声優と旅するRPG-ブレイブ・ボイス・ファンタジア−
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
第1話 システムボイスな彼女
「ブレイブ・ボイス・ファンタジアだったかな。えーと……これか」
目の下にクマを作った寝不足の友人から勧められたゲームの名前だ。
一人用ロールプレイングゲーム。昔は好きなジャンルだった。最近は長時間一つのゲームに熱中することができなくなった。自然と足が遠のいていた。
あいつが寝不足になるほどハマるなら俺も久しぶりやってみよう。
そうなったわけだが。
「ダウンロード開始して……割と容量食うなこれ。ゲーム映像とか昔懐かしのドット絵なのに。仕方ないからレビューでも見るか」
平均星四つ半とかなり高い。個別で見ても安定しており、星一と五が入り乱れているのに平均が異様に高いなどという不自然さもない。
レビュー数も多いので割と参考にはなりそうだ。
【ゲーム自体は程よくやり込み要素があって良作。シナリオは笑える。とにかくヒロインが頑張っているので是非やってほしい】
【レベ上げにハマり過ぎて後半ヌルゲー。俺がレベルカンストまで上げたせいだけどな。けどこのゲームでレベルをカンストまで上げない奴はいない】
【キャラボイスなしのフルボイスゲームという怪作】
【メタヒロインに萌えるゲーム】
【音ゲーならぬ声ゲー】
【ミュート厳禁。やる場所を選ぶからそこだけは減点】
【ここまで突き抜けた脳筋シナリオは初めて】
【クリアしたときの満足感がいい】
概ね高評価。
特に一番多いレビューがこれだ。
【ネタバレ厳禁】
【冒頭ですぐにわかるからネタバレは書くな】
【とにかくやれ。そして沼に落ちようぜ】
レビューを読んでも謎は深まるばかり。
容量が大きい原因がボイスなのはわかったが。
「一体どういうゲームなんだこれ? キャラ外メタヒロインって。おっとインストール完了した。早速始めるか」
ミュート厳禁と書かれていたので音は出している。
けれど起動してもオープニングは流れない。
アニメーションなどもない。
ただゲームロゴとスタートメニューが表示されただけ。本当にレトロが売りなのかもしれない。
つづきからのデータはないので、はじめからを選択する。
「注意書きが出てきたな。えーと『このゲームは必ず音量を上げてからプレイしてください』……面倒だな。こういうのは煙たがれるはずなのにレビューの評価が高いのは謎」
映し出されるのドット絵の街のマップ。
主人公がベッドから起きるシーンから始まるあたり、王道ロールプレイングゲームの流れは踏襲しているらしい。
演出に懐かしささえ覚えていると、ついにゲームから声が聞こえてきた。
『勇者さん始めまして! 私は声優養成所に通っている花乃いろはです。この度はゲームパーソナリティ兼システムボイスをやっております』
「はぁっ?」
『あっ! ボイスは飛ばさないでくださいね。今から世界観の説明や旅の目的など重要なことを話します。字幕は出ません。一応メニュー画面から一度聞いた私のボイスは思い出し再生できます。途中からの再生もできます。でもこのまま一気に聞く方が早いですよ。チュートリアルを飛ばす。そのせいで何人ものゲーマーが【なにをすればいいのかわからない】迷宮に陥ったか。そんな悲劇を繰り返してはなりません』
「……飛ばす気はないけど。これがメタヒロイン……本当にメタだ」
『まず世界観から。この世界【サウンディア】は光の神々【ミューズ】達の歌に祝福され、音に満ち溢れた世界でした。けれど邪神【ディソナンス】と音楽性の違いにより対立します』
「バンドか!」
『長い戦いの果てに【ミューズ】達は封印されてしまいました。世界から失われる音。音には歌や声も含まれます。人々は言語という情報伝達手段も奪われて衰退の一途。世界は滅びに瀕しています』
「なぜ音楽性の違いでそんな大惨事に……」
『勇者は異世界の【ミューズ】の声を聞ける唯一の存在です。異世界の【ミューズ】とは恥ずかしながら私――花乃いろはのことです。プレイヤーは私の声に導かれた勇者として冒険の旅に出ます。旅の目的は封印された三柱の【ミューズ】を開放し、世界に音を取り戻すこと。そして邪神【ディソナンス】を倒すことです』
「なるほど。ただメタいだけじゃなく、ちゃんと設定に組み込まれているわけね」
『声も奪われているわけですから街人や村人とも会話できません。つまり冒険のヒントが皆無です。「声がダメなら文字があるじゃないか」と思われる方もいるでしょう。けれどこの世界【サウンディア】の創造神曰く「中世ヨーロッパの識字率の低さを舐めるな」「プレイヤーは異世界文字の読み書きできるの?」などの発言もあり、文通させる気はなさそうです』
「不便すぎるだろう。仕事しろよ創造神」
『ちなみに商店などはボディランゲージの達人である筋骨隆々のポージングマスター達が営んでおります。装備の買い物などは可能です』
「筋骨隆々のポージングマスター……ってボディービルダーじゃねーか! 確かに声以外で意思疎通が取れそうなイメージあるけど!」
『さて説明はここまでにして冒険の始まりです。好きに無音の街中を歩き回るのもいいですが、メニュー画面から【異世界ラジオ】を選択すると私が喋ってます。冒険のヒントや次行くところなどの指示もラジオで流しているのでぜひ聞いてください。以上、説明終わりです!』
「徹頭徹尾そういうゲームなわけね」
『さてお約束……コホン――選ばれし勇者よ。起きてください』
「本当にお約束だな」
『勇者よ。私の声が聞こえますね。世界を救ってください』
「勇者が目を覚ました。……って二度寝するの!?」
『いい加減に起きなさい勇者! 今起きれば一階であなたのお母さんが謎の創作ダンスを踊っています。それを目撃すれば口止め料として旅の資金が手に入ります! だから起きるのです!』
「お約束どこ行った!? さすがに勇者が跳び起きたけど。おかんからの口止め料で旅に出るのかよこいつ」
画面上で勇者がベッドから降りる。
ようやく操作できるようになった。
部屋のデザインはシンプルだ。タンス。衣装棚。勇者が寝ていたベッド。それに花の飾られたベッドサイドテーブル。
一応定番なのでタンスを調べる。
すると花乃いろはの声が流れた。
『自室は調べることが可能ですが、他の家のタンスを物色するのは普通に犯罪です。システム上認められていません。このゲームではダンジョンの宝箱と報酬の宝箱以外は開けることはできません。街中で壺を割るなどの器物破損も認められていません』
「メタいのか現実的なのか……」
念の為に衣装棚やサイドテーブルを調べたが『衣装棚』『藍色の花が飾られている』と花乃いろはの声が流れただけ。
やはりアイテムなどは入手できないらしい。
階段を降りて、おかんの謎の創作ダンスを目撃するしかないようだ。
これが俺の『ブレイブ・ボイス・ファンタジア』との出会い。
花乃いろはを知るきっかけだった。
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