3章 王都冒険者編

第35話 王都到着

「おいレイリー!生きているかっ!?」


「大丈夫ですご主人様!軽い切り傷程度で済んでいます!」


 アンク家当主であるハリー・アンクに答えたのは、ここ最近レイリーの専属メイドに任命されたレベッカであった。


 現在突如として空から現れた鷲のモンスターに館を襲われ、館は半壊、使用人を含めた先頭のできる者たちはそれの撃退にあたっていた。


 鷲と言っても通常の鷲とは大きく異なり、胴体はライオンのようにしっかりとした体を持っており、翼はそれに比例して大きなサイズとなっていた。翼を広げたらそのサイズは馬車一台分ほどのサイズがあり、その巨躯から放たれる魔法の威力はAランク冒険者ハリーをして完全に防ぎきることは難しかった。


 それゆえ、その余波が屋敷の中で逃げ遅れていた3歳のレイリーにまで及び、屋敷は半壊、レイリーは軽傷を負うことになったのだった。


「皆の者!時間を稼げ!俺が極大魔術で一撃のうちに屠ってやる!」


 ハリーは使用人たちにそういうとすぐに強力な魔法を打つ準備に取り掛かり始める。


 その間10人ほどいる使用人は、巨大な爪による攻撃や、口から吐き出される高火力の魔法を身を挺して受け止める。彼ら使用人は使用人としての働きもそうだが、戦闘力という面からみても一流だということでハリーが直々に雇った面々である。その実力は上級に位置付けられるBランク冒険者ほどのもので、決して弱い者たちではなかった。


 しかし、時間が経つにつれて彼らは劣勢に追い込まれ、ついには死者を出してしまう。


「まだだ!あと少し!あと少しで旦那様の魔法が完成する!それまで皆耐えるんだ!」


 それでも使用人たちは逃げ出そうとはしない。彼らは雇われる前から少なからずハリーに恩を感じている人間であり、普段普通の使用人より高額な報酬の下で働かせてもらっていることから、雇われてからもハリーに恩を感じている者たちだ。


 そして、彼らの頑張りが身を結び、とうとうハリーの魔法が完成する。


「できたぞ!お前ら離れろ!行くぞ、『炎呪の炎会』!!」


 ハリーが魔法を唱えた直後、ハリーの目の前一キロ四方が燃え上がり、まるで炎の海のような非現実的な光景を作り出す。


 鷲型のモンスターは突如として出現した炎の床に一瞬驚いたような表情をしたが、すぐにその自慢の羽で地面から飛びのこうとした。


 しかし、その目論見は地面から延びるようにして出現した炎でできた手によって妨害された。急に自由に飛べなくなったことにいら立ちを感じたのか、鷲は炎の手をほどくために口から鋭い風魔法を連続で発射し断ち切ろうと考え……その直後に、爆発的に膨れ上がった炎の手によって全身を炎に焼かれた。


「ふん!モンスターごときがそれから逃げられると思うなよ。その炎は自由自在にステージ上を踊り、その自由を妨害されたとき、自爆をすることで自由を得ようとする炎の生命体のようなものだ。もちろん彼らのステージから許可なく降りることも許されん。まさしく呪われた宴会といえよう。」


 自慢げに自分の魔法の効果を語るハリー。


 そう、鷲が突如として火だるまとされた理由は、炎の手は逃げないように鷲の足首をつかんでいたいという意思を持っていたにもかかわらず、その意思をまさに断ち切るようにして妨害してしまったからである。


 その後も鷲はその炎のステージから逃げるためにあらゆる手段を尽くしていたが、とうとう全身を炎により燃えつくされ、息絶えてしまった。


「モンスターは討伐された!至急負傷した人間の手当てと、消火活動にかかれ!これ以上被害を拡大させるな!」


 こうしてアンク領に突如として現れた凶悪なモンスターは、小さくない被害を町に出しながらも無事討伐された。


 そして、この戦いの一部始終を、レイリーは草陰から食い入るようにして見ていた。本当はレベッカにもっと遠くへ逃げるように忠告されたのだが、どうしても見たいといって駄々をこねたのだ。


「おれも、あんなふうにつよくなりたい!」


 初めてレイリーが魔法という存在を知り、強さにあこがれたきっかけであった。




***

「いくおー、えんじゅおーえんあいー。」


「おいレイス!馬の上で器用に寝て、寝言まで言うんじゃねえ!起きろ!ほら、もう王都が見えてきたぞ!!」


「うーん?あれがおうと?ふーん。」


 寝ぼけたレイスが見たのは、町を取り囲む大きな防壁だった。かなり高さがあるために威圧感があり、初めての人は大抵圧倒されるのだが、ドミナスにも似たような外壁があったので、レイスはそこまで圧倒されなかった。そして、入り口は門に並ぶ大量の人で見えなくなっているため、中を覗くことはできなかった。


