好きで、でも結局は慎太郎くんと結婚しちゃったけどさ。
もし勇気くんに告ってたらどうなったんだろうなって、今でも思うよ。
……ねえ、勇気くんは、私のこと好きだった?」
俺は泣きたい気持ちをグッと堪えて言葉を紡いだ。
「今更知らねーよ。でも、そう思うことが、ないわけじゃない」
子供の時はよく転んで泣き、その度に周りに励まされてきた。子供に駆け寄る伊藤を見て、それが続いていけばいいと強く思う。
「人を傷つけるのに、なんで撤去されてねーんだよ」
俺はフルートおじさんにそう問いかけた。
時計は、午後3時半を指していた。
公園のおじさん 青木一人 @Aoki-Kazuhito
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