第29話
二学期の中間テストも終わった。テストの出来は、あいかわらず。
お話にでてくるアンドロイドはインターネットにつながったり、人間にはできないことができたりするものだ。
でも、わたしは、良くも悪くも人間と同じ。勉強をすればできるようになるけど、すこしすると忘れてしまう。社会が苦手なのはそのせいだ。中学に入ってずっとテストの点が悪いと、やっぱり社会が苦手だと認めざるを得ない。
目や耳がいいとか、飛べるとか、力が強いとか、足が速いとか、なにかあってもよさそうに思う。でも、いまのところそんな片鱗をみせたことがない。せっかくアンドロイドなのに凡人というのは、面白くない。不幸だといっていいのではないか。
夕食のあと、お父さんもお母さんもバラバラに自分のやりたいことをはじめる。お母さんは、たいていダイニングで電子書籍リーダーに向かう。お父さんは、書斎らしき部屋にいってしまう。たぶんパソコンをいじっている。わたしも、自分の部屋にもどって、勉強したり本を読んだりする。
今日はどうしたことか、お父さんはダイニングのイスに腰かけたまま伸びをしたりして、ダラダラしている。ちょっと気になることを聞いてみようかという気になった。
「お父さん、お母さん。わたし、勉強しても成績あがらないのだけど」
「成績なんて気にするな。焦らずに勉強をつづけることが大切なんだ」
「ううん、そうじゃなくて。アンドロイドなんだし、一回見たものとか覚えたものをずっと覚えていてもおかしくないんじゃない?力だってむしろ弱いくらいだし」
「人間と言うのはそういうものだ。なんでも覚えていたら頭の中がゴチャゴチャして何も考えられなくなるんじゃないか。忘れたいことだって、生きていたら出てくるものだ。それを忘れられないってのは、不幸だぞ。
力だって、人間を超えた力をだそうとしたら電池を食うだろ。早く疲れてベッドで寝ないといけなくなる」
それが面白くないのだ。なにか人間を超えた力が欲しいと思ってしまう。
「わたしとお父さんが一緒に研究していたころはね、日本がちょっとおかしくなっていたころなの。政治家が戦争をしたがったり、国民を抑圧したり。
わたしたちの研究が軍事利用されたら嫌だと思った。美結が戦争に出かけて人を殺すなんてことになったら、わたしもお父さんも生きてゆけない。だから、人間と同じがよかったの。ううん。人間と同じでなくてはいけなかったのね。
美結が人間に劣るわけではない。それは確かに、勉強がよくできる人間だっているし、足が速いとか力があるとか、人それぞれ得意なことがあったりするのだけれど、努力もしないで能力を身につけれられるわけじゃない。アンドロイドだってだけで人より優れた能力がほしいなんて思うのは間違いだと、わたしは思う。
普通のアンドロイドは得意不得意の違いが絶望的にちがう。チェスを指すのが得意なのがあれば、クイズに答えるのが得意なのがあったり、介護ができるものがあれば、戦争で人を殺すのも、残念ながらある。でも、得意なこと以外は全然ダメ。
美結はそうじゃない。人間と同じ、なんでもできる。勉強すればわかるし、走ったり、飛んだり、会話ももちろんできる。わたしとお父さんが望んだことは、そういうことなの。なんでも普通かもしれないけど、たまにはドジをしちゃったりするけど、そこが人間らしいでしょう?」
「ドジはしないよ」
「ふふ、だといいけど」
「いや、ドジじゃないって」
「そうね、そうね」
「遺伝じゃないかな」
お母さんがへそを曲げた。ぷうっとほっぺをふくらませている。いまお父さんがテヘペロをしたら、きっと殴られる。
「じゃあ、スタイルは?もっと美人にしたり、ナイスバディにしたりできるんでしょう?」
「技術的には、もちろんできる」
「じゃあ、わたしの希望をいれてもらえる?」
「ごめんなさい。その余地はないの」
「どういうこと?」
「美結の体のデザインは、おれと恵令奈のゲノムがもとになって決まってるんだ。だから、できるけど、できない。
美結が美人過ぎたら、おれたちの子供だって思いづらくなるじゃないか。それにだ。最近はどんどん恵令奈に似て美人になってきたと思うぞ、おれは」
「いまごろゴマすっても遅い」
お父さんは首を折ってうなだれた。反省のためか、席を立って書斎に向かったようだった。
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