「本当しけてんなお前。こういうのはとりあえず子どもらしく騒いどきゃいいんだよ。まあ、ドミナスも壁で覆われていたからな。その点では一緒かもしれん。でもな、この中は全然違うぞ。楽しみにしとけ!」


「そうするよ。まあ一番気になるのは自分の家のことだけど。」


 もう起きて頭が回り始めたのか、呂律も回り始めしっかり話し始める。


「ああ、2番隊隊長の別荘だっけ?いいよな、俺も豪邸に泊まってみたかったぜ。」


「豪邸かは分からないけどね。気になるなら来たらいいじゃん。」


「うーん。じゃあ礼儀正しそうな家じゃなかったら呼んでくれよ!」


「まあ、それでいいか。というか、僕が主になるからそこまで堅くなることはないと思うけどね。」


 レイスは王都に来る際に、約束の履行をしてもらっている。約束とは、『私に最適なプランを教えていただけたら、そしてそれに向けてのサポートをしていただければと』の部分の『サポート』の部分だ。王都に行って軍の学校に入るから、寮に入るまで衣食住を提供してくれといったらすんなり通ったのだ。


「とりあえず、こっちから中入るぞ。」


「え?この長蛇の列に並ばなくていいんですか?」


 門から伸びる人の列を見ながらレイスはリーダーのカミュに問いかける。


「ああ、あれは一般人用出入り口に並ぶ奴らだ。王都は3つ門がある。一つが一般人用、二つ目が冒険者・兵士用、三つ目が貴族・王族用だ。俺たちはあの冒険者用の門をくぐることになってる。」


 カミュはそう言うと、長蛇の列の最前近くまで行き、一般人が通る門のすぐ隣にある門のところに近づく。


「冒険者の方はギルドカードを提示してください。」


 門の近くに立っていた若い男性兵士の一人がカミュたちを見て淡々とした口調でそう言う。


「こうやって門のところに来たら、門番にギルドカードを提示するんだ。そしたら門番から通行の許可が下りる。覚えとけよ。」


 カミュは初めて門をくぐるレイスにわざわざ説明してくれる。門番の人はそれを聞いて、少し微笑ましい顔をする。


「君は王都初めてなんだね。王都は見たことないものがいっぱいあるから、たくさん楽しんでね。」


「……!はい!ありがとうございます!」


 レイスは門番さんの丁寧な対応に少し驚くとともに感心した。これほど気の利いた言葉は心に余裕があるものしか出てこない。王都の門番という仕事はかなり大変なはずなのに余裕があるということは、よっぽど健全な職場なのだろうと思ったからだ。


 そしてレイスは初めて王都の門をくぐる。


「うわあ。……すごい。」


 レイスは王都の光景を見て圧倒された。


 まず建物。アンク領では2階建ての建物までしかなかったにもかかわらず、王都の建物はほとんど家が3階建て。屋根の色は赤系統の色で統一されており、壁は白や明るい茶色のような色で作られている。そしてそれらの家が、綺麗に整備されており、中央にそびえたつ城に向かって、徐々に上り坂になっている道の両側に並び立っている。まさに絶景といえる。

 そして、窓はガラスでできている。アンク領では治安が良くないのとモンスターの襲撃があるのとで全く需要がなかったガラスだが、王都はその両方がある程度対策されているためかガラスがほとんどの家で使われている。


 次に人。アンク領より人の数は多く、皆おしゃれで、活気に満ちた顔をしてる。レイスの目の前でどの野菜を買おうか悩んでいる女性は、店員の男と和気あいあいと談笑しながらどの野菜を買うかを決めている。別の場所で小物の類を買おうとしている女性もまた、連れの男性や店員と楽しそうに話し合いながら商品を見ている。ほんとにすべての人が活気に満ちている。


「どうだ?ここは王都でも西側で、市民の中でもある程度裕福な人間が住んでいる場所だから活気にあふれてるんだよ。ちなみに、南は貴族のエリア、西は学校や軍事施設などの公共施設とかなんか堅苦しそうな建物のエリア、北は一般的な平民のエリアだ。ちなみに、冒険者ギルドがあるのは北側だ。理由は簡単だ。北にはモンスターがうようよしている森があり、もし氾濫が起きてもその進行を早急に止めるためだな。」


「なるほど。教えてくれてありがとね。」


「他にも分からないことがあれば聞けよ。とりあえず、今からはギルドへ向かうぞ。依頼達成の報告をしなきゃいけねえからな。」


 カミュはそう言うと北側に向かって歩いていく。レイスはその後ろをついていきながら心をわくわくさせていた。


(今日からここに住むのかあ!刺激がたくさんありそうでほんとに楽しみだ!)


 レイスはこれから半年間は冒険者として活動し、その後3年間は軍の大学校に入学する予定であるので、少なくとも3年半はこの王都にいることになる。そして、たくさんの刺激をこの王都で受けることになる。


 もちろん良くも悪くも。




